東京・お台場で人気を集めてきたデジタルアート・ミュージアム「チームラボボーダレス」が、昨年11月港区にオープンした麻布台ヒルズに移転、今年2月9日にグランドオープンした。境界のないアートを連続して構成した「地図のないミュージアム」という発想を受け継ぎつつ、世界初公開の新作を加えて進化した作品群で登場。早くも国内外から大きな注目を集めている。

麻布台ヒルズ外観

ここ麻布台ヒルズには、オラファー・エリアソンや、奈良美智といった世界的な美術家のパブリックアートに加え、麻布台ヒルズギャラリーをはじめとした数々のアートスペースを用意。街全体がミュージアムであるかのような発見がいくつもインストールされていて楽しい。

チームラボ《Light Vortex》© チームラボ

そのシンボルともいえるのがこの「チームラボボーダレス」だろう。東京メトロ日比谷線と南北線に直結した麻布台ヒルズで「神谷町」駅からほど近いガーデンプラザB内に誕生。もともと外国人居住者の多い土地柄もあって、多くの観光客をふくめた国際色豊かなビジターがここを訪れている。

この新しいミュージアムをより深く知るために、「チームラボ」について少しおさらいしておいたほうがいいかもしれない。彼らは2001年に活動を開始。アーティストやプログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家などあらゆる専門家による集団的創造を通じて、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的、かつ学際的な集団と自らを位置づける。

お台場の「チームラボボーダレス」は、単一のアート・グループでは世界で最も来館者の多い美術館として2019年に世界記録を達成。さらに米国のTIME誌における「世界で最も素晴らしい場所 2019年版」にも選出されるなど、国際的な高い評価を得てきた。

チームラボ《花と人、コントロールできないけれども共に生きる – A Whole Year per Hour》、《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス:境界を越えて飛ぶ》© チームラボ

約560台ものプロジェクターと数百台といわれるコンピュータ、センサー等を駆使して展開される「チームラボボーダレス」。光や音を使ったデジタルアートといっても、イベントやライブで展開されるプロジェクションマッピングのようなものとはまったく違う世界がそこには広がっている。アートを観るというよりは、いままでほかのどこでも見たことのない景色や空間の状態の体験。言葉では説明ができないほどの新鮮な感覚がそこには待っていた。

チームラボ《人間はカメラのように世界を見ていない》 エントランス「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」東京 麻布台ヒルズ © チームラボ

この写真は「チームラボボーダレス」ミュージアムのエントランス。指定された場所に立って先を見ると空中に文字が浮かび上がる・・・、のかと思いきや、実は肉眼で見てもこうは見えない。ところが同じ場所から手持ちのカメラで見ると文字は浮かんで見える。「人間はレンズのように世界を見ていない」ことをまず感じることから、別世界が始まるという仕掛けだ。

グループに分かれて階下に進むと、そこからは見取り図も順路もないまさに「ボーダレス」なアートの中へ。一度足を踏み入れたら、ここではすべての疑念や遠慮、大人であるという意識を捨てて、子どもになったような気持ちで景色に没入し、光や、飛び交う蝶や舞い降りてくる文字に手を伸ばしてふれてみたい。

チームラボ《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス:境界を越えて飛ぶ》© チームラボ

私たちがよく知る美術作品とはまったく違う、刻一刻に変化し、ビジターの動きに反応し、作品と作品のあいだでイメージが行き来するアート。奥へ進み、境界なく連続する世界の中で、私たちはさまよい、探索し、発見する。空間を移るごとに異なる体験が身体を包み込んでいく。

チームラボ《Infinite Crystal World》© チームラボ
チームラボ《地形の記憶》、《境界のない群蝶 – 地形の記憶(仮)》© チームラボ

なかでも衝撃的だったのは、光の彫刻「Light Sculpture – Flow」シリーズを閉じ込めたスペースだ。

《Light Vortex》「Light Sculpture – Flow」シリーズ(筆者撮影)

新作の《Light Vortex》をはじめ、20以上の光の彫刻作品が連続的に投影され、流れ出す光が押し寄せ、広がり、見る人を飲み込んでいく作品空間。現実世界とミラーが生みだす「非対称宇宙」と呼ばれる空間で、まさしく宇宙を感じ、心が吸い込まれ、そこから離れられなくなる。

「なぜ、海の渦に存在を感じるのか?それを生命にすら感じるのか?」とこの作品のコンセプトには語られている。確かに海の中で同じ水が混じりあっているだけなのに、そこに「渦」という秩序が形成されたとき、私たちはその動きやうねりを生命のように感じる。それと同じように、ここでは流れ出る光の集合体が、境界が曖昧なままある秩序を生み出し生命的な宇宙を創りだす。無数のライトとミラーがそれを構成しているはずなのだが、ミラーに映っているはずの対象物はないという不思議・・・。チームラボ代表の猪子寿之氏にさえも「もう空間がどうなっているか、全くわからない」と言わしめるその複雑なテクノロジーと創造性に、驚きと感動がとまらない。

チームラボ《彩色球体》© チームラボ
チームラボ《Birth》© チームラボ

さらにいろいろな発見を重ねながらさまよっていくと、私たちはふと壮大な円形空間に入り込む。その中央は丘のような地面を形成し、そこに滝が流れ落ちている。ここでは4つの異なる作品を体験でき、足もとを流れる水の上に立つと流れが変化したり、壁に触れるとそこに花々が広がり、壁をつたう漢字に触れれば光を放って消え、蝶は自在にほかの部屋へと飛んでいく。ただそこにいるだけでも見とれるばかりの光景なのだが、自分が作品にコンタクトすることでそれと一体となるような不思議な感覚に包まれる。

チームラボ《人々のための岩に憑依する滝》、《世界はこんなにもやさしくうつくしい》、《花と人、コントロールできないけれども共に生きる – A Whole Year per Hour》© チームラボ

少し大げさに聞こえるかもしれないが、この「チームラボボーダレス」の体験を通じて感じるのは、花や蝶に象徴される生と死の連続、そして水の流れ、季節の移り変わりのように永遠を感じる時の流れの中で存在するすべての生命に向けた賛辞だろうか。

たとえば《生命は生命の力で生きているII》の作品の説明にはこうある。

「自然の恵みも脅威も、そして文明の恵みも脅威も、連続的で、つながっている。どこかに絶対的な悪意があるわけでもなければ、かといって綺麗ごとでもすまされない。わかりやすい解などないし、感情すら整理できないかもしれない。それでも、あらゆる状況においても“生きる”それを全部肯定したい。生命はうつくしい」

チームラボ《永遠の今の中で連続する生と死 II》© チームラボ

いま私たちがいる現実の時間や都市の時間、花や生物の生と死が繰り返される時間、永遠の時間とはかない一瞬の時間、すべてがボーダレスに交差し、重なりあい、変化する。だからこそここにある作品も、すべてが交錯し、影響しあい、変化し続け、そして同じ風景を見ることは二度とない・・・。もしかしたら、私たちはここで「世界」そのものを体験しているのかもしれない。

歴史上、画家や彫刻家といったアーティストたちは、さまざまな作品や芸術運動を通じて、人間のモノの見方や世界の見え方を変えてきた。チームラボ代表の猪子寿之氏も、彼らのプロジェクトの始まりに関して「世界をどう認識しているのか知りたかった」のだと語る。「チームラボボーダレス」が人々の心を惹きつけてやまないのは、ただそれが新しいテクノロジーによる光と音のスペクタクルではなく、そこに見たことのない発見があり、そして自分がその「世界」の一部であると感じ、その世界に少しでも触れることができる新しいアートの形だからかもしれない。

いくら言葉を尽くしても、作品にかなうことはない。何はともあれ、まずは体験することをおすすめしたい。

森ビル デジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス

会場:麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1(東京都港区麻布台1-2-4)

開館時間:10:00〜21:00 ※最終入館は閉館の1時間前 

※開館時間が変更になる場合がございます。公式ウェブサイトをご確認ください。

休館日:第一・第三火曜日

※休館日が変更になる場合がございます。公式ウェブサイトをご確認ください。

詳しくは公式ウェブサイト

https://www.teamlab.art/jp/e/borderless-azabudai/

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