2022年の4月初旬、国税庁のタックスアンサーに「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」という内容が公表されました(No1525-2)。
NFTについては2021年初めごろから高額な取引事例が多発し、その売買を取り扱う「OpenSea」というマーケットプレイスの取引高が月間100億円に達するなど活況を見せてきました。
今回NFTを用いた取引についての税務の取扱いが国税庁から示されました。不明確な部分はありますが、一定程度の課税関係が明らかになったことからその内容について私見を交えて解説していきたいと思います。
NFTとFTとは?
NFTとはnon-fungible tokenの略で、「非代替性トークン」と訳されます。偽造ができない唯一無二のデジタルデータのことです。暗号資産と同様にブロックチェーン上で発行、記録されます。
それに対して、FTとはfungible tokenの略で「代替性トークン」、他の暗号資産などと交換できる代わりのきくデジタルデータのことをいいます。ビットコインに代表される暗号資産はFTであるといえます。
国税庁のタックスアンサー更新
今回のタックスアンサーは「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」というタイトルです。
FTである暗号資産について、税負担が軽くなるような新解釈があるのでは?と期待されましたが、結論、暗号資産の税務上の取扱いは従来から何ら変更されていないものと考えられます。
暗号資産についての取扱いは後ほど解説します。
まずは初めて解釈が出されたNFTの取扱いについてです。
◇課税対象について
1 いわゆるNFT(非代替性トークン)やFT(代替性トークン)が、暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できるものである場合、そのNFTやFTを用いた取引については、所得税の課税対象となります。※財産的価値を有する資産と交換できないNFTやFTを用いた取引については、所得税の課税対象となりません。
(国税庁タックスアンサーNo1525-2より抜粋)
NFTの取引について課税される場合について記載されています。
「財産的価値を有する資産と交換」できるのであれば、所得税が課されます。
デジタルアートを扱うマーケットプレイスでは、暗号資産のイーサリアム(ETH)で取引されているため、暗号資産と交換できるNFTであるという整理から、売却した場合は所得税の課税対象となります。
NFTを使ったゲームではどうでしょうか。昨今、使用アイテムとしてNFTが用いられるゲームが登場しています。
基本的にまずは暗号資産を購入してゲーム内でのアイテムを購入し、NFTとしてゲーム内で取引することができます。NFTは暗号資産と交換できるためこれも所得税の課税対象となってきます。
もし、NFTがゲーム内でのアイテム交換のみで、最終的にお金に交換できないなどの制限があれば所得税の課税の対象にはなりません。
◇所得区分について
所得税の課税対象となる場合の所得区分は、概ね次のとおりです。
(1) 役務提供などにより、NFTやFTを取得した場合
・ 役務提供の対価として、NFTやFTを取得した場合は、事業所得、給与所得または雑所得に区分されます。
・ 臨時・偶発的にNFTやFTを取得した場合は、一時所得に区分されます。
・ 上記以外の場合は、雑所得に区分されます。
(国税庁タックスアンサーNo1525-2より抜粋)
所得区分は税額計算の上で重要です。基本的に譲渡所得や一時所得に該当する場合はその他の所得となる場合よりも税負担が軽くなります。
譲渡所得は50万円の特別控除があり、5年超の保有の場合はその所得を2分の1として計算できます。一時所得はその双方の適用があります。
「役務提供の対価として」とはサラリーマンの給料やフリーランスの報酬がNFTで支給されるような場合を想定していると思われます。これは現金支給の場合の所得区分と同じで特筆すべき点はないかと思います。暗号資産で給与支給をしている企業もあるようですので今後増えてくるかもしれません。
「臨時・偶発的に」とは雇用関係等がないにも関わらず法人からNFTをもらったような場合でしょうか。ケースとしては多くないかと思います。
「上記以外の場合」は雑所得に区分されるということですので、ここまでの部分は現金で受け取った場合の所得区分と同じ考え方ということになります。
(2) NFTやFTを譲渡した場合
・ 譲渡したNFTやFTが、譲渡所得の基因となる資産に該当する場合(その所得が譲渡したNFTやFTの値上がり益(キャピタル・ゲイン)と認められる場合)は、譲渡所得に区分されます。
(注)NFTやFTの譲渡が、営利を目的として継続的に行われている場合は、譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得に区分されます。
・ 譲渡したNFTやFTが、譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合は、雑所得(規模等によっては事業所得)に区分されます。
(国税庁タックスアンサーNo1525-2より抜粋)
NFTを譲渡した場合に譲渡所得に区分される旨の記載がでてきました。
今回のタックスアンサーの更新での新見解となる部分で最も注目される部分です。ただ、NFTを譲渡した場合は必ず譲渡所得になるかといえばそうではありません。次のすべての場合に該当すれば譲渡所得に区分されるものと考えられます。該当しなければ雑所得か事業所得となります。
①「譲渡所得の基因となる資産」に該当する場合
譲渡所得の基因となる資産は、在庫などのたな卸資産や金銭債権でない資産のことをいいます(所得税法基本通達33-1)。NFTを譲渡した場合に暗号資産など換金可能な対価を得た場合、NFTが課税対象となります(財産的価値を有する資産と交換できるため)。対価を得られれば「資産」に該当することとなりこの条件を満たすと考えられます。
②その所得が譲渡したNFTやFTの「値上がり益(キャピタル・ゲイン)」と認められる場合
NFTはデジタルアートであったり、ゲーム内アイテムであったり様々なコンテンツと紐づけられています。そのコンテンツの価値が上がったことによる利益はキャピタル・ゲインと考えていいのではないでしょうか。後述しますが、NFTの取引対価である暗号資産の値上がりによる利益はキャピタル・ゲインではないという整理だと思われます。
③営利を目的として継続的に行われて「いない」場合
営利を目的として継続的に行われる譲渡は譲渡所得に含まれない(所得税法33条2項1号)とされており、所得税法上の要件が記載された形です。
NFTの譲渡を主な事業としているクリエイターは営利目的のため譲渡所得には該当しないものと考えられます。そうではない一般の方が保有するNFTアートの譲渡は通常継続的に行われません。よって、譲渡所得となり得ると考えられます。
暗号資産の税務との関係
暗号資産の税務については国税庁からFAQがでています(暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ))。
その中では次のことが記載されています。
・暗号資産の定義…資金決済に関する法律第2条に規定されるもの
・所得区分…原則雑所得、一定の場合事業所得
NFT・FTと暗号資産をどう区別しているのかですが、国税庁としては、今回のタックスアンサーのNFT・FTが、暗号資産に該当する場合は暗号資産のFAQで整理すべきと考えていると思われます。
前述のタックスアンサーの冒頭「いわゆるNFT(非代替性トークン)やFT(代替性トークン)が、暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できるものである場合」とあるため、NFTやFTと暗号資産とを別個の資産として区別した書き方をしているためです。
厳密な法解釈としては、NFTとFTに暗号資産は含まれるという整理だと思うのですが、税務の取扱いとしては別個の考え方をされていると思われます。
まとめ
タックスアンサーは実務の指針のような位置づけのため、より明確なことは今後の実務の積み重ねや判例などを注視する必要があります。
現状の取扱いとしては、ビットコインやイーサリアムのように取引の対価として使用するものは譲渡所得とすることはできず、その他のNFTやFTについては譲渡所得に該当する可能性があるといった考え方になるでしょう。
NFTは二次流通でも収益を得られるなど、クリエイターの方々にとっては収益化の可能性が広がるコンテンツです。
ただし、所得区分としては上述のとおり譲渡所得には該当しないものと考えられます。
雑所得よりも譲渡所得の方が一般的に有利ですが、譲渡所得の方が厳密な経費計上を求められより計上が困難となるなど必要経費の考え方も変わります。そこにNFTの取引にかかせない暗号資産の税務も加わってきます。
NFTの取引による申告をする際にはその取引のすべての時点での証明が重要です。まずはその証明を保存することから始めていただき、確定申告に備えるようにしてください。
なお、文中の意見の部分は筆者の私見になります。税務の取扱いを判断する際は専門家にご相談をお願いします。
参考文献:
「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」(国税庁タックスアンサーNo.1525-2 )を考えてみる
https://note.com/cryptotax/n/nd5993bbb6dd3
ブランコンサルティング株式会社CEO
佐原 由起
新卒で会計事務所に就職後、税理士と共に2013年にブランコンサルティング株式会社、及び会計事務所Blanc Tax Spaceを設立。
起業を目指す方や若手経営者に対してお金や税金のアドバイス、マネープランニングを行っている。税務・会計業務以外にも、ブランディングやPRコンサル業務も得意とし、双方をニーズに合わせて提供している。
Instagram:@yuukisahara
(記事監修:Blanc Tax Space代表税理士 宍戸 智之)