「モンテーニュ通り30番地」。パリでファッションに関心のある人なら、誰もが知るそのアドレス。今から約75年前にさかのぼる1946年12月15日、この地にオープンしたのは「メゾン ディオール」。そう、あのディオールのパリ本店がここにある。

モンテーニュ通り30番地 © Adrien Dirand


オープンから数週間後の1947年2月12日には、モードの歴史に大きなエポックを刻んだ革新的な「ニュールック」と「ミス ディオール」フレグランスがここで発表され、世界中をそのニュースが駆け巡ることになる。そして同じ年、ムッシュ ディオールことクリスチャン・ディオールはここに初のブティックをオープン。フランス語で「小間物屋」を意味する「コリフィシェ」と名づけられたブティックには、洋服ばかりでなくギフトや住まいを彩るオブジェが並び、フランスのアール・ドゥ・ヴィーヴル(暮らしの美学)を伝えるサロンとして人々を迎えたという。以来、この「モンテーニュ通り30番地」では数え切れないほどのショーが開催され、ジャン・コクトーなどのアーティストや女優など著名なゲストも行き交う「夢の王国」として華やかな系譜を歩んできた。


いまでは約600mにわたって世界のトップブランドやラグジュアリーホテル、シャンゼリゼ劇場などが並ぶストリートのちょうど真ん中あたり。それはまさにモンテーニュ通りのシンボルであり、モードの聖地といっても過言ではない。

DIORAMA ディオラマと称される階段室の展示風景 © Kristen Pelou


この春、モードやデザイン、アートに関心の高いパリの人々が、あるニュースに色めき立った。この「夢の王国」たる建物が2年以上の大規模な改装を経て、リニューアルオープンしたのだ。そしてこれに合わせてメゾンの歴史、この場所で繰り広げられてきた数々の記憶とクリエイションをたどることができる展示スペース「La Galerie Dior ラ ギャラリー ディオール」が誕生した。


展示デザインは、パリ装飾美術館で話題を呼んだ2017年のディオール展、ポンピドゥーセンターなどでの美術展をはじめ数々のセノグラフィー(展示美術)を手がけてきたナタリー・クリニエール。ほかには見られない大胆な試みと緻密な構成で、その壮大な物語をあますところなく伝えてくれる。


ビジターを最初に圧倒するのは、階段室を取り囲む巨大なショーケースだ。ずらりと並ぶのは、クリスチャン・ディオールから現在に至るデザイナーたちが創りあげてきたクチュール作品のミニチュアドレス452点。そしてメゾンを象徴するバッグ、アクセサリー、香水などを精巧な3Dプリントによって再現した1422点のオブジェをふくめた1874点もの作品。繊細な色のグラデーションがまばゆく、美しい。

Christian Dior (1905-1957) 3階の展示風景 © Kristen Pelou

エレベーターで3階に誘われると、最初の展示室で紹介されるのは創始者クリスチャン・ディオールの生涯だ。1905年にノルマンディー地方の自然豊かな海辺の街、グランヴィルに生まれ、アートと庭仕事を愛した母親のもとで感性を育んだ彼。そんな幼少の頃から、1947年のメゾン立ち上げ、そして世界を驚かせることになる突然の死を迎えた1957年までを追う。


クリスチャン・ディオールによる「バー」ジャケット © Kristen Pelou

なかでも目を惹くのは、やはり「ニュールック」を象徴するTailleur Bar(「バー」 ジャケット)。ウェストラインを強調した「バー」ジャケットとフレアスカートのコンビネーションは、見慣れたはずのいまでも新鮮に映る。そこから先は、ムッシュ亡き後の6人の後継者たち、つまりイヴ・サン=ローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、そして2017年からアーティスティック ディレクターを務めるマリア・グラツィア・キウリへと至るオートクチュールクリエイションの軌跡が綴られる。


Les Jardins Enchantés © Kristen Pelou

「魔法の庭園」と名づけられた部屋では、歴代のアーティスティック ディレクターたちの代表的な作品たちがならぶ。「女性たちを美しくするだけでなく、より幸せにしたい」と願ったクリスチャン・ディオールの精神を受け継ぎつつ、時代ごとに先見性に満ちたスタイルを提案してきたその証人ともいえる服たち。ショーでは一瞬で過ぎ去ってしまう作品を、ここでは素材の質感やそれを着た女性たちのムーブメントが想像できるような美しいドレープ、アイデアを凝らした細部、数々の職人の手で丁寧に仕上げられた刺繍までゆっくりと確かめることができる。

L’Allure Dior © Kristen Pelou

「ディオールの歩み」と題された次の展示は、奥のクリスチャン・ディオールから手前のマリア・グラツィア・キウリまで7人の作品が同時にならび、彼らの肖像、そしてそれぞれのショーの映像がシンクロして繰り広げられる貴重な体験。ディオール75年の系譜を実感するシーンだ。

さらにその先では、クリスチャン・ディオールの最初のオフィスから、キャットウォークを歩く前にモデルがオートクチュールのコレクションを着た支度部屋「キャビン」、壮麗な大広間など、フランスのファッション史が生まれてきた「現場」を目にすることができる。

Le Roman des Robes © Kristen Pelou


また芸術家たちとの交流も深かったクリスチャン・ディオール。デビュー前の1928年にはジャック・ボンジャンと共同でギャラリーを開いたこともあるほど。「アートとの親交」の展示では、若きクリスチャン・ディオールを描いたドイツの画家パウル・ストレッカー、そしてメゾンとのコラボレーションで数々のビジュアルを創作したイラストレーターのルネ・グリュオーの作品などを見ることができる。


Les Ateliers du Rêve © Kristen Pelou

Les Ateliers du Rêve © Kristen Pelou

真っ白なトワル(仮縫い服)に包まれた幻想のような部屋は、その名も「夢のアトリエ」。色彩なしでここまで人を魅了するところに、ディオール固有のシルエットの素晴らしさを感じる。ここでは服の仕立て職人がデモンストレーションし、その技術の一端を見せてくれるのだが、驚くのはこの部屋の上が実際のアトリエであるということ。上階におかれたモデルやアトリエスタッフが動きまわる様子を、半透明の天井を通じて感じることができる。自分がディオールの創作現場の只中にいることをあらためて実感する瞬間だ。


L’Invitation au Voyage © Kristen Pelou


Le Bal Dior © Kristen Pelou

ギャラリーツアーの終盤にも、見事な演出が待っている。それは数々のイヴニングドレスで彩られた「ディオールの舞踏会」。歴代のコレクションからセレクションされた華やかな服たちを集めた贅沢な舞台が、昼、夜と変化する背景の中でまばゆく輝く。


La Chambre aux Merveilles © Kristen Pelou


ほかにもクリスチャン・ディオールによるオリジナルスケッチ、オートクチュールコレクションでモデルたちを飾ったアクセサリー、美しいデコレーションに包まれた「ミス ディオール」の特別バージョンなど、数々のアイテムが展示された「ラ ギャラリー ディオール」。2017年にパリ装飾美術館で開催されたディオール展でも、圧倒的な数のアイテムに人々が魅了された。しかしメゾンの聖地「モンテーニュ通り30番地」の展示は、やはりその意味合いが大きく異なる。


同じく生まれ変わった本店ブティック、建物の壁面をディオールの歴史を象徴する名品で飾るショーウィンドウ、さらにはレストラン「ムッシュ ディオール」と「ラ パティスリー ディオール」、そして美しい庭園・・・。フランスを代表するブランドのすべてを詰め込んだ宝箱のようなこの場所を、いつかぜひ体験してほしい。


La Chambre aux Merveilles © Kristen Pelou


LA GALERIE DIOR ラ ギャラリー ディオール


住所:11, rue François 1er, 75008 Paris

開館:11:00〜19:00(最終入館時間17:30)

(火曜定休、1月1日、5月1日、12月25日は閉館)

入館料:12€(オンラインにて来館日時の事前予約が必要)


チケットの購入・詳しい情報は公式サイトへ

https://www.galeriedior.com/



(文)杉浦岳史/パリ在住ライター
コピーライターとして広告界で携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ高等専門学校IESA現代アート部門を修了。2013年よりArt Bridge Paris – Tokyo を主宰。広告、アートの分野におけるライター、アドバイザーなどとして活動中。ポッドキャスト番組「パリトレ」始めました。

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