ハンガリー、ドイツ、イタリア、バルカン半島などの近隣諸国の影響を受けながら、ハプスブルク家の歴史と文化によって育まれてきたオーストリア・ウィーンの食文化。そのオーストリアの伝統食を味わえるのが、『銀座ハプスブルク・ファイルヒェン』です。
今回はその料理を味わいながら、ウィーン在住のコロラトゥーラ・ソプラノ歌手、田中彩子さんに食についてのあれこれをお聞きしました。


ゆっくりと味わうのが日本とウィーンの食文化の共通点
――日本とウィーンで、食文化の違いを感じられることはありますか?
違いももちろんありますが、それよりも似ている部分が多いと感じます。伝統的なウィーン料理は、ハプスブルク王宮時代の宮廷料理がルーツにあって、王族たちがゆっくりと食事を楽しむという部分が息づいています。和食も同じように、会席料理は時間をかけて味わいますよね。また、和食は一品ドーンというものではなく、品数も多く、見た目も美しい。オーストリアの伝統料理も、洗練されていて、芸術的だと感じるものがたくさんあります。
オーストリアを代表する料理にシュニッツェルがあります。シュニッツェルは、薄く伸ばした肉に、衣をつけてバターでこんがり焼くのですが、それは黄金を表していて、繁栄を象徴していると言われています。そういったところからも、歴史と芸術性が感じられます。

――本日(取材日)は『銀座ハプスブルク・ファイルヒェン』のランチコースをいただいていますが、いかがですか?
随所にウィーンらしい味わいが感じられますね。例えば、ザワークラウトも、フェンネルが入っていたのですが、現地ではこのフェンネルが味のポイントなんです。

このカイザーセンメルというパンは、日本でいう食パンくらい生活に欠かせないパンです。なぜかこのパンだけは、横半分に切って、そこにバターを塗るというのがオーストリア流なんですよ。

そしてメインのシュニッツェル。実は、ここ「銀座ハプスブルク・ファイルヒェン」の神田 真吾シェフがかつて勤めていたウィーンのインペリアルホテルのシュニッツェルが、私にとってウィーンで一番のお気に入りなんです。
お肉が薄くレモンをかけると衣がほんのり柔らかくなる感じも、現地そのものです。そこに日本の名店らしい丁寧さが加わり、上質なお肉の旨みが際立っていました。

――ご自身で料理をされることも多いのでしょうか?
ウィーンにいる時には、ほとんど自炊です。なるべく季節のものを使うようにしていて、今だったらイチジクをバターで焼いて、ヤギのチーズをのせて、そこに炒めたナッツを散らして…これはおつまみみたいな感じですね。現地のワインもおいしいですから。
――お酒もお好きなんですか?
好きです。ビールも焼酎もなんでも飲みます。ただ公演の前日はお酒を飲まないようにしているので、公演が終わって飲んだら、もう「うわぁ!おいしい!」と(笑)。我慢してる分、すごくおいしく感じます。冬は熱燗や赤ワインもいいですよね。ウィーンは、ビールもおいしくて、クラフトビールのお店が市内にたくさんあるんです。日本ではオーストリアワインはあまり見かけないですが、ここ(銀座ハプスブルク・ファイルヒェン)はオーストリアワインも置いてあるので、ぜひ、みなさんにも味わっていただきたいですね。
冬に味わいたくなるウィーンの温かいデザート
――以前、執筆されたコラム(ウィーン、時を味わう美しき暮らし)では、お好きなスイーツに「トプフェンシュトゥルーデル」を挙げていました。
「トプフェンシュトゥルーデル」もそうですが、ウィーンはホットデザートが豊富です。ほかに、「クヌーデル」も好きですね。ジャガイモと小麦粉を混ぜたペーストをゆでて作るお団子のようなもので、中に季節のフルーツが丸ごと入っています。初夏なら「マリレンクヌーデル」といって、あんずが入ったものが定番。ウィーンではみんな大好きなデザートですね。

――もうすぐクリスマスですが、特別なものはありますか。
一番の楽しみはクッキーです。それぞれの家で大量に焼いて缶に詰めて、交換し合うこともあります。その時期にしか登場しないクッキーもたくさんあるのですが、私は「バニラキプフェル」という三日月型のクッキーが好きです。アーモンド粉で作られたクッキーで、ホロホロと崩れる食感がたまりません。粉砂糖がたっぷりかかっていて、見た目も可愛いんですよ。あと、あんずジャムを挟んだ花型のクッキー「リンツァーアウゲン」も有名です。
――スイーツはどんなときに召し上がりますか?
寒くなると甘いものが欲しくなるので、冬に食べる機会が増えます。ただ、現地では日本の2倍、3倍くらいのボリュームで出てくるのが普通なので、デザートというよりは、軽食として食べること多いかもしれません。

繊細で奥深い、音楽と食の関係
――ウィーンに渡ってすぐ、食事には慣れましたか?
おいしいと思いましたが、日本は本当に多彩な食文化があるので、それに比べてしまうと選べる種類は少ないなと感じていました。大人になってから、いろいろなレストランに行けるようになり、同じシュニッツェルだけでも、お店によって味がこんな違うんだと、楽しみが広がりました。シンプルだからこそ、肉のたたき具合、温度、衣の具合などで大きな違いが出るんです。奥深いなと思います。

――食生活で気をつけていることはありますか?
体が楽器だと常に意識しているので、食べるものがすべて自分の体をつくると考えて、なるべくきちんとしたものを摂るように心がけています。たとえば、今日はたくさん歌ったからプロテインを多めに摂ろうとか、ビタミンBを意識して豚肉にしようとか、日々のコンディションに合わせて選んでいます。アスリートに近い仕事だと思っているので、栄養素についても軽く勉強しました。ただ、そこまでストイックにはなれないので、できる範囲で気をつけるようにしています。
――レストランでは音楽で空間を演出することもよくあり、食と音楽には密接な関係があるのではないかと思います。
音楽家には美食家が多いと感じています。中にはプロ並みに料理される方もいらっしゃいますし、料理って音楽にすごく似ていると思うんです。ほんの少しの加減で味のハーモニーが変わるところなんて、まさに音楽の響きと同じですよね。
味覚のハーモニーと聴覚のハーモニー。どちらも繊細で、奥深い。そこには歴史的な背景や、見た目の美しさも関係していて、そういう意味でもウィーン料理は音楽に最も近い料理なのではないかと思います。
シンプルだけれども、細部にこだわりがあり、長い歴史の中で多様な要素が融合してできたもの。クラシック音楽と通じるものがあると感じます。だからこそ、こうした料理を味わうときにはクラシックを聴きたくなるんです。

田中 彩子さん
18 歳で単身ウィーンに留学。 22 歳でスイスベルン州立歌劇場にて同劇場日本人初、且つ最年少でのソリスト·デビューを飾る。
その後ウィーンをはじめロンドン、パリ、ブエノス・アイレス等世界で活躍の場を広げている。
ソプラノの中でもさらに高い音域のコロラトゥーラは透き通るような歌声が特徴 で「天使の声」と称され、その歌声を操る数少ない一人。
2019 年 Newsweek 誌 「世界が尊敬する日本人 100」 に選出。アルゼンチン最優秀初演賞受賞。イギリス BBC ミュージック・マガジンにて 5 つ星を受賞。
ブエノスアイレスのムジカ・クラシカマガジンの表紙を飾る。
《彼女の声は素晴らしいアジリティと本物の叙情的な美しさを持っている》
– イギリス ミュージックウェブ・インターナショナル
《田中は華麗なる鋭敏さと透明さを誇る声だ》
– アメリカン・レコードガイド
広島 AICJ 中学・高等学校理事長。
ウィーン・東京在住。
オフィシャル HP:https://www.ayakotanakaofficial.com/
銀座 ハプスブルク・ファイルヒェン
住所:東京都中央区銀座7-8-7 GINZA GREEN 7F
営業時間:ランチ11:30~15:30(13:30L.O) 、カフェ13:30~15:30(13:30L.O)、ディナー18:00 ~ 22:30(19:30 L.O)
TEL:03-5537-3226
定休日:日曜日・月曜日
HP:https://ginza-habsburg.com/
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