フランスの暮らしとデザインについての連載19回目は、パリ9区、ピガール地区の伝説のクラブとその建物を全面改装し、2026年4月にオープンしたホテルをご紹介します。

左・クラブの歴史は長く、1965年から2022年まで続いた。黄金時代には数々の著名なアーティストが訪れたという。写真はサルバトール・ダリ。©James Arch 中・2026年4月にホテル・レストラン・クラブとして再オープン。© Matthieu Salvaing 右・このプロジェクトを担った経営者のニコラ・サルティエル。

 パリ9区、ピエール・フォンテーヌ通り6番地。かつてセルジュ・ゲンズブールが夜な夜な通い、名曲「Qui est in? Qui est out?」を書き上げた伝説のクラブ「Bus Palladiumバス・パラディウム」が、2026年4月10日、アート・音楽・文学が響き合う5つ星ホテルとして蘇った。1960年代からパリの夜の象徴であり、ミック・ジャガーやビートルズ、ジョニー・アリディといったスターたちが熱狂したこの場所は、パリのサブカルチャーの歴史を物語る存在だ。

 ディレクションは国内で個性豊かなホテルを展開する「シャピトル・シス」の代表、ニコラ・サルティエル。この建物のオーナーからアート・音楽・文化が連動する5つ星ホテルを作りたいと相談を受けた際に「ニューヨークのチェルシーホテルのようにクリエイティブな場所にしたい」と考えたという。

「プレステージ・テラス・スイート」。左・ヴィンテージのソファ、テーブルを飾る。右・ガラスキューブのサイドテーブルは中にアートやヴィンテージのオブジェをディスプレイ。壁はコルク素材。 © Matthieu Salvaing 

 リニューアルを手がけたのは、マラケシュのイヴ・サンローラン美術館のデザインで世界を魅了した気鋭の建築ユニット「スタジオKO」。全35室の客室とスイートは、1960〜70年代の映画の世界を表現している。家具やオブジェはヴィンテージで、ナイトテーブルは透明なキューブ状になっており、中には現代アーティストの作品や、ヴィンテージのカセットテープ、古本、ミニチュアバスなどが収められている。壁に用いたコルク素材は、「スタジオKO」がフランシス・フォード・コッポラのニューヨークの自宅をデザインした際にも採用。床にはパウダーピンクのカーペットを敷き詰めた。

「ダリ・スイート」。左・デ・セデのモジュール式ソファ「DS-600」を飾るリビング。右・黒大理石と鏡張りのバスルーム。© Matthieu Salvaing

 スイートルーム「ダリ・スイート」で真っ先に目に入るのが、デ・セデのモジュール式ソファ「DS-600」のヴィンテージ。鏡張りのアルコーブに収まったベッドや、リブガラスに囲まれたグランド・アンティーク・マーブルのバスルームなど、ダリのシュールな世界に浸れる空間に仕上がっている。

アーティスティック・ディレクター兼キュレーターのカロリーヌ・ド・メグレ。© Matthieu Salvaing

このホテルのアーティスティック・ディレクター兼キュレーターはカロリーヌ・ド・メグレ。元モデルであり、シャネルのアンバサダー、そしてベストセラー「パリジェンヌのつくりかた」の共著者でもある。各客室に設置したハイエンド・オーディオブランド、オジャスの木製スピーカーからは、彼女が選曲した4つのプレイリストが流れる。バスアメニティにはディプティック、紅茶はパリの専門店、コンセルヴァトワール・デ・ゼミスフェールを採用した。

左・シェフのヴァランタン・ラファリ。© Eva Lopez  中・レストランの壁一面に並ぶレコードは、「バス・パラディウム」で活躍した伝説のDJのコレクションが中心。© Matthieu Salvaing 右・レストラン内のバーカウンター。© Matthieu Salvaing

 レストランの厨房を担うのは、ヴァランタン・ラファリ。フランス国家最優秀職人章(MOF)を持つセルジュ・シュネ氏の下で研鑽した、確かな腕の持ち主。厳選した食材を用いたモダンな料理を提供する。

 レストランとバーの壁一面を埋め尽くすレコードは、伝説のナイトクラブ「ビュス・パラディウム」の記憶を呼び覚ます生きたアーカイブ。その多くが20年間「バス・パラディウム」でメインDJを務めたジャン=シャルル・デュピュイと、稀代のコレクター兼DJ、ジェームス・アーチのコレクションだという。

地下のクラブは木〜土曜の深夜0時から朝5時まで営業。宿泊客は優先的にアクセスできる。© Matthieu Salvaing

 館内にはルーフトップ、そして地下にはかつての熱狂を継承するライブステージ併設のクラブもオープン。伝説のクラブ「ル・バロン」を手掛けたリオネル・ベンセムンがディレクションを担当し、週に1、2回、クラブが始まる前にライブやダンスイベントも開催される。約60年間パリの音楽シーンを支えた社交場は再びネオンを灯し、新たな伝説を刻み始める。

Bus Palladium

バス・パラディウム

住所:6 rue Pierre Fontaine 75009 Paris

料金:1泊 €490〜

HP:www.buspalladium.com

(文)木戸 美由紀/文筆家

女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。

Instagram:@kidoppifr

Share

LINK

  • ピアース石神井公園
×
ページトップへ ページトップへ