さて、ここ数年であらゆるシーンにおいての「服装のカジュアル化」が、結構な勢いで進んでいると40代以上の皆さんは実感しているのではないでしょうか? 現在50代前半の僕の場合で考えても、例えば15年前に65歳で亡くなった僕の父親は、僕が知る限り一度もジーンズを穿くことなくその生涯を終えたわけです。実際、父は休日も夏ならコットン、冬ならツイードのジャケットにプレスしたシャツとトラウザーズを合わせ、足元は常に革靴で……とか書くと洒落た初老の紳士の装いを思い浮かべられるかもしれませんが、実際は母親が西友とかヨーカ堂で安売りしているものを着せていたわけですけれど。まあ、とにかく、僕の父親世代にとっては前述のジャケットにシャツ、トラウザーズといった服装が「普通」であって、ジーンズやスニーカーは目新しいお洒落なアイテムであり、Tシャツは「肌着」、スウェットシャツは「寝巻き」くらいの認識だったと思います。ところが、周知のようにTシャツ、スウェットは今や立派なファッションアイテム、それどころか、以前の記事でも述べたようにラグジュアリーブランドの主力商品になってしまったわけです。で、何が言いたいかというと、Tシャツ、スウェットが、それぞれ「肌着」、「寝巻き」から「ストリート感覚のお洒落着」となったように、誰にとっても馴染み深いスタンダードなアイテムも、時代とともにそれが持つ「意味」や「ポジション」が変化するということなんですね。そして、その顕著な例が昨今における「シャツ」の「ポジション変更」ではないか、というのが今回の論旨であり、結論を先に言うと、現在、「シャツはアウターである」というのが僕の考えなのです。


この「シャツはアウターである」という結論、女性からすると「当たり前のことを偉そうに」くらいに思われるでしょうけれど、なまじ、学生時代から、そして社会人になっても日常的にシャツを身につけてきている男性にとっては意外と盲点なんじゃないかと思うんです。逆を言うと、カジュアル派の女性にとってのシャツは、もはや完全に「羽織もの」。そして、この「羽織もの」感覚がメンズも含めた時代のスタンダードとしてのシャツのポジションで間違いないと思うのです。



実際、多くのブランド、デザイナーが秋冬のコレクションにシャツの仕様、デザインだけれど、どう考えてもアウターとして着るしかないアイテム、いわゆる「シャツジャケット」をラインナップさせています。また、そもそも丈の短いカジュアルなアウターの総称として使われる「ブルゾン」とは「裾の短いブラウス」を意味するフランス語に由来するとのことで、こうなるとシャツとブルゾンの厳密な区別はもともと無いということになります(前述の「シャツジャケット」もブランドによってはシャツのカテゴリに入れていたりしますし)。



そして、ピークは過ぎたように思えども、引き続きのオーバーサイズブーム。とりあえず、Tシャツの上から大きめのシャツをバサッと羽織って軽く袖をまくれば、トレンド感も十分に含んだ「シックな大人の夏カジュアル」に見えてしまうのだから、ありがたいわけです。ちなみにこれがオーバーサイズのTシャツだと、トレンド感が強過ぎて、着こなしのイメージが限定されてしまうように思います。やっぱりシャツの仕立てによる立体感がシックで大人っぽい雰囲気を出してくれるんですよね。



が、しかし。これまで述べてきた「シャツのアウター化」もかなり浸透していて、とりあえず「デカいシャツ」を着てればOKという雰囲気になってしまっても新鮮味がないというか、むしろ、若干アウター感を控えめにするほうがお洒落に見えるのでは? というのが、今回の逆張りポイント。つまり、基本に戻り、「あ、普通のシャツをアウターっぽく着こなしてるんだなー」という感じに見えるのがベスト。ちょっと言ってることわかりづらいとは思いますが、要はトレンドのオーバーサイズとは若干趣を変えて、あくまでジャストサイズのシャツをアウター的に見せたいわけです。だって、それが本稿のタイトルにしてコンセプトである“逆張り”と“偏愛”ってものでしょう(しつこいようで恐縮ですが)。

で、そんな着こなしにオススメなのが、何と言っても「デニムシャツ」。デニムの持つラギッド=無骨なムードが放っておいてもアウターっぽさを醸し出すのです。また写真デニムのように上下の合わせも当然オススメ。色落ちしたデニム同士の組み合わせる際はシャツの方が淡い色合いであればチープな雰囲気や野暮ったいムードは、まず出ないはずですです。そして、この春夏、僕が気に入っているのはアーミーテイストのワークシャツ。ベージュのヘリンボーンというラギッド感満載である一方、逆に言えばチャラさはゼロ。なので、ロゴだらけで無駄にサイズのデカい、なんかこういちいちチャラついた服が目につく今、意外とシックに見えるんですよ。もちろん、黒やオリーブ、ネイビーなんかも良い感じですが、なんとなく今年はやっぱりベージュかなあ、と。

というわけで、今回はややとりとめのない内容ですが、ポイントは

  • 現在、カジュアルなシャツはアウターのポジションにある。
  • オーバーサイズ全盛の今だからこそ、あえてジャストサイズのシャツを選んでみたい。
  • ただし、ジャストであっても①の通り「アウター」っぽく見えるもの=デニムシャツ、ワークシャツ等をチョイス。

というのが、今回のまとめ。

みなさん、お楽しみいただけましたか?

このデニムシャツはフランクアンドアイリーンの「LUKE」というモデル。身幅が広めで着丈が若干短めなので、サイズ選びは着丈で合わせて、腰が隠れるくらいをチョイスが良いかと。

すっかりお気に入りブランドとなったバズリクソンのワークシャツ。フラップ付きのダブルポケットというのが良いですねー。胸ポケットのボタンを片方だけ外してるのはワザとなんですが、果たして意味あったかな(笑)。



鈴木哲也 Tetsuya Suzuki

編集者/プロデューサー

株式会社アップリンク、株式会社宝島社を経て、2005年に株式会社ハニカムを設立し、同社の運営するwebメディア『honeyee.com』の編集長に就任(2011年からは同社の代表取締役も兼任)。2017年、株式会社ハニカム代表取締役並びにwebメディア『honeyee.com』編集長を退任。

現在は執筆、各種コンテンツ制作のほか、企業・ブランド・書籍・メディア等のプロデュース/ディレクションを行う。

著書に『2D(Double Decade of pop life in tokyo)僕が見た「90年代」のポップカルチャー』(mo’des book)

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