さて今回は、おそらく皆さんも薄っすら気になっていそうな「いつまでスニーカーブームなの?」という点について考えてみましょう。ここ数年、世界的なファッションシーンは、年代・性別を越えて拡大するスニーカー需要をどのように消化/昇華するかという試行錯誤によってトレンドが形成されてきた側面が確かにあると思います。簡単に言うと、流行りのボリューム感のあるスニーカーに似合う服を作ることをメンズ、レディースを問わず、ほぼすべてのブランドが意識していたように思うのです。その結果、ストリート系はもとより、モード/ハイファッション系も含め、どのブランドもロゴの入ったスウェットやTシャツが主力商品になってしまったような……。

そのことの是非はともかく、足元は「とりあえずスニーカー」というのも、なんだか飽きてきたし、ブーム加熱の要因の一つでもある「人気モデルのセカンダリーでの高騰」の結果、自分の履いているスニーカーのレア度や人気度、場合によってはプレミア具合を常に誰かに“値踏み”されているような気もしてきて、なんだかスニーカーが面倒臭いことになってしまったように思いもするわけです(この辺の事情は、前々回の記事で扱った時計ブームと全く一緒ですね)。そうなると、僕の場合はすぐさま「逆張りの法則」が働き、トラディショナルな“革靴”こそが、ポストスニーカー(=脱スニーカー)的フットウェアの最有力候補ではないか、むしろ、そうであって欲しいなどと考えてしまうのです。

ところで、この“革靴”という表現、これは「レザーで作られたシューズ」という文字通りの意味を越えて、暗に“ドレスシューズ”というニュアンスも含んでいるように思うのですが、いわゆる革靴がカジュアルなスタイルと縁遠いかと言うと当然そんなことはなく、そもそも、19世紀イギリスの上流階級は革製の編み上げブーツで山や湿地帯に入り、ハンティングを嗜んでいたわけです。そう、これが英国王室御用達として知られるトリッカーズの名品、“カントリーブーツ”の由来です。実際、トリッカーズのカントリーブーツに特徴的なアッパーにある“穴”で作られたメダリオンと呼ばれる模様、あれは装飾的なデザインではなく、水に濡れた時にあの穴から靴の中の水分を逃すために施されたものとのこと。つまり、雨の日に履いても大丈夫というわけです。もちろん、トリッカーズのカントリーブーツはそうしたアウトドアシーンでの着用を目的に開発されているため荒っぽい履き方にも十分耐えうるわけですが、それに限らず、トラディショナルな革靴は、本来、丈夫で機能的なのです。特にビブラムやダイナイトといったゴム製のソールの靴であれば、雨の日であってもまったく問題ありません(レザーソールにゴムを貼るのでも十分です)。

そして、なんといっても革靴は長持ちします。現に僕自身、つま先やかかとの補修を繰り返し、時にはソール交換や丸洗い(自分でやったりもします)を経て、かれこれ10年以上履いている革靴がいくつかあります。そう考えると、革靴の方がスニーカーより断然タフで、コストパフォーマンスも良く、いわばサステナブルでもあるのです。また、ちょこちょこと手入れをしながらエイジング(経年変化)を楽しむという革靴の醍醐味は、プレミアのついたレアなスニーカーを手に入れる優越感とはまた違った、ジワっとした満足感を与えてくれます。もう、これ以上に「偏愛の対象」に相応しいものなんて、そうそうないでしょう。

と、ここまで読んでいただければ、僕がちょっとした“革靴愛好家”であることは、みなさん、お気づきかと思いますが、そうした個人的な嗜好を差っ引いた純粋なトレンド予測としても、現在の古着ブームを経た後にコンサバとはまた違ったレベルでのトラッド回帰が若い世代を中心に来ると僕は踏んでいて(僕は密かに“ポストモダン・アメカジ”と呼んでいるのですが、この話は次回以降で詳しく)、そうした空気感にもしっくりくるのは、トラッド寄りの革靴やトラディショナルなワークシューズのバリエーションであろうと僕は確信しています。

実際、街行く人たちを見渡せば、すでに女性の間ではトラッドなニュアンスのローファー、なかでもキルトの付いたタッセルローファーが、特に若い世代の間でちょっとした流行となっているように見えます(カジュアル派の日本女性の多くが“トラッド好き”というのは、どうも世代を越えたもののようです)。一方、メンズ界においてのローファーはアメカジ派から、ちょいワルなイタリア系まで(テイストは若干違えど)、幅広く支持され続けている定番アイテム。そう考えると、トラッドなアイテムであっても、本来的にはカジュアルなシーン向きであるローファーこそが革靴のなかでも、「ポスト・スニーカー」の本命のような気がします。

というわけで、ローファーをはじめ、トラディショナルな“革靴”をパフォーマンス力の高いアイテムとして見直してみるというのは、いかがでしょうか。そうすれば、夏を過ぎ、秋が深まる頃にはくるぶしが隠れるくらいのチャッカブーツが、きっと欲しくなるはず。「ポスト・スニーカー」的な意味合いでいえば、ローカットとハイカットを履き分ける感覚です。そして、カジュアル感を強調したいなら、スエード素材をチョイス。ソフトな雰囲気がこなれた感じを醸し出すうえ、手入れも簡単です。実はスエードは雨にも強いので、梅雨時期にもオススメなのです。

クロケット&ジョーンズのタッセルローファー“CAVENDISH 3”。このモデルに採用された「ラスト375」は日本人向けに作られたということで、かかと部分のフィット感が強化されています。

左:チャーチ“FAIRFIELD”は無骨さと軽快さがミックスされたチャーチらしいカントリーシューズ。スエード素材にクレープソールとスニーカー感覚で履けます。

中:タッセルローファーはブルックスブラザーズがオールデンに製作を依頼したことから広まったそう。つまり、米国発祥なのです。

右:ブルックスブラザーズ×アレンエドモンズのチャッカーブーツは傷や汚れが目立たないグレインレザー製。荒っぽく履けます。(以上、すべて私物)


鈴木哲也 Tetsuya Suzuki

編集者/プロデューサー

株式会社アップリンク、株式会社宝島社を経て、2005年に株式会社ハニカムを設立し、同社の運営するwebメディア『honeyee.com』の編集長に就任(2011年からは同社の代表取締役も兼任)。2017年、株式会社ハニカム代表取締役並びにwebメディア『honeyee.com』編集長を退任。

現在は執筆、各種コンテンツ制作のほか、企業・ブランド・書籍・メディア等のプロデュース/ディレクションを行う。

著書に『2D(Double Decade of pop life in tokyo)僕が見た「90年代」のポップカルチャー』(mo’des book)

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