まだまだ暑い日が、というか、猛暑が続く今日この頃ですが、それでも、やっぱり秋はやって来るわけです。うん、そのはず。間違いない。でも、ひょっとして来なかったらどうしよう、いやいや、さすがに秋が来ないってことはないだろ、だって、そうなったら、もうオシャレどころじゃないもんね、そしたら、この連載も中止だな、などと独り言がブツクサと口を突いてしまうほど、日々の酷暑にやられているワタクシですが、それでも、物欲もとい、オシャレ欲は旺盛であることに、我ながら驚いちゃって……って、何を言いたいかと言うと「ダブルのライダースが欲しい」のです。


いや、実は持っているんですけどね、いわゆるロンジャンと言われるUK仕様の着丈長めのタイプのダブルのライダースジャケット。しかも黒とネイビーの色違いで。まあ、それを言ったら、シングルのライダースも2着持ってるし、トラッカータイプも黒のレザーとキャメルのスエードもあって、他にもヴィンテージ風のデザイナーもののレザージャケットも2、3着持っていたりして、「流石に革ジャンはもう要らないか」って自分でも思うわけですが、それでも、映画やドラマ、あるいはミュージシャンのMVなんかでカッコいい着こなしを目にしてしまうと、やっぱり、気になってしょうがなくなるんですよね、革ジャンって。


で、今回、僕の革ジャン熱に火を付けたのは、久々に観直したドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』の主人公であるジェシカ・ジョーンズ役のクリステン・リッターさんのライダースの着こなし。女性なんですけどね、これにやられてしまった。このドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』の説明を簡単にすると、元々はマーベル・シネマティック・ユニバースをNetflixで展開するにあたり、『デアデビル』『パニッシャー』などと一緒にシリーズ化されて2015年〜2019年まで配信された、いわゆる“スーパーヒーロー”もののドラマ。けれど、内容は至って大人向きで、なんとR18+指定。私立探偵であるジェシカが、持ち前の“怪力”を発揮しながら謎めいたヴィランと心理戦を繰り広げる姿をダークなサイコスリラーとして描いているのですが、シリーズを通底するテーマとして女性の心理の暗い部分や心の傷を扱っていて、ジェシカ自身も男性からのDVによる深刻なトラウマがあり、アルコール依存でアンガーマネジメントに問題を抱えている女性という、マーベルのスーパーヒーローの中でもかなり異色の設定なのです。女性とはいえ、そんな主人公ですから物語の世界観は超ハードボイルド。そして、彼女の凛々しいライダース姿は、ドラマの雰囲気を雄弁に物語っているのです(ちなみにマーベルがディズニー傘下に入ったのに伴い、現在『ジェシカ・ジョーンズ』はDisney+で視聴できます)。





このジェシカ・ジョーンズ=クリステン・リッターさんが、劇中で常に着用しているライダースは着丈がやや短めで、肩部分にはエポレット付き。ざっくりタイプ分けすれば、「ワンスター」でお馴染みのSchottのダブルライダースにインスパイアされたモデルだと言えると思うのです(ただし、実際に彼女が着用しているのはレディースのファッションブランドのものではないかと推測しますが)。ちなみに、「ライダースジャケット」という表現は日本でしか使われないようで、海外のサイトなんかだと大体「Biker Jacket」とか「Moto Jacket」「Motor Cycle Jacket」と表記されてます。


ともあれ、『ジェシカ・ジョーンズ』のおかげで、この「ワンスター」的な革ジャンが急にカッコよく見え始めてしまったわけです。それまで「ワンスター」と言えば、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスやラモーンズのメンバーといったロックンロールなイメージ、あるいは、映画『乱暴者(あばれもの)』のマーロン・ブラントに始まるワイルドなバイカーのイメージが強く、どちらかと言えばナーディな自分には似合わないと思っていたんです。ところが、クリステン・リッターさんの着こなしを見るうちに、僕でもイケるような気がしてきたという。


女性の着こなしを見て、オッサンの自分に置き換えるというのは妙な感じがするかもしれませんが、よくよく考えれば、今、普段着としてダブルのライダースを着ているのは圧倒的に女性なんですよね。男で着ている人って実は少数派なわけです。これはトレンチコートなんかにも言えることですが、本来、メンズのアイテムとされていたものが、いつの間にか女性の定番アイテムになっているという現象がチラホラあるんですね。最近だとダブルの金ボタンブレザーなんかも女性の方が着てる人、多いでしょ。そんな風に男臭かったり、オッサンぽかったりするアイテムが、女性の定番アイテムとして“再生”された結果、なぜか洗練された雰囲気を醸し出すなんて言ったら、もうほとんど、“錯覚”を疑われるレベルの話ですが、でも、それって、やっぱりあると思うんです。実際、『ジェシカ・ジョーンズ』の視聴後、改めて、ピストルズのMVを見るとシドのライダースもワイルドなロックンローラーのイメージを離れて、「程よくデコラティブなデザインが施されたアウター」くらいの感じに見えくるのです。





(念のため記すと、向かって左側のベーシストがシド・ヴィシャス。向かって右のギターのスティーブ・ジョーンズのライダース姿はなぜか、やっぱり野暮ったいのですが)


そんなわけで、秋に向けて「ワンスター」を買っちゃおうかなぁと思っているワタクシですが、革ジャンを快適に着られる時期って、実は意外と短いんですよね。それなのに何着も持っててどうするの?と自問しつつ、でも、やっぱり買っちゃうのかなあ(もし、手に入れたらこのコラムでご報告しますね)。


最後に、僕の憧れの革ジャンスタイルとして、このMVを。





繊細で内省的な不良少年たち。この頃のジーザス&メリーチェインって、まんま、サンローラン時代のエディ・スリマンの世界観なんですよね。


*ギターのハウリングノイズが激しいので、再生する時は音量にご注意を!




鈴木哲也 Tetsuya Suzuki

編集者/プロデューサー

株式会社アップリンク、株式会社宝島社を経て、2005年に株式会社ハニカムを設立し、同社の運営するwebメディア『honeyee.com』の編集長に就任(2011年からは同社の代表取締役も兼任)。2017年、株式会社ハニカム代表取締役並びにwebメディア『honeyee.com』編集長を退任。

現在は執筆、各種コンテンツ制作のほか、企業・ブランド・書籍・メディア等のプロデュース/ディレクションを行う。

著書に『2D(Double Decade of pop life in tokyo)僕が見た「90年代」のポップカルチャー』(mo’des book)



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