4ヶ月前、この連載で書かせていただいた「NFTの税務について私見を交えて解説」
今回は『NFTアート』をメインに解説していきたいと思います。
数年前にゲームがきっかけで名を広めたNFTですが、一般の人々から大きな注目を集めるようになったのは、やはりアートの世界で使われるようになったからではないでしょうか。
2021年3月、デジタルアーティストBeeple氏のNFT作品『Everydays – The First 5000 Days』がChristie’sオークションで約75億円で落札され、その高価格での落札というニュースのインパクトは非常に大きかったと思います。
これまでのデジタルアートは簡単にコピーされてしまうリスクがあるため、資産的な価値を持たせることが難しいという問題がありました。これを解決したといわれているのがNFTです。
デジタルデータに複製や改ざんができない証明書のようなものを付加することにより、いわゆる一点モノのような価値をデジタルデータに持たせることができるようになりました。
また、仲介業者の中抜きなしで世界中に作品を直接販売することが出来るようになったことで日本でも多くのアーティストがNFTに参戦するようになりました。
2022年8月現在は、主に一次流通(NFT発行者からの購入)が活況を呈していますが、今後は二次流通(NFT所有者からの購入)が成長領域となるでしょう
NFTアートの税務について
税務上問題になるのは、「どの所得区分となるか」ではないでしょうか。
一時所得・譲渡所得に該当する場合、50万円の特別控除・所得の2分の1課税(譲渡所得の場合は所有期間が5年を超える場合に限ります)、と2つの優遇措置があり、利益に対する税額が小さくなります。
その他の所得区分である事業所得、雑所得などの場合は2つの優遇なしにその利益に対して課税されることになりますが、事業所得については最高65万円の青色申告特別控除などの特典があり、雑所得と比較すると有利であるといえます。
NFTを購入した場合
NFTアートは、Openseaなどのマーケットプレイスで売買されています。通常、マーケットプレイスではイーサリアム(ETH)などの暗号資産でNFTを購入することになります。
NFTアートの購入自体には課税はされません。
ただし、円でETHを購入した時点と、その購入したETHでNFTアートを購入した時点で、ETHの時価が異なる場合、値上がりしている場合は、その値上がり益に対して課税されることになります。
なお、NFTアート購入のため、保有しているBTCなど他の暗号資産をETHに交換した場合も、BTC取得時と交換時の時価が異なれば、その値上がり益に対して課税されることになります。
暗号資産の値上がり益に対する所得区分は原則として雑所得になります。
「暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合」は、事業所得とされる余地があるため、NFTアートの販売を主な事業としている個人事業者が、その決済手段として暗号資産を使用している場合は、暗号資産の値上がり益に対する所得区分についても、事業所得となる可能性があります。
NFTを売却した場合
保有しているNFTを売却した場合は、その売却の性質に応じて、譲渡所得か雑所得(又は事業所得)に区分されることになります。
その売却が営利を目的として継続的に行われる場合は雑所得又は事業所得、そうでない場合は譲渡所得に区分されます。
クリエイターが自身で生み出したデジタルアートをNFTとして販売した場合、基本的には営利を目的として継続的に行うために販売していると解釈されるでしょう。この場合は雑所得、またはその事業規模が大きいと事業所得となります。
一方、趣味でNFTアートを購入した方が、そのアートを転売した場合は、基本的に営利目的ではないと思われますので、譲渡所得に区分されることになります。
その中でも、そもそも時価30万円以下のNFTアートについての売却益は、所得税が非課税と考えます。
税務上、生活に必要な動産のうち30万円以下の貴金属・美術品等は譲渡所得が非課税とされているためです(もちろん譲渡所得に区分される売却に限ります)。
ただし、投資目的でNFTアートを購入し、転売を繰り返すような場合は営利目的とされ、雑所得又は事業所得とされる可能性が高いと考えます。
二次流通での販売による収益を得た場合
NFTはクリエイターが販売した後、転売された場合にその一部が収益として還元されるよう設定することが可能です。転売されるごとにクリエイターに収入が発生することになります。この場合は、ロイヤリティ収入と考えられるため、雑所得又は事業所得に該当することになります。
NFTをGiveaway(無償配布)された場合
クリエイターがその知名度を向上させる目的でSNS等を使ってNFTアートをGiveaway(無償配布)することがあります。
抽選等、無償でNFTを取得した方は、その取得時のNFTの時価を収入とすることになります。
臨時・偶発的にNFTを取得したといえますので、一時所得に区分されることになると考えられます。
まとめ
ここまでNFTアートの想定される取引ごとにその所得区分を解説しました。所得区分も大事ですが、NFTや暗号資産はすべての取引の記録を保存しておくこと、これが確定申告のために最も重要です。前回の記事と同様ですが再度お伝えしたいと思います。
上記税務の取扱いのうち、NFT部分については2022年4月に国税庁から出されたタックスアンサー「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係(No.1525-2)」に基づき説明しています。
このタックスアンサーの対象税目は所得税となっているため、法人税、消費税、相続税等の取扱いは現在明確ではありませんので注意が必要です。
実際の税務上の取扱いの検討については、所得税を含め、税理士に相談して判断することをおすすめします。
参考文献:
国税庁タックスアンサーNo.1525-2「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525-2.htm
国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
ブランコンサルティング株式会社CEO
佐原 由起
(記事監修:Blanc Tax Space代表税理士 宍戸 智之)