2021年10月現在、ビットコインが過去最高値を更新し、700万円の大台を突破しました。

中国が暗号資産を禁止した影響で一時は急落もありましたが、米国でのビットコイン先物連動型上場投資信託(ETF)の上場もあり期待感が大幅に高まっています。

2017年のバブル以来、低迷を続けていた暗号資産ですが、2020年の後半ごろから再度注目が集まっています。

ビットコインをはじめとする暗号資産をお持ちの方は、いつ利益を確定しようかと考えを巡らせていることかと思いますが、やはり税金問題は避けては通れません。

今回は、暗号資産についての税制概要についてお伝えしようと思います。

ちなみに「仮想通貨」という呼び方は、2019年5月の資金決済法等の改正により「暗号資産」という呼び方に変更されています。

確定申告が必要な取引とは?

☑ 暗号資産の利益確定は売却だけではない

☑ 所得がでれば確定申告が必要

☑ 赤字の場合の損益通算は原則不可

以下の場合に利益が確定しますので、その際に申告義務が生じると所得税の確定申告が必要となります。

①取引所などで売却した場合
②他の種類の暗号資産に交換した場合
③暗号資産で商品を購入した場合
④マイニング(暗号資産の採掘)により取得した場合
⑤貸付、ステーキング(暗号資産を保有して収入を得る取引)等により利益を得た場合


これらの取引を行った場合に次の金額が所得となります。

収入金額-購入金額(売却原価)-必要経費=所得金額

この所得金額が、一定の金額となった場合に確定申告が必要になります。

一定の金額とは、サラリーマンのように給与収入がある方であれば20万円を超えた場合などです。なお、医療費控除やふるさと納税など、そもそも確定申告が必要な場合は金額に関わらず、暗号資産の所得を確定申告に含めてください。

上記のうち②の暗号資産の交換は利益を確定しているイメージがないので注意が必要です。収入金額は新しい種類の暗号資産の交換時の時価になります。

③の商品の購入は、商品決済に暗号資産を使用する場合です。商品購入時にその通貨を売却したものと考え、商品の購入価額が収入金額になります。

④のマイニングは、その取得時の時価が収入金額とされます。

⑤の貸付やステーキングは、その取引で得られる収入が収入金額になります。

なお、ハードフォーク(暗号資産の分岐)については利益として認識されないため課税の対象外となります。

暗号資産の所得は、原則として『雑所得』に区分されます。そのため、赤字がでたとしても、給与や事業など他の所得と通算する損益通算を行うことはできません。

ただし、他の雑所得との通算は可能です。※FX(先物取引)を除きます。

売却原価とは?

☑ 総平均法と移動平均法がある

☑ 投資スタイルにより選択

暗号資産の所得を計算するためには、その原価を計算する必要があります。

計算方法は次の2つです。

①総平均法
年間の購入金額を合計して、数量で割りその平均単価を算出します。簡単な方法ですが、利益把握が年末になってしまい事前の納税準備ができないという難点があります。

②移動平均法
売却の都度、その時点までの購入金額と保有数量から平均単価を算出する方法です。手間はかかりますが実態に即した計算になります。

どちらで計算したとしてもすべて売却した場合は、全期間を通じた総額では同様の原価になります。

ただ、所得税の計算は年単位で行うため、いずれの方法を利用するかによって、その年の所得が変動することになります。

暗号資産の値動きにもよるため、どちらが得かを選択することは困難です。また、後述する計算方法の変更は一度選択すると3年間は変更できません。

そのため、最終的には手間や投資スタイル(ロングがショートか)で選択することになると思います。

売却原価の選定・変更

☑ 売却原価の法定評価方法は総平均法

☑ 移動平均法の選択、計算方法の変更は税務署へ手続が必要

☑ 売却原価の計算ができない場合は売却額の5%とすることができる

売却原価の計算方法は、何もしなければ、総平均法により計算する必要があります(法定評価方法)。

移動平均法を選定する場合は、「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を税務署に提出する必要があります。

暗号資産の種類ごとに計算方法を決めることができ、提出期限は暗号資産を取得した年の翌年の確定申告期限です。新しい種類の暗号資産を取得した場合も、その種類の届出について同様の期限になります。

評価方法を変更する場合は、「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」を税務署に提出する必要があります。提出期限は、変更する年の3月15日となっており、その年が終わる前に提出する必要があります。また、特別の理由がない限り、変更する前の計算方法を採用してから3年経過していることが必要です。

売却原価を計算するためには正確な取引記録が必要です。

日本の取引所であれば、基本的に年間取引報告書が発行されます。海外の取引所の場合にはそのような書面の発行はないため、自身で取引データと取引時の相場から計算する必要があります。

もし購入時の取引履歴等が何もない場合は、売却金額の5%を売却原価として計算できる特例があります。この特例は実際の売却原価が5%未満であっても適用できますので大幅な価格上昇があった場合には有利になることがあるかもしれません。

暗号資産の必要経費とは?

売買時に生じる手数料、暗号資産関連の書籍、通信費など、その収入を得るために必要な支出であれば必要経費として認められます。売買手数料は取引所経由であれば記録があると考えられるので漏れが少ないと思いますが、その他関連する支出がないか申告時に確認してください。

法人化した場合は?

法人口座を持つことなどにより暗号資産の売買をすることは可能です。

個人の税務と異なる点は次のとおりです。

①原則として期末に時価評価をしなければならない
個人は売却時のみに課税されますが、法人は保有している暗号資産の時価が増減した場合はその時点で課税の対象になります。

②売却原価の法定評価方法は移動平均法
所得税とは反対になります。

③損益通算が可能
赤字の場合は他の収入との通算が可能です。さらにその赤字は最大10年間の繰越も可能です。
法人には個人のように所得の区分がないため、すべてをまとめて計算することになります。

④税率
所得税は住民税含めて最大55%、法人にかかる法人税等はおおよそ35%です。



上記をみると法人の方が有利にも思えます。ただ、法人運営は赤字でも発生する税金である地方税の均等割や設立コスト、社会保険等の運営コストが生じます。既に法人をお持ちの方がその法人に暗号資産を移す場合はメリットがあるかもしれませんが、暗号資産の保有のためのみで法人化をする場合は慎重な判断が必要だと思います。

安く売却した場合(低額譲渡した場合)は?

取引所ではなく、当事者間での売買を想定した規定があります。

例えば、親族間や自分が代表者である法人に対して通常より著しく安い金額で売却することも考えられます。

「著しく」とは、時価の70%未満で売却する場合です。

売手と買手の税金での考え方は次のとおりです。

【30万円で購入した時価100万円の暗号資産を50万円で売却した場合】

売手⇒70万円(=100万円×70%)-30万円=40万円が暗号資産の所得金額
買手(個人)⇒100万円×70%-50万円=20万円を贈与されたものとして贈与税を計算
買手(法人)⇒時価である100万円との差額50万円を収入として法人税を計算(正式見解はありませんがこのような考え方になると思われます)


法人に売却することで金額によっては税率差により節税となる場合も想定されますが、国税庁からの正式見解がない部分ですので上記取引を行う場合は税理士にご相談ください。

贈与・遺贈した場合は?

相続の場合を除き、贈与・遺贈した場合はその時点の時価で売却したものとして、贈与をした人の所得税の計算を行います。

贈与をされた人は贈与時の時価で贈与されたものとして暗号資産の評価を行います。

相続した場合は?

相続の場合は、贈与をされた場合と同様に、相続時の時価で暗号資産の評価を行います。


まとめ

昨今、暗号資産関係での申告漏れの報道も増えてきています。まずは基本的な税務の知識を基に暗号資産への投資を行ってください。

2021年10月現在、暗号資産の税率は最高55%(所得税+住民税)となっています。よく比較されるFXについては、10年以上を経て、その税率が20%になった経緯があります。このため、暗号資産についても同様に20%になるのではと期待が高まっています。

また、米国などでは暗号資産に連動したETFの取扱いが始まっているため、日本でもその取扱いが始まると通常のETFと同様に20%の税率適用となる可能性があります。

暗号資産の価格の行方とともに税制の行方も予測がつきませんが、それらも含めて暗号資産の魅力といえるかもしれません。

(記事参考:国税庁サイトhttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/index.htm

ブランコンサルティング株式会社CEO

佐原 由起

新卒で会計事務所に就職後、税理士と共に2013年にブランコンサルティング株式会社、及び会計事務所Blanc Tax Spaceを設立。

起業を目指す方や若手経営者に対してお金や税金のアドバイス、マネープランニングを行っている。税務・会計業務以外にも、ブランディングやPRコンサル業務も得意とし、双方をニーズに合わせて提供している。

HP:https://www.blanc-con.com/

Instagram:@yuukisahara

(記事監修:Blanc Tax Space代表税理士 宍戸 智之)

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