インテリア&キッチンジャーナリストの本間美紀と申します。インテリア全般やキッチン、バスルームなど、デザインのある住まいを通して、新しい暮らしの価値観を見出し、皆様にお伝えしています。ここでは海外のインテリア見本市や取材を通して知った、世界のインテリアのタイムレスな情報をお届けしていきますね。
今回はバスルームのお話。日本では「水回り」という言葉でひとくくりになってしまっているキッチンとバスルーム。一般的に生活の実用の場所として捉えられていますが、海外では、日本では考えられないような居心地の良いキッチンやバスルームが少なくありません。

その背景にあるのは、家庭でのウェルネスやビューティ習慣の変化。キッチンで使う料理道具や食材が多様化したように、バスルームで使うものも増えました。スキンケア用品やメイク道具、ヘアブラシ、ビューティツールにメンズコスメも当たり前。

ホテルライクなタオル、ホームフレグランス、口腔ケア用品やサプリもブランドが増え、ヘルスメーター、さらにホームジムやサウナなどリフレッシュ&ウェルネスの製品もデザインや機能が良くなりました。そう、バスルームやパウダールームで使うものが増えているのです。
洗面台からヴァニティファニチャーの時代に
そんなアイテムを収めるのがヴァニティファニチャーと言われるバスルーム収納。これに洗面ボウルや水栓、ミラーをコーデして、より素敵な空間にしようというのが、インテリアバスルームです。洗面ボウルも陶器からメタルまで色も形もバラエティ豊かになりました。

フィリップ・スタルクがドイツのデュラビット社から発表した「ベントウスタルクボックス」という洗面ボウルは、水を受けるウェット部分に加え、外した腕時計やスマートフォンを置いたり、水に濡れたソープやボトルを置いたりできるドライエリアのある洗面ボウル。陶器の洗面ボウルは焼成してつくるので、複雑な形は難しいとされてきましたが、今の技術はこんなフォルムの洗面ボウルも実現します。

下はドイツのアラぺというブランドの「リヴォ」という洗面ボウルです。3Dプリンターで造形したフォルムをわずか3ミリの鋼板で実現した、ミニマリスティック&メタリックな洗面ボウル。メタリックは冷たいという印象を持たれがちですが、天然石のカウンターに合わせたらとてもモダン&エレガントだと思います。

こちらもドイツのブランド・アクサーのバスルーム。ブロンズ色のシャワーと水栓と洗面ボウル、タオルバーまでのリンクコーデ。こんなバス空間が世界のハイエンドレジデンスでは当たり前になっています。

バスルーム&シャワーは常識を超えて
見た目だけではなく、水流やエコロジーの技術とも深く関わっているのがバスルーム。特にドイツブランドはシャワーの先進国です。空気を含ませて肌あたりが良い水流や、絹糸のような繊細な水流、スパイラルムーブ、ウォーターフォールなど家庭でも水流の切り替えをして、リフレッシュをします。日本でも手に入るハンスグローエ、アクサー、グローエなどのドイツブランドは、その分野の技術では世界一。快適なのに節水効果もあるのが当たり前。

細身のシャワーヘッドも一般的になり、スリムなボディの吐水口から心地よい水流が出ます。操作部からシェルフまでが一体となった美しいデザインにも驚きですが、濡れた手でも操作しやすいように人間工学的なデザインが施されています。

今後変わりそうなのがシャワーの見た目。ドイツのグローエから登場したプロトタイプは、木の枝のようなオーガニックなフォルム。やはり3Dプリンターで造形したデザインで、技術の進化が暮らしのあらゆるところに影響を与えていると感じます。

さらに水は上から下に流れるものという常識を超えて、ドイツのハンスグローエは噴水のように水が湧き出る洗面ボウル「Avalegra」を発表。水栓とシンクがセットになった、洗面システムで手も顔も洗えます。

日本の入浴文化が世界のバスタブに
ドイツやイタリアの見本市を見ていると、これまで欧米はシャワー中心のバスルーム提案が多かったのですが、バスタブの中で長く過ごすことを想定した製品と空間提案が、増えてきたと感じています。

これはイタリアのアガペ社というブランドから発表されたバスタブ「イマーション」。没頭とか、まさに体全体を水に浸すという意味です。中国で最も有名な建築家ネリー&フーのデザインで、日本や中国の檜浴槽から着想を得たそうです。

日本のお風呂が注目されてきちんと肩まで浸かってお湯の中で時間を過ごす、という日本の文化が逆輸入されているのです。
インテリアバスルームは家具も決め手に
「バスルーム家具」という新ジャンルも登場しています。これは収納のほか、ラグやスツール、シェーズロング(寝椅子)など、濡れた体のままでも過ごせる家具のこと。テラスやプールサイドで使う屋外用家具の需要のために、耐水性、速乾性を兼ね備えた家具の生地が増えていることと関連しています。こういった素材が室内のバスルーム家具の素材に転用されているのです。

一方で都心部のレジデンスでは、バスルームにスペースがあまり割けない事情は日本と一緒です。けれども「タイニーバスルーム」というテーマで、コンパクトでデザインが良いバスルーム家具も多くのブランドから発表されています。どんなに条件が悪くても、家を心地よくしたい。ヨーロッパ製品の情熱にはどの分野でも驚いてしまいます。

バスルームの取材をしていると、「ウェルネスバス」、「カスタマイズバスルーム」、「セルフケアコクーン」とユニークなキーワードがたくさん耳に飛び込んできます。いまや単に体を洗う場所ではなくなっていると感じます。
残念ながら日本ではインテリアバスルームはまだまだ実現しにくいのが現実ですが、憧れは諦めないで!
バスルームはあなたの健康と美を支えてくれる、大切な場所になりつつあります。
※写真で紹介した内容は海外での取材情報で、大半の製品は日本未発売です。ご留意ください。

Report & text 本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)
早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」の編集者を経て、独立後はインテリア、キッチン、デザイン関連の編集執筆、セミナー、企業のコミュニケーション支援など活動を多岐に広げている。著書「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルリビング&インテリア」(小学館)で、水回りとインテリアと空間が溶け合う暮らしという新しい考え方を広げ、新世代読者の共感を得ている。ミラノサローネ、メッセフランクフルト、アルタガンマ財団など世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。
インスタグラム @realkitchen_interior