フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の20回目は、絵本「リサとガスパール」の作者であるアン&ゲオルグさん夫妻が住む、パリ5区のアパルトマンをご紹介します。

Anne Gutman(アン・グットマン)/パリ生まれ。小説家だった父の影響で、絵本の創作活動に興味を持つ。出版社でデザインの仕事をしていた際、ゲオルグと出会い結婚。’99年、夫と共に「リサとガスパール」シリーズを立ち上げ、ストーリー作りとブックデザインを担当。

Georg Hallensleben(ゲオルグ・ハンスレーベン)/ドイツ生まれ。幼い頃から水彩画に親しみ、大学卒業後はローマで画家として活動を始める。「リサとガスパール」以外に、「ペネロペ」シリーズや「イザベルと天使」(金の星社)、「こぎつねはたびだつ」(ブロンズ新社)など作品多数。
アパルトマンは高低差のある地形に立ち、アトリエは庭に面した1階、2階に玄関と居住空間がある。

 世界中で愛される絵本「リサとガスパール」の作者である、アンさんとゲオルグさんご夫妻。一家がパリ5区のアパルトマンに越してきたのは2019年だった。きっかけは、不動産広告を見るのが好きな親友から送られてきた、一枚の写真だったという。

 「友人がこの庭の写真を見て『信じられない、パリにまだこんなものが存在するなんて』と、物件の情報を送ってきたのです」とアンさん。ゲオルグさんはすぐに見学したがったが、アンさんは「絶対に買えないから」と乗り気でなかった。「何か問題があるはずだ、と自分を納得させるために見学に行くと、問題は何もなく、その場で購入を決めました」(アンさん)。

リビング。家具はほとんどが以前住んでいたパリやイタリアの家で愛用していたもの。

 購入の決め手になったのは、約200㎡という広大な庭と、185㎡(2フロア合計)の空間がもたらすゆとりだった。以前のアパートも広く気に入っていたが、3人の子どもたちが成長するにつれ、それぞれの個室が必要になってきていた。

以前入口があった場所に本棚を設置。「木工職人にオーダーしたものですが、仕上がりに難があり、何度も自分で修理をしました。美術書の重みで棚が傾きかけたため、垂直の補強材もいくつか追加しました」とゲオルグさん。

 入居に際して、二人は大きな改装に取り組んだ。壁を一つ取り払い、広いリビングを作る一方で、個室確保のための壁も新たに設け、玄関からリビングにつながる廊下も作った。

 「見学した時、大きな寝室があって、そこを通らなければなりませんでした」とアンさん。

左・庭に面するゲオルグさんのアトリエ。1日のほとんどの時間をここで過ごすという。右・愛猫のストロンボリ。後ろの絵は「リサとガスパール オペラざへいく」の原画。

 さらに、ゲオルグさんのアトリエは1階に独立して設けた。以前のアパートではアトリエが間取りの中心にあり、家族全員がそこを通り抜けなければならなかったという。

 現在の間取りは2階にリビング、ダイニングキッチン、4つの寝室。1階のアトリエへ室内からアクセスできるよう階段も作ったという。「ここでは家族それぞれが自分のスペースを持てるようになりました」(アンさん)。

キッチンはIKEA。木工職人にオーダーし棚の表面に板を貼った。テーブルはイタリアから運んだもの。グラスを並べる棚はパリのブロカントで見つけた。「セショワール・ア・ブテイユ」と呼ばれ、洗ったワインボトルを逆さまにして突起に差し込み、中の水気を切るために使われたもの。

 工事は3ヶ月で集中的に行われたが、子供たちの新学期が始まる9月に間に合わせるという目標は達成できなかった。家族が住み始めた後もキッチンやバスルームが未完成の時期があり、近くのAirbnbを借りたこともあったという。蛇口が届かないなど、配送のトラブルも相次いだ。段ボールを片付け、本当に落ち着くまでには数ヶ月かかったそうだ。

 家具は以前のアパートやイタリアの住まいから使い続けてきたものを愛用。「それぞれに歴史がある、とても大切な家具です」とアンさん。キッチンの設計は、持っている家具のサイズを測って決めたという。「あまり一般的ではないやり方かもしれませんが、家具が収まるようにゲオルグが設計しました」。

キッチンのコーナー。左・風景画はゲオルグさんからアンさんへのクリスマスプレゼント。聖人の像は南仏のソルグ村で購入。右・アンさんのレシピノートの表紙のイラストはゲオルグさんが描いた。

 19世紀に建てられたとみられるこの建物は、下の部分はさらに歴史があり、後から上階が増築されたそう。「木枠の窓が残る趣のある空間で、気密性こそ高くないけれど、古い窓は美しくて大好き」とアンさん。

 家の中で好きな場所を聞くと「キッチンでかなりの時間を過ごします。料理も好きです」とアンさん。「自分のアトリエが大好き」とゲオルグさん。

アンさんの仕事部屋兼寝室。「窓の外に広がる庭の景色を眺めながら、仕事ができるのは最高」とアンさん。

 この家の大きな魅力のひとつは、明るさだ。「以前、マレのアパートに住んでいた時は全くなかったもの」とアンさんが言うように、庭に面した窓から光が入り、一日中室内は明るい。3面に窓があるため風通しも良い。「雨の日でも庭に少し出るだけで、外に出かけたような気分になれます」。

リビングのコーナー。左・南仏のユゼスから運んだ鏡の前に、アスティエ ド ヴィラットの陶器やツェツェ・アソシエの「四月の花器」を飾る。右・鏡はドーヴィルで見つけたもの。

 「このアパルトマンはとても静か。隣人の気配を感じず、一軒家に暮らしているようです」とアンさんが表現するこの住まいは、静寂さがありながら街の中心にある。近くにはパンテオン、リュクサンブール公園、植物園など、パリらしい風景が広がる。アンさんは毎日娘と愛犬と共に1時間半〜2時間ほど近所を散歩する。ゲオルグさんも買い物がてら街を歩き、仕事のための写真を撮ることも。この地区の日常が、「リサとガスパール」の舞台となることも良くあるという。

左・シャワールームだった場所を広くしてバスタブを設置。中・スピッツのムッフル。右・ショセットは次女の猫。

 家族の暮らしは仕事と生活がミックスしているそう。ゲオルグさんは一日の大半をアトリエで過ごし、アンさんはキッチンで料理をしたり、寝室で執筆をしたりしながら時間を過ごす。天気の良い日は庭にパソコンを持ち出して仕事をすることも。長女は独立し別の場所に暮らす。平日の夕食はほぼ毎日、ご夫妻と次女、長男の4人でテーブルを囲む。週末は友人が訪れ、賑やかに過ごすことも多いそうだ。

 庭の緑を望む光あふれる空間で、ふたりはこれからも物語を紡いでいく。リサとガスパールが次にどんな冒険に出かけるのか、今から楽しみでならない。

撮影/篠あゆみ(Ayumi Shino)

(文)木戸 美由紀(Miyuki Kido)/文筆家

女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。

Instagram:@kidoppifr

Share

LINK

  • ピアース石神井公園
×
ページトップへ ページトップへ