さて、ついに第5回を迎え、俄然、調子が出てきたこの連載なのですが、お読みくださっている皆さんの中には、「お洒落とは」などと大上段から振りかぶっているタイトルの割には、「扱っているネタが地味じゃない?」と、やや訝しんでいらっしゃる向きもあるのではないと、ちょっとだけ心配になっているのですが……。
実際、それはある意味鋭いというか、正しい指摘で、やっぱり僕が好きなスタイルというのが、その時々のファッショントレンドを意識しつつ、トラディショナルなアイテムを、それが持つ歴史や意味、そして機能を知った上でコーディネートするというのが最高にお洒落なのではないかと考えているからなんです。
で、そんな風に考えるようになった結果、僕のスタイリングのテーマは常に、“やりすぎず、やらなすぎず”とかっていう、これまたなんともややこしいことにはなってくるのですが、そんな“ややこしさ”をズバッと解決してくれるアイテムが、実は帽子なのです。
簡単な例を挙げると、クルーネックのセーターにジーンズ、ローファーといった、まあ、ダサくはないかもしれないけれど、特別にファッションを意識しているとも思えないコーディネートにも帽子を加えるだけで、一気に“スタイリングしてる感”が出てくる、つまり、ファッションっぽく見えてくるわけですね。しかも、この帽子もなにか特別にデザインされたものというより、ベースボールキヤップやニットキャップ、最近の流行りだとバケットハットといったどこにでもあるような帽子の方が雰囲気が自然に出て「お、ファッション、わかってるじゃん」みたいな感じがしてくると僕は思うのです。また特に男性の場合は髪型とファッションの兼ね合いという微妙で奥深い問題が、主にカジュアルなシーンで持ち上がりがちだと思うのですが、これも帽子で一発解決できるわけです。
というわけで、帽子は実に便利で頼れるアイテムなのですが、その辺の事情を薄々理解しつつも、どうしても抵抗がある、あるいは自分は似合わない、などと思っている人が少なからずいるというのも、なんとなくわかるのです。結局、帽子って無きゃ無いで困らないというか、実際のところ炎天下の熱中症対策か厳冬期の防寒以外、大して実用性ないですからね。どのタイミングでどう被るのが自然なのかと考えだすと判断が難しくなるのは至極当然とも言えるのです。
だから逆に言えば、季節やシチュエーションを意識しすぎず、気分で被っちゃうのが良いんですけど、前述のようにそれが“ファッションに見える”には、少々コツがあるように思います。
まあ、コツと言ってもものすごく単純で、拍子抜けするほど簡単だし、「そんなの知ってたよ」という方も多いのではないかと思うのですが、そのコツこそが本稿のタイトル。「帽子とトップス(ないし、アウター)の色を合わせれば、大抵は上手く行く」なのです。
そして、その合わせが、白や黒ではなく、中間色同士なんかだと、かなりお洒落。さらに赤や黄色といったビビッドな色でコーディネートすると、もはや完全にファッショニスタ(って言い方、もう使わないかな?)。
そんなわけで、参考例として恥ずかしながらワタクシのポートレートをご覧いただくとしましょう。まずは夏向きのコットン製ベレー帽。で、ベレー帽って若い女性ならいざ知らず、中高年男性が被るとなると、なんとなく気恥ずかしい姿になりそうですが、無難に黒をチョイスして、シャツも黒にすれば……、ほら、意外と自然で、ヤラシイ感じはしないでしょ? この格好で人に会っても相手がファッションに無頓着な人なら、後日この写真を見て「あれ? 鈴木くん、あの日、帽子かぶってたんだ?」くらいのリアクションになるんじゃないかな(いや、それは言い過ぎか)。
で、この「帽子はトップスの色と合わせれば、大抵は上手く行く」というセオリーを応用すれば、帽子入門のアイテムとして最適であろうベースボールキャップも、こんな感じに収まりますとうのが写真にあるネイビー系の組み合わせ。これなら前回登場した色落ちしたデニムシャツを肩から掛けてみても邪魔くさくなく、まとまりは良いですね。ネイビーの中に着た白のTシャツと帽子のワンポイントの白がリンクしているのも効果アリ。
となると、「じゃあ、帽子を含めて全身をワントーンでまとめたら、良いってこと?」と取られそうですが、まあ、それも良いんですが、色を合わせるのは帽子とトップスだけにして、あとは適当に色を散らすと、今度は帽子の存在感が良い塩梅で際立つというサンプルが、グレー編。実はこのグレーの帽子、素材はウールで言ってみれば冬物なんですが、なんか、そのミスマッチが逆にファッションっぽく見えると僕は感じるのですが、どうでしょう? ただ、それもトップスのTシャツと色が揃っているから自然に見えるわけで、黒やネイビーのウールだと、やっぱり帽子だけ重く感じるような気がします。というわけで、この「帽子とトップスの色を合わせる」というセオリー、当然、ニットキャップとセーターといった冬のコーディネートにも使えますので、ぜひ活用してみてください。
ところで、今回の記事の冒頭で、僕が好きなのは、
【現在のトレンドを意識しつつ、トラディショナルな服を、そのアイテムの持つ歴史や意味、そして機能を知った上でチョイスする】
ことで成り立つスタイルだと述べたわけですがそれは、“スタンダード”とか“ベーシック”とはまた違った、 “ロウプロファイル(Low Profile)”というワードに集約されるような気がしています。そして、このロウプロファイルという、直訳すると“控えめな”とか、“目立たない”とかという意味になる言葉が近い将来そのままファッションの一つのジャンルとなるのではないかとなどと考えながら、日々の服を選ぶのが楽しかったります。ロウプロファイルって、言葉の響きもなんか良いでしょ? というわけで、このことについての話は、また後日。
鈴木哲也 Tetsuya Suzuki
編集者/プロデューサー
株式会社アップリンク、株式会社宝島社を経て、2005年に株式会社ハニカムを設立し、同社の運営するwebメディア『honeyee.com』の編集長に就任(2011年からは同社の代表取締役も兼任)。2017年、株式会社ハニカム代表取締役並びにwebメディア『honeyee.com』編集長を退任。
現在は執筆、各種コンテンツ制作のほか、企業・ブランド・書籍・メディア等のプロデュース/ディレクションを行う。
著書に『2D(Double Decade of pop life in tokyo)僕が見た「90年代」のポップカルチャー』(mo’des book)