日本のインテリアの世界では魔法のような言葉が「北欧デザイン」。

誰もが好きで、日本の住まいとの相性もいい。木を中心にした程よい質感の家具は、日本人に愛されるのも納得がいきます。北欧という冠があれば、誰もが興味を持ちます。

港町コペンハーゲンは北欧デザインの中心地

とはいえ、あまりにも行き過ぎた北欧ブームは、何でもかんでも「北欧風」と呼びがち。「北欧は可愛い!」、そんな日本の風潮にちょっぴりうんざりしていた私は、コペンハーゲンの「3デイズ・オブ・デザイン」というイベントを訪ねてきました。

街の中心にビジュアルシンボルが掲げられています

夏至に近い6月の3日間、街の中のインテリアショップやギャラリーが一般開放され、デザインに触れることができるイベントです。

そこで見つけた大人のための北欧デザインをいくつか紹介しましょう。

まずやはりカールハンセン&サンです。

コペンハーゲン中心地に移転したフラッグシップショールーム。
Photo=Carlhansen & son

ハンスJウェグナーのYチェアがあまりにも人気のブランドですが、本国では新しいデザイナーを起用し、新しいデザインコンセプトを伝えていました。同じ世界観は東京・外苑前のショールームでも体験できます。

Photo= Carl Hansen & son

たとえばこのウォールデスク「AJ019」。

壁を使って、デスクの最小限の要素だけを残し、材料もスペースも無駄なく使おうという、意欲的なデザインです。

Photo=Carl Hansen & son

若手デザイナー、アンカー・バックさんを起用したデスクで、壁に設置する金具の開発やデスクで手に触れる縁の柔らかなカーブなど、カールハンセン&サンが培ってきた技術を細かな部分にまで生かしています。

アンカーさんは「デザインの最終ゴールは使われること」と、このデスクをギリギリまで機能というテーマで絞ったそうです。

こちらもカールハンセン&サンの新しいデザインです。

半円形のソファは視線の交わし方を変えます。Photo= Carl Hansen & son

女性デザイナー、リッケ・フロストさんによる半円型のソファ「サイドウェイ」は、曲線で囲むことで何もなかった場所に、集まる空間が生まれる。そんな「場を生み出す」デザインです。

こういったディテールにカールハンセン&サンの「本気」を発見。Photo= Carl Hansen & son

カールハンセン&サン本社の社長は「過去の名作椅子のアーカイブは山のように持っている。手仕事の伝統を残した図面を若い職人に造らせ、技術を継承し、一方で新しい用途を持つ家具にも挑戦している」とYチェアだけではないカールハンセン&サンの未来を話してくれました。

カールハンセン&サンと並んで人気なのが、フレデリシアです。やはりボーエ・モーエンセンやナンナ・ディッツェルなど、北欧の大御所デザイナーの復刻家具が日本では知られています。

Photo=FREDERICIA

このソファは日本好きで知られるイギリス人デザイナー、ジャスパー・モリソンがデザインしたソファ。北欧のブランドであっても、他国のデザイナーを起用し、国際色も豊かになっています。

Jota Photo=FREDERICIA

ちなみにこのソファ、とてもかけ心地が良く、座面や背の張りの技術の高さを感じました。

そして意外な伏兵がキッチン。デンマークには世界的なキッチンメーカーは多くありません。その中で私が注目したのは2社。

1つ目がヴィップというブランドです。

Photo=VIPP

創業は1950年代。金属加工の小さな工場を立ち上げ、美容室で使うペダル式のダストビンが大ヒット。その後、事業を拡大し金属のリブ加工の扉が象徴的なキッチンで、世界的な注目を浴びました。

Photo=VIPP

現在はキャビネットやバスルーム用家具などにも事業を広げています。やはりコンパクトで無駄のないデザインです。

2つ目はガーデヴェルス。

すべて無垢の木。しかも無塗装でつくられたキッチンです。水まわりに無垢材を無塗装で使うなんて日本では信じられないことですが、実に美しく目を奪われてしまいました。

Photo= Garde Hvalsoe

デンマーク人はどうやってこのキッチンを使っているの?と聞いてみると、「デンマーク人は木との付き合い方を子どもの頃から学んでいるし、使っているうちに傷がつくことも知っています。むしろその経年変化を楽しんでいて、家族の思い出にしています」というお返事。しみや傷が味わいになっていくと考えているのです。

Photo= Garde Hvalsoe

日本に比べれば、とても乾燥しているデンマークの気候。それゆえに許容される考え方かも知れませんが、冬の長い国で木のキッチンで温かい料理を作り、食卓を囲んでいる光景が目に浮かんできました。

デンマークのデザインやブランドは大きく2つに大別されると感じました。

カールハンセン&サンは北欧のオネストデザインの文化を象徴する企業。Photo= Carl Hansen & son

1つはオネストデザイン。ここで紹介したような、手仕事を生かし、家具、道具としての在り方を慎重に検証し、さらに企業哲学を継承するようなブランド。正直なデザイン。裏表なく、真摯な姿勢で伝統と革新を結びます。

フィン・ユールなど名作椅子を多く輩出しているデンマーク。ワンコレクションによるフィン・ユールの忠実な復刻。 Photo=House of Finn Juhl

もう一つはデモクラティックデザイン。

若い世代が盛り上げるニューノルディックデザイン とも言えるでしょう。ファッションのように流行が早く、定番もあればシーズンごとのデザインもある。

極端に言えばイケア、若い世代に人気のブランドで言えばHAY(ヘイ)あたりがデモクラティックデザインを先導していると言えます。

HAYの展示はいつも楽しくトレンド感があります。Photo=HAY

デザインは誰でも手が届くものというデモクラティック(民主主義)的な思想のもと、品質はスタンダードに抑え、その分、価格をアフォーダブルに。デザインのある暮らしを一般的にしていこうという動きです。

日本でもアクタスで販売され、若い世代に人気のソファがアイラーセン。 デンマークでは珍しいソファの専門ブランドです。Photo=eilersen

 

コペンハーゲンの街は自転車で通勤通学する人であふれていました。また男女平等の意識が強く、質実剛健、倹約や社会貢献の意識も強く感じました。

その中でのデザインのあり方は「可愛い北欧」ではなく、「社会にとって本質的なデザインとは何か」の答えとなっているように思えました。

Report & text  本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)

早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」の編集者を経て、独立後はインテリア、キッチン、デザイン関連の編集執筆、セミナー、企業のコミュニケーション支援など活動を多岐に広げている。著書「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルリビング&インテリア」(小学館)で、水回りとインテリアと空間が溶け合う暮らしという新しい考え方を広げ、新世代読者の共感を得ている。ミラノサローネ、メッセフランクフルト、アルタガンマ財団など世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。

インスタグラム @realkitchen_interior

ウェブサイト  https://realkitchen-interior.com

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