光やシェードの形、空間での配し方で、照明は大切なインテリアの景色となります。ここでは「遠目で見る照明」「手元で愛しむ照明」という2つのわかりやすい考え方で、照明について一緒に考えていきたいと思います。
遠目で見るその1、ダイニングやキッチンで
マンションのリノベーションやインテリアチェンジで見落とされがちなのが、照明です。
照明というと明るさや照らす面の位置など、機能面ばかり気にしてしまいますが、シェードや光源の形のバラエティが広がり、インテリアの中での存在感を増しています。

キッチンダイニングがオープンになった今、その空間をリビングのソファから眺めた時に、「照明」は重要なインテリアの要素になります。「遠目で見た」時の印象を決めるのが照明のデザインや光の質なのです。
冒頭の写真で紹介した照明はライクラという化学繊維で編まれた生地を使った、光を柔らかな編み物で包んだような照明です。生地の畝目から光が全方向に広がります。

キッチンは油や水の汚れの心配があるため、調理スペースの近くにデザイン照明を使うことは、以前は少なかったのですが、今は素材の質もあがり、また「キッチンでも自由に照明を楽しみたい」という意識が高まり、キッチンの上に「おしゃれな照明」というスタイルは激増しています。

たとえば上のライン照明。古代建築の柱を思わせる縦溝ガラスが柔らかな光をつくるモジュラー照明です。ダイニングの連灯や壁面のリズム演出、回廊のライン照明など、空間の軸を整える照明として活躍します。円柱の表面にはストライプ状に彫りが刻まれ、ニュアンスのある光を落とします。
遠目で見るその2、リビングやヌックで
リビングの照明はダウンライトで全体照明、フロアライトで間接照明というバランスが日本ではおなじみですが、シェードのデザインでアクセントをつけるのもおすすめです。

こちらは不思議な円形の照明。これでも光は大丈夫なのかしら?と思いますが、現在はLED光源の技術が進化し、チューブ状の中に小さなLED光源が詰まっているのだそうです。「丸でも直線でも」「上下でも水平方向でも」「ダウンライトにしても壁付け、床置きにもなる」ので、円は照明としてパーフェクトな形だそうで、照明の形に関する先入観が一気に吹き飛びます。

形や色の強い照明は、求心力を持ちます。この照明はガラスのオブジェで知られるイタリアのブランドの新作ですが、部屋のコーナーにアームチェアとアクセント照明をペアリングさせると、あっという間にリラックスコーナーになります。これはブロック状の多層の透明ガラスに、色を帯状に巻きつけたデザイン。そのままリビングのオブジェになりそうですが、調光もできるしっかりとした照明です。
「リビングにシャンデリア」は定番ですが、多灯吊りでシャンデリア以上の演出が楽しめる時代になりました。これも上と同じブランドの照明ですが、現代建築家のデザインによるガラス照明をランダムに釣ることで、華やかでかつモダンな印象が生まれます。

灯りを灯すと水中のような「ゆらぎ」が生み出されるように、考えられたデザインだそうです。金属が使われているので、石やメタルを使った空間とも相性が良さそうです。
また日本人に好まれる照明として、「陰翳礼讃」のような光と影のニュアンスを感じられる照明というものがあります。

この円筒状の照明は糸を素材に吊るすことで光の彫刻 をつくるという、技術的かつ詩的な照明です。吹き抜けや階段室などの高さのある場所はもちろん、リビングに吊るすことで光がぐっと床面近くまで降りてきて、落ち着きを生み出します。
手元で愛しむその1、コードのないポータブル照明が激変
ポータブル照明という言葉を聞いたことがありますか? これも技術の進化によって生まれてきた新ジャンル。コードレスで充電式、小型ながら照度や光の広がり方、影のフォルムなど、小さいながらも非常にレベルの高い製品が増えています。
コードが不要なので、リビングの飾り棚やセンターテーブルの真ん中に置けます。さらに素晴らしいのは照度を落としたダイニング空間で、食事をする手元や料理だけを照らす照明としても使えるのです。その分野でいま、世界でもトップクラスの照明は日本のアンビエンテックというブランドです。

カメラなどに使われる緻密な技術を組み合わせ、素材も天然木やガラスなど、工芸品のように繊細なデザインが施せるようになりました。
下はワイヤー状の細い光源をパイプのようなガラス筒に納めた、デリケートな照明。ヨーロッパの古い街灯や教会、歴史建築に見られる柱や装飾のディテールをモチーフにしています。

ただ綺麗なだけではなく、注力しているのは「光の質」。本当のキャンドルの炎と同じ2000Kという光を再現でき、安全安心に海外でよくあるキャンドルを灯した空間を実現してくれます。
手元で愛でるその2、彫刻のようなテーブルランプを
最後はイタリアの最も有名な照明ブランド・フロスの「愛でる照明」を紹介して結びましょう。最新作の中にも小さなテーブルランプがありました。これはコードレスではありませんが、じっと見つめたくなる、彫刻のような姿に魅了されます。

六角形の平面ガラスパネルとポリッシュ仕上げのアルミニウムで構成されたモジュール構造の照明です。内部には従来の電球ではなく、薄くて平らで柔軟なストリップ型 LED を取り入れて、ガラス全体を均一であたたかい光で包み込むように照らします。
ここで紹介したテーブルランプは一つのバリエーションで、同じモジュール構造でペンダントライトやフロアライト、ブラケット(壁付)など、家全体で使うことができます。
照明は感性と機能、両方に訴える側面を持ちますが、どういうふうに選んでよいか、最も難しいものの一つだと感じています。今回は「遠目で見る照明」「手元で愛でる」という真逆のテーマで紹介してみましました。冬の長い室内ではもちろん、夏の屋外のテラスや庭で活躍するなど、季節を問わず照明の可能性は広がっているのです。

Report & text 本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)
早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」の編集者を経て、独立後はインテリア、キッチン、デザイン関連の編集執筆、セミナー、企業のコミュニケーション支援など活動を多岐に広げている。著書「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルリビング&インテリア」(小学館)で、水回りとインテリアと空間が溶け合う暮らしという新しい考え方を広げ、新世代読者の共感を得ている。ミラノサローネ、メッセフランクフルト、アルタガンマ財団など世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。
インスタグラム @realkitchen_interior










