この連載では、暮らしの中で知っておくと得する知識や、今さら周囲の人には聞きづらい疑問について、毎回その道のプロから教わります。
今回は、1992年よりプロ入りし、ゴルファーとして長く活躍を続けられている深堀圭一郎さんに、ゴルフセットの選び方やスコアの伸ばし方、ビジネスシーンでも役立つゴルフマナーまで、幅広くゴルフの勘所について教えていただきました。

初心者にも役立つゴルフセット&ウエアの選び方
初心者がゴルフを始める際のゴルフセットの選び方は?
・初心者向けのゴルフセット「スターターズキット」もおすすめ
道具選びは大変ですよね。先輩や親から譲り受けたクラブでまずはゴルフ練習場に行って打ってみる、というのも一つ。ただ、ゴルフバッグも含めて自分自身のクラブを手にして、ある程度形から入るほうが自分のエネルギーになる人もいると思います。
クラブ選びは難しそうと思われがちですが、最近では各社から「スターターズキット」といった初心者向けのセットでいいものがどんどん出ています。また、ゴルフ専門店ではその人の体格などにあわせてフィッティングしてくれるプロのフィッターが親切に対応してくれますので、気軽にフラッと行ってみて相談するのもオススメです。
また、ゴルフギアでは足回りも重要です。昔から「ゴルフコースは3ホール回ってはじめてスタートの準備ができる」と言われていて、7~800mほど歩いて体の血流を動かし、周りのロケーションを見て呼吸を整えてはじめてスタートができる、という考えです。「足は第2の心臓」と言いますから、自分のコンディションを確認する意味でも歩くことはとても大事で、自分に合う靴とインソールを見つけられれば、日常の動きもゴルフも圧倒的に楽になりますよ。


深堀さんのゴルフセッティング:
・ドライバー
キャロウェイ ELYTE トリプルダイヤ(9.0+度)
シャフト:三菱ケミカル ディアマナBB63X
・3W
キャロウェイ パラダイム AIスモーク3+MAX(13.5度)
シャフト:グラファイトデザイン DI 7X
・5W
キャロウェイ ELYTE スタンダード (18度)
シャフト:日本シャフト モーダスプロトタイプ
・4UT
キャロウェイ ビッグバーサ815(23度)
シャフト:日本シャフト モーダスプロトタイプ
・5I〜PW
キャロウェイ XフォージドMAX
シャフト:トゥルーテンパー ダイナミックゴールドS300
・50度・56度・58度
キャロウェイ OPUSウェッジクロム
シャフト:トゥルーテンパー ダイナミックゴールドS300
・パター
オデッセイ ホワイトホットXG #7H
・ボール
キャロウェイ クロムツアートリプル・トラックボール
ドレスコードが厳しい、といった印象もあるゴルフ。ウエアなどで気を付けることは何でしょうか?
・最近はTシャツ短パンOKのゴルフ場も
確かに、行き帰りは必ず襟付きシャツで、ジャケット&革靴が必須、というゴルフ場は今でもあります。でも、実際には短パンにTシャツで行けるゴルフコースもかなり増えていて、ネットで検索すればすぐにわかります。プレー前後の会食も含めてカチッと楽しみたい人にも、ラフに楽しみたい人にも、どちらにも対応できるのがゴルフの懐の深さです。
・暑い日が続く昨今。暑さ対策も万全に!
屋外スポーツのゴルフでは暑さ対策も重要です。9月、10月でもまだまだ暑さは厳しいですから。最近は冷感素材のもの、通気性に優れたウエアもたくさん出ています。あとは濃い色は選ばない方がいいですね。黒は虫がたかりますし、熱を溜め込んでしまうので明るめの色がいいですよ。
また、多少荷物になっても、着替え用ウエアを持っていくことをオススメします。一番良くないのは、ハーフ(9ラウンド)を終えて汗をかいたまま休憩のレストランに行くこと。かなり冷房が効いていて一気に体が冷えてしまいます。その前に一度クラブハウスのロッカーでインナーを含めて着替えましょう。気持ちも切り替えて残りのハーフを回ることができると思います。

ゴルフのプレーがより楽しくなる心構えと「100切り」のコツ
ゴルフコースを回るにあたっての心構えで気を付けることは?
・まずは楽しく笑顔で失敗できる環境をつくる
とにかく、あまり堅苦しく考えないこと。経験者であっても出だしの数ホールは緊張します。むしろ、大人になって緊張してできることに新しく出逢えた喜びを感じてほしいですね。社会人になると日常はマンネリ化して、あれをやらなければ、これをやらなければと、いかに失敗を回避するかいう責任ばかりの毎日だと思うんです。
それに対して、ドキドキ・ワクワクしながら笑顔で失敗できるのがゴルフです。ゴルフは基本的に4人でコースを回ることが多いのですが、みんな笑顔で失敗を楽しんで、たまに出るいい結果を喜ぶのがゴルフの醍醐味。「また失敗しちゃった……」と落ち込む人もいるとは思いますが、仕事じゃないんですから恥ずかしくも何ともないんです。

その意味でも、大事なのは一緒に行って楽しいと思える人をチョイスすること。「こうしろ」「これはダメだ」といった決めつけやダメ出しばかりだと、それだけで疲れてしまいますよね。萎縮しながらプレーしたっていいことなんてありません。
誰しも最初は下手なんです。でも、プレーの時間と経験を重ねていくとできることが増えてくる。その喜びもまた格別です。笑顔で失敗して、次はこうやってみようかな、とコースを回りながら、食事をしながらおしゃべりできるのもゴルフの楽しさです。だからこそ、厳しい言葉よりも寄り添ってくれて、笑顔がある環境のなかで楽しむことがとても重要です。
少し経験を積むと、次は「スコア100を切りたい」という新しい目標も出てきます。100切りを目指すゴルファーへのアドバイスをお願いします。
・失敗したら見直してミスを減らす
アマチュアにとって「100切り」は一大テーマですよね。18ホール全てパーで回ればスコアは72。全てボギーなら90、全てダブルボギーだと108。9ホールがボギーで残り9ホールがダブルボギーなら99。つまり、大叩きしないことが100切りにおいては重要です。仮にOBを打ってしまったとしても一度冷静になって、「今のクラブでよかったのか」と考え直すことが大切です。プロでもそうですが、2回連続のミスを極力しない、という意識で臨んでみるといいと思います。
技術的な面で見ると、100切りのためにはショートゲーム、グリーン周りからの寄せやグリーン上でのパターのスキルを上げることで、110〜120の人が10〜20打減らすことは十分可能です。
では、そのショートゲームのスキルをどう上げていくか。大事なのは「感覚」です。忙しいときでもグラブを握って、その感触を手で感じてみる。また、近距離の感覚を養う上では、ゴミ箱に向かってモノを投げる練習も実はかなり有効です。目で見て脳で感じたものを手で再現することは、パッティングやショートゲームと似た感覚があります。ただ、周囲に人がいないときをオススメします(笑)。

ビジネスシーンにも役立つゴルフのマナーと考え方
仕事でのゴルフの付き合い、という場面もあります。その際に気を付けるべきことは?
・ロストボールをしないのは大きなポイント!
やっぱり挨拶は大切です。私も「プロアマ戦」では企業の方とご一緒する機会が多く、その際はまず自分からしっかりした声で「今日はよろしくお願いします」と挨拶に行くことを心がけています。あとは、何でもかんでも「ナイスショット!」と言わないこと。ミスショットだと思っている人に言ってしまうと、むしろ怒られてしまいます。
そして、上司や大切なお客様とコースを回る上では「ロストボール」をしないことをぜひ意識してみてください。ロストボールとは、ラフなどに打ち込んでボールを見失ってしまうことで、1打罰を加えた上で元の場所から打ち直すことになります。探し回った上に戻るとなると、本当にガッカリ度が大きいので、ボールを見つけるのが得意な人はポイントが高いですよ!

・常に俯瞰で見てスマートな立ち振る舞いを
また、相手を置き去りにして自分のゴルフに没頭しすぎないように。ゴルフ場では俯瞰で物事を見ることが大事です。相手のプレー、ボールがどこに飛んだかにも気を配りつつ、打つときには自分に集中する。この緩急を使える人はプロアマ問わず、いいプレーヤーだと思います。
企業の代表や社長さんにお話を聞くと、社員とコースを回ったときに、どういう姿勢でゴルフをしているのかを見ることは会社経営にも参考になる、という話をよくされます。コースを一緒に回ると、いろんな場面を見るわけじゃないですか。ボールを探しに行く際の仕草、落とし物をしたらパッと拾ってくれる、いいパットには「ナイスパット!」と声をかけてくれる……というようにさまざまな場面で所作を見られる時間が長いわけです。「こんなにビジネスの役に立って、これだけ人を見られるスポーツはほかにない」とおっしゃる方はとても多いですね。

改めて伝えたいゴルフの魅力と楽しみ
これまでプレーしたなかで好きなゴルフ場やコースは?
・競技で思い出に残るのは「小樽カントリー倶楽部」
競技と遊びの観点がありますが、まず競技としてトーナメントをやっていた思い出としては、北海道の『小樽カントリー倶楽部』があります。 このゴルフコースは素晴らしいなと思いますね。また、うまくいないときにカリフォルニアのロサンゼルス近郊でキャンプをしたんです。Tシャツと短パンで気楽にゴルフができて、苦しい時代から少しずつ再生させてくれた場所になり、そこも思い出深いです。
そうした好きなゴルフ場を見つけることは重要ですね。日常では仕事だけで終わってしまうという方もいるでしょう。ゴルフ場でもレストランでも、例えば映画を見るというのもいいですけど、自分が自分になれる場所がある人というのは、生活のバランスが取れてより良い方向に向かうかと思います。

改めて、深堀さんが考える「ゴルフの魅力」とは?
・世代を問わずに楽しめる一方で思い通りにならない面白さも
先日、88歳の方と一緒にプレーしましたが、本当に元気に楽しんでいました。ゴルフほど年齢を問わず、子ども、自分、親といった三世代で楽しめるスポーツはないと思います。
その一方で、さまざまな競技のトップアスリートでも、ゴルフは一筋縄ではいかない。一瞬で上手くなったかと思えば、3年目くらいになぜか後退してしまうこともある。全身も心も鍛え上げてきた人でも思い通りに動かない。「なんなんだ!?ゴルフは! だから楽しい」と口にするスーパーアスリートが本当に多いんです。
本当にゴルフって不思議なスポーツで、多くの方がおっしゃるのは「上手くいかないから楽しい」ということ。先ほども言いましたが「笑顔で失敗できるのがゴルフ」だと思って、どんどん積極的に失敗を楽しんでみてください。
(取材・文/オグマナオト)

深堀圭一郎 (ふかぼり・けいいちろう)
1968年10月9日生まれ、東京都出身。11歳の時にゴルフをはじめ、1985年、高校2年生の時に「日本ジュニアゴルフ選手権競技」で優勝。1992年(平成4年)にプロ入り、1997年に「ジャストシステムKSBオープンゴルフトーナメント」で初優勝を飾る。 2003年、35歳の時に「日本オープンゴルフ選手権競技」でメジャー大会初優勝。2005年には賞金ランキングで自身最高の3位入賞。 2007年と2010年に日本ゴルフツアー機構(JGTO)の選手会長を務めるなど、プレー以外でも活躍。2019年以降はシニアツアーにも参戦し、2021年「北海道ブルックス モアサプライズカップ」でシニアツアー初優勝。
Instagram:@keiichirofukabori










