「アートを暮らしの中で愉しむ豊かさを伝えたい」
表参道や原宿にも近い渋谷区神宮前二丁目。表通りの喧噪から離れた静かな住宅街に「GALLERY RYO」はあります。建築家の三沢亮一さんが主宰するこのギャラリーは、まるで洗練された住空間のようなしつらえが特徴的。そこには、三沢さんの住まいとアートに対する思いが込められています。


「いつも、アートが人の暮らしの中でどのように感動を与えるのかを大切に考えています。建物だけで暮らしは完成しません。そこにアート作品やオブジェ、あるいは家具などが加わることで、初めてそこに住まう方の豊かなライフスタイルにつながるのだと感じています。白い壁に整然と作品を展示する一般的なギャラリーとは違う、生活空間の中にあるアートの愉しさを、この小さなギャラリーによってお伝えできたらと思っています」

ここでアートを眺めていると、自分の部屋においたらどう映えるだろうと想像が沸いてきます。共同住宅をはじめとする住まいの設計やデザインを数多く手がけてきた三沢さんだからこその「建築の先にある生活の豊かさ」への思いが、ギャラリーの隅々にまで感じられるようです。
フランスの版画家と日本画家の競演から生まれるもの。
この「GALLERY RYO」で11月8日から開催されるのが、フランスの版画家ジャン=リュック・ル・バルプさんと、日本画家である木下めいこさんによる二人展です。
「今年の締めくくりとなる展覧会を特別なものにしたいという思いとさまざまな偶然から、これまでにない作家の組み合わせになりました。フランス人であるジャン=リュックさんの“抽象とモダン”、日本人であるめいこさんの“具象とクラシカル”という、ある意味正反対ともいえる対比が、これまでにない魅力をもたらしてくれると思いました」と三沢さんは語ります。
この二人展のきっかけとなったのは、今年9月に三沢さんが出かけたフランスへの出張旅行。パリで開かれるデザインの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」を訪れた際に、ブルターニュ地方にあるジャン=リュック・ル・バルプさんのアトリエを訪れ、彼がこの秋、来日することを知ったと言います。その時期が、ちょうど以前から年末展の開催を考えていた木下めいこさんの展示スケジュールと重なったことから、「二人展」の構想が動きだします。
「いつもは共通のテーマで複数の作家を組み合わせることが多いですが、今回はあえて対照的であることがコンセプト。二人の作品のあいだに生まれる緊張感や響き合いが、なにか新しいものを生みだしてくれるという予感がありました」
ブルターニュの光と風景、日本の絹と青の調和。
ジャン=リュック・ル・バルプさんは、フランス北西部ブルターニュ地方にある海辺の街・ロスコフの出身。パリ国立高等美術学校で絵画と版画を学び、現在は故郷を拠点に活動しています。光と海に包まれた、尽きることのない美しさを持つここブルターニュの風景にインスピレーションを受けた作品づくりで知られ、今回はエッチング(eau-forte)の技法で作られる銅版画(タイユ・ドゥース/taille douce)による作品が展示されます。


「彼とのつながりは、8年ほど前にパリのギャラリーで作品に出会ったことに始まります。私たちのデザインする空間にぴったりと調和するスタイルで、すでに多くのプロジェクトで作品を採用させていただいており、パリのギャラリーを通じて作家本人との交流も始まりました。この夏の渡仏で訪れたロスコフが海沿いのとても素晴らしい街で、彼の作品ばかりでなく、それが生まれる背景も見ることができ、展覧会を開催したいと強く思いました。彼が生みだす銅版画の錆びた鉄板のような風合いをもつ作品は、船乗りだったお父さんの錆びた船体からの着想だそうですが、抽象的な作品のなかに純粋な美しさとバランス、そして深みを見事に表現しています。『旅』も制作テーマの一つにしているとのことで、今回の初来日もきっと彼の新しいシリーズのインスピレーションとなることでしょう」
もう一人の展示作家、木下めいこさんは、東京都出身の日本画家。杉板に絹を貼る技法は海外からも注目され、新時代の日本画を担う旗手として活躍しています。近年はサイアノタイプという古い写真技法を使用した作品も制作。今回の展覧会でも、この技法を用いた屏風絵が披露されます。

「めいこさんの作品は純粋な和の具象画。数々の手法とモチーフから絵を制作されていますが、彼女の植物の表現が私は大好きなんです。このギャラリーでも何回か展示をさせていただいていますが、この大きな迫力をもった作品がギャラリーの空間に力強い存在感をもたらして、ご覧になる方に多くの感動を与えてくれると思います」
「まったく異なる技法や作風をベースにする二人ですが、どちらも住空間に映え、暮らしに豊かさをもたらしてくれるものという確信があります。人間とアートの歴史がずっとそうであったように、アートの価値はそれが置かれる空間と一体になって初めて生まれるものと考えていますので、その感動をぜひギャラリーで感じていただければと思います」

世界への旅の記憶が空間を彩るギャラリー。
ほかにもGALLERY RYOでは、三沢亮一さんが世界を旅するなかで出会った、アンティークやオブジェをセレクトして、ギャラリー空間にしつらえています。
「アンティークのセレクトも、希少なものというより、やはり空間を豊かにしてくれるかどうかが基準です。ほかのギャラリーやインテリアショップでは見つけることのできない、空間を引き立て、私たちを旅の記憶に誘ってくれるような特別感のあるアイテムを選んでいます。アートに関しても、作品の特徴を大切にしながらも、空間とのバランスをつねに考えていますね」
「最近の日本の住宅は、一般的に実は壁が増えているんです。障子や襖があった昔の住まいと違って、マンションにしてもツーバイフォーの戸建住宅にしても。壁が多くなれば、欧米のように何かを飾りたくなるのは自然なことです。そこにアートでも、家族の写真でもいい、自分らしさを表現していくことで暮らしが変わっていく。私たちのギャラリーでの展示や提案を通じて、そうしたインスピレーションを皆さまにお届けしていきたいと思っています」
アートやオブジェに出会ったとき、素直に心を奪われる感動。それを暮らしの中に採り入れ、そこに身を置くことが人生の喜びだと語る三沢亮一さん。
今回の二人の展覧会に訪れる方も、きっとそうした心を動かす「アートと空間」の素敵な関係との出会いを見つけることができるはずです。


JEAN-LUC LE BALP and MEIKO KINOSHITA EXHIBITION
ジャン=リュック・ル・バルプ、木下めいこ展
会場:GALLERY RYO(東京都渋谷区神宮前2-31-1)
会期:2025年11月8日(土)〜11月23日(日・祝日)
営業時間:(火〜金)11:00 〜18:00(土日祝)11:00〜17:00(月曜日定休)
ギャラリーウェブサイト・お問い合わせ:http://www.gallery-ryo.com/










