サステナブル、エシカル。この言葉をよく聞くようになったと思いませんか? 

サステナブルとは長く続けていける、奪いすぎない、使いすぎない長期的視野のサイクルを意味し、エシカルとは倫理的な価値観に基づいて行動するといった意味です。社会課題解決の考え方として、暮らしの中では特に大量生産されるファッション、食品製造の分野で早くから意識が高まり、生活に近いところでの変化も起こっています。

実は建築、インテリアの分野でもこの2つは大きなキーワード。すでに世界のインテリア見本市では当たり前の考え方になっています。しかもそれが心地よく、美しいのです。

あの定番ブランドもすでに変わっている

世界の家具ブランドではパンデミック以降、サステブル素材を家具に取り入れるという考え方が一気に具体化しました。

カッシーナのメインモデルとなったソファ「セングウボールド」。(Photo=Cassina)

日本ではもっとも知名度の高いブランドの一つ、カッシーナ。同社でも、パトリシア・ウルキオラ氏がデザインした主力商品、「セングウシリーズ」や「モンクラウド」といったソファに、海洋の廃棄物をリサイクルしたPET樹脂を詰め物に使っています。

Sengu Bold(Photo:Sengu Bold /Cassina)
Mon Cloud(Photo: Mon Cloud /Cassina)

カッシーナから復刻されている、ル・コルビジェやシャルロット・ペリアン、ジャンヌレなど、マスターズ(デザインの偉人)シリーズも部分的に環境に配慮した素材に切り替わっているそうで、見えないところでよく知っている家具がサステナブルな未来へ舵を切っています。

家具を選ぶことが森林を守る

サステナブルは人間だけの問題ではなく、森林や地球にも及ぶ考え方です。そこにいち早く着目し、具体的に動いているのがカリモク家具です。同社は世界的に見ても大規模な家具メーカーの一つで、特に木工に秀でています。

その思想が深く込められているのが、一見、簡素なこの家具シリーズ。
「MAS(マス)」といいます。

日本を代表する樹種、ヒノキを活用した「MAS」。(Photo=Karimoku)
中央にカーブがついた座面。木工技術が活かされたディテールです。(Photo=MAS/Karimoku)

ヒノキを使った家具で、マス(升)の名前の通り、正方形のモジュールとした座は広く、お座布団をおきたくなります。軽くて扱いやすく、シニアレジデンスや旅館でも活躍しそうなモダンデザイン。フィンランドで学んだ熊野亘氏のデザインです。座面の中央にカーブがついていて、体を優しく受け止めます。

ミラノデザインウィーク中に市内で披露されたプレゼンテーション。(Photo:MAS/Karimoku)

本来、ヒノキは柔らかく、剛性として家具材に適さない場合もあります。これを構造と一部に広葉樹を使って解決しています。成長が早く、植林に適している針葉樹。日本の森林の大半である針葉樹を適切に使用して日本の森林の活性化に繋げたいという、ストーリーが背景にあります。

次世代はアップサイクルとレスマテリアル

リサイクル材料に加えて、種類が増えているのがアップサイクル素材です。これは工場のなどから出る出自のはっきりしたもので、製造上、やむを得ず出てしまう廃棄物です。これにいち早く注目したのがイタリアのカルテル。

プラスチック製品製造から創業したブランドですが、現在は植物由来の透明樹脂など、サステナブル素材に強いブランドとして知られるようになりました。最近ではカプセル式コーヒーの工場から出る規格外のカプセルを再生し強度を高め、チェアの座と脚に採用しました。

エスプレッソのカップにイリーのロゴ。イタリアではどこでも目にするメジャーなコーヒーブランドです。(Photo: ELEGANZA / Kartell)

カプセルの色が混色されるため、ブラック、ダークレッドの2色の樹脂となります。その色が映えるように、ファッションブランド、ミッソーニの張り地を合わせて、優美でエレガントな椅子に大変身させています。その名も「エレガンツァ」という名前です。

上に合わせる生地でアップサイクル樹脂の地味な色の印象が変わります。 (Photo=:ELEGANZA×MISSONI / Kartell)

カルテルと付き合いの長いフィリップ・スタルク氏の「A.I.チェア」もサステナブルな思想から生まれたシリーズ。人工知能に必要最小限の素材で成立するデザインを生成させ、「レスマテリアル」とう考え方で、材料の無駄を省いています。

このシリーズもカプセルのアップサイクル樹脂を採用。(Photo :A.I.Chair /Kartel)

材料が少ないと貧相になるかって? そんなことはありません。削ぎ落としの美の中にフィリップ・スタルク氏のユーモラスなデザインが融合して、これまでにないデザインが生まれました。

「レスマテリアル(使う材料をより少なく)」の極みが新たな美を生み出します。(Photo=:A.I. Console / Kartell)

本当に支柱レッグが一本! 壁を活用し、確実に計算された強度で、きちんと機能しています。レスマテリアルの極み。これもサステナブルの考え方です。

建築空間がすべてのコンセプトをまとめあげる

パオラ・レンティというブランドは、屋外や船上で使えるデザイン家具からスタートしました。デザイナーのパオラはカラフルで耐久性ある自動車の工業素材から着想を得て、アウトドア家具をスタートし、現在は幅広い分野からのアップサイクル素材で家具を発表しています。

水辺になじむブルー、緑に溶け込むグリーン。 (Photo:Paola Lenti)

さらに最近では建築でサステナブルを表現しようと、ミラノ中心地から少し離れた場所に、自然とつながったギャラリーをオープンし、多くの人が憩いを求めて足を運びます。

ラグやテーブルの天板、貼り地や木材までサステナブルであることを貫いています。Paola Lenti Milano (Photo=Paola Lenti)

このギャラリーでは設計時から、生態系の専門家とバイオフィリックな場所にしようと計画し、敷地内には熱帯や湿地など、6つの希少な生態系を再現した庭を育んでいます。その中に置かれたブランドの屋外家具のセットは、真のサステナブルを伝えています。

生態系の再現をテーマにした庭を育むギャラリー。 (Photo:Paola Lenti)

最後にミラノに生まれた、あるレストランをご紹介しましょう。理想のサステナブルインテリアを完成させた聖地のような場所です。

リノベーションビルの中のサステナブルレストラン

このレストラン「HORTO」はミラノの再開発ビル「The Medelan」のメインテナント。建物自体が1902年に建てられた銀行の建物のリノベーションで、プロジェクト全体が「ゼロウェイスト」をテーマとしています。

壁は農産物の加工工場から出る廃棄物を混ぜ込んだプラスター仕上げ。床はミラノ近郊のビネガー工場から出る古い樽を、ミラノ風のウッドパケットに再利用したもの。コクーンのようなテーブル席からアウトドアテラス席まであり、都心にいるとは思えないくつろぎを感じます。

1902年竣工の銀行をリノベーションした施設にはいるサステナブルレストラン「HORTO」。  (Photo:HORTO)

カウンター席で使っているのは、プーリア州から届いた無垢のレバノン杉。木の経年変化とともに味わいを深めていきそうです。

レバノン杉を使った無垢材カウンター。(Photo:HORTO)
お料理はたとえば旬の素材のリゾットなど。畑が詰め込まれたような一皿。
(Photo=HORTO)

肝心のお料理はもちろん、ミラノ近郊、1時間以内で届く地元の食材のみを使い、旬の素材を使うため、メニューは時期によって変わります。そこで働く人も十分な休みが取れるよう休日やシフトが配慮され、ユニフォームももちろんエシカルな生地で作られています。

レストランの家具は、ミラノがデザインの街であることから、カッシーナをはじめとするデザイン家具が選ばれていますが、こういった家具ブランドの数々がすでに素材選定や生産工程を持続可能なスタイルに切り替えていることは、冒頭でお伝えした通りです。

サステナブルとエシカル。耳にしすぎて少し重たく感じ始めてきた人もいると思います。でもセンス一つで、とても素敵な何かに変わる。今回の記事ではそんなことをお伝えしたいと思いました。

Report & text  本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)

早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」の編集者を経て、独立後はインテリア、キッチン、デザイン関連の編集執筆、セミナー、企業のコミュニケーション支援など活動を多岐に広げている。著書「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルリビング&インテリア」(小学館)で、水回りとインテリアと空間が溶け合う暮らしという新しい考え方を広げ、新世代読者の共感を得ている。ミラノサローネ、メッセフランクフルト、アルタガンマ財団など世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。

インスタグラム @realkitchen_interior

ウェブサイト  https://realkitchen-interior.com

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