突然の転勤辞令。非常に悩ましい問題ではありますがビジネスパーソンであれば避けては通れないことだと思います。特にマイホームを購入していた場合、その対処をどうするかは大きな問題です。

「持ち家の人に聞いた、転勤時の住宅対処法」の調査結果によると、約3割が「賃貸物件として第三者に貸した(33.6%)」、「空き家の状態で保有した(30.6%)」、となっており、次いで、約2割が「売却した(20.1%)」、その他「親戚など身内に貸した(14.2%)」となっています(出典:「ビジネスパーソンの転勤事情に関する調査2020」東急住宅リース㈱)。

ここから、持ち家の処分については、賃貸・保有・売却の選択肢があがることがわかります。今回はそのうち、「売却」を選択した場合の税金に関して、所得税の面で考えるべきことについてお伝えしたいと思います。

その売却には税金がかかる?

☑売却損か売却益か

自身が住んでいたマイホーム(持ち家)を売却した場合、利益がでればそこに税金が発生します。その利益の計算は次のとおりです。

 

売却金額(譲渡収入金額)-購入金額(取得費)-売却時の経費(譲渡費用)=利益(譲渡所得)


これがプラスであれば利益(譲渡益)となり、マイナスであれば損失(譲渡損)となります。

譲渡益の場合、税率を乗じて税額が計算されます。

☑売却金額(譲渡収入金額)

売買契約金額に固定資産税の精算金を加算します。

不動産の売買においては固定資産税の精算金のやり取りを行うことが一般的です。固定資産税はその年の1月1日の所有者に1年分が課税されます。そのため、年の中途で売却した場合でも売手の支払った税金は戻ってきません。そこで、売買時に売手は買手から固定資産税の精算金として売買時から年末までの固定資産税に相当する金額を受け取ります。これが固定資産税の精算金です。この金額は売却金額の一部として利益を計算することになります。

☑購入金額(取得費)

購入時の仲介手数料等の諸費用合計額から売買時までの建物の減価償却費を差し引いた金額となります。この減価償却費を差し引くイメージがわきづらいためご注意ください。

☑減価償却費の計算

減価償却費とは、時間の経過によりその価値が減少していくという考え方に基づくものです。土地は時間の経過に応じてその価値が減少することはないと考えます。そのため、上記減価償却費は、土地については計算されず、建物についてのみ下記のとおり計算します。

 

建物部分の購入金額×0.9×償却率×経過年数



貸付用などの事業用の不動産の償却費の計算とは異なり、上記償却率は事業用の不動産の耐用年数を1.5倍した耐用年数による償却率となります。また、経過年数は6か月以上の端数は1年、6か月未満の場合は切捨てとしてカウントします。

償却率の詳細は国税庁のウエブサイトなどを参照してください。

☑購入時の金額が不明である場合

その売却金額の5%を買値とすることができます。購入時期がかなり前で当時の書類を紛失している時などにこの特例を利用します。ただ、売却金額の95%が利益となり納税額が大きくなってしまうため、持ち家関係の書類は大事に保管しておくことが大切です。

購入時の金額が不明である場合にはローンの資料や謄本の抵当権の記載などから取得金額を算出する方法もありますが、ケースバイケースの判断となるため、その場合は専門家に相談することをお勧めします。

☑売却時の経費(譲渡費用)

売却時の仲介手数料や印紙代などで、売却のために直接必要な支出が該当します。売却時に支出するものでも、例えば謄本の住所を変更するために司法書士に支払う費用については売却のために直接必要ではない(=その変更が住所変更時ではなく、売却時になってしまっただけ)と考えられるため、この経費には該当しません。

☑税率(長期譲渡・短期譲渡)

持ち家の売却により利益がでるということになった場合は、その利益に次の税率により税額が発生します。

 

長期譲渡所得の場合(持ち家の所有期間が売却年の1月1日において5年超)
…所得税15%、住民税5%

短期譲渡所得の場合(持ち家の所有期間が売却年の1月1日において5年以下)
…所得税30%、住民税9%


『5年』とありますが、1月1日時点での判定となります。

そのため、上記を言い換えると持ち家の購入日から1月1日を6回迎えた後であれば、長期譲渡所得に該当します。

なお、持ち家の売却にかかる税金は「分離課税」といって、給料などの税金(「総合課税」といいます)とは別に計算されます。

総合課税の所得税の税率はその所得金額によって5%~45%と変動しますが、持ち家の場合は上記2種類のみです。

確定申告の際にはざっくりいうと総合課税の税額+分離課税の税額により納める税金を計算することになります。

譲渡益となった場合に使える特例

ここからはマイホームを売却した場合の特例制度についてご紹介したいと思います。

それぞれの規定は様々な要件等があるため、概要のみをご紹介します。

まずは、譲渡益となった場合の特例です。

☑3000万控除の特例

マイホームを売却した場合にその譲渡益のうち3000万まで控除をすることができる制度です。この特例はその所有期間に関係なく適用することができます。

住宅ローン控除との併用はできず、かつ、その売却年からその売却年の前々年までの間にこの特例やその他の一定の特例を利用していないこと等が要件です。3年に一度使える特例ということになります。

なお、住宅ローンについてですが、譲渡年を含めて前4年間(2020年3月31日以前の譲渡は前3年間)及び譲渡年を含めて以後3年間は利用することができません。すでに利用していたものの、3000万控除を利用する場合には過去の修正申告を行い、ローン控除分の納税をする必要があります。

☑購入から10年を超えて売却する場合(軽減税率の特例)

マイホームについて、その土地建物の所有期間がいずれも10年超(売却年の1月1日において)の場合の税率が次のとおり軽減される制度です。この制度は3000万控除の特例と併用することができ、その控除後の譲渡益が6000万までの部分について次の税率となります。

 

所得税率…15%⇒10%
住民税率…5%⇒4%

ローン控除との関係については3000万控除と同様です。

☑買換をする場合の特例(買換特例)

マイホームの売却後に新たなマイホームに買い換える場合に、売却金額より新たに購入する金額の方が大きくなるときは、売却時の譲渡益がなかったものとされる制度です。

その土地建物の所有期間がいずれも10年超(売却年の1月1日において)で、居住期間が10年以上であること、その売却金額は1億円以下であること等が必要です。

ただ、税金が非課税となるわけではなく、その譲渡益を次の売却時まで先送りにすることになります。

 

売却金額…2000万(譲渡益500万)
買換金額…3000万
2000万<3000万のため譲渡益0(譲渡益は次回売却時まで先送り)
次回売却時…4000万(譲渡益1000万)⇒先送り分500万を加算して譲渡益1500万で計算。



上記とは逆に売却金額より買換金額が小さくなるときは、買換金額を超えた部分の金額を売却金額として譲渡所得を計算します。

なお、3000万控除の特例、軽減税率の特例との併用はできませんのでいずれの特例が有利となるか、買換後のマイホームの処分見込も考慮して有利不利を検討することをお勧めいたします。

ローン控除との関係については3000万控除と同様です。

☑2009年・2010年に購入していた場合(1000万控除特例)

2009年から2010年(平成21年から22年)までの間に土地を取得している場合にその土地についての譲渡益から1000万円を控除できる制度です。

これは居住用(マイホーム)かどうかを問いません。また、土地の譲渡益から1000万円を控除する制度であるため、建物部分の譲渡益からは控除ができないことに注意する必要があります。なお、マンションなどの区分所有権であったとしてもその敷地権部分について適用することができます。

この規定は3000万控除及び買換特例との併用はできませんが、住宅ローン控除との併用は可能です。かなり限定的な特例ではありますが該当の際は有利不利の検討をした方がいい制度となります。

譲渡損となった場合に使える特例

続いては譲渡損となった場合の特例です。通常、不動産の譲渡損については、他の不動産の譲渡益との相殺をすることしかできず、その他の給与などの所得に赤字をぶつけることができません。

しかし、一定のマイホームの譲渡損であれば、ご自身のその他の所得からその損失を差し引くことができます。

☑買換をする場合(買換損失特例)

売却したマイホームについて譲渡損となった場合に、そのマイホームは譲渡年の1月1日において所有期間が5年超(長期譲渡所得に該当)であること、住宅ローンで新たなマイホームを買い換えること等の要件を満たしたときは、その譲渡損を給与等の所得から差し引くことができる制度です。その損失が譲渡年で引ききれない場合は、譲渡年の翌年以後3年間に繰り越して差引くことができます。

譲渡年の前年、前々年において譲渡益の特例(1000万控除特例を除く)および次にご紹介するオーバーローン特例の適用を受けていないことも要件です。

なお、この特例と住宅ローン控除の特例は併用できます。

☑ローン残高がある場合(オーバーローン特例)

売却したマイホームについて譲渡損となった場合に、その譲渡損のうち次の金額まで給与等の所等から差引くことができる制度です。その損失が譲渡年で引ききれない場合は、譲渡年の翌年以後3年間に繰り越して差引くことができます。

 

限度額=売買契約前日の住宅ローン残高-売却金額

そのマイホームは譲渡年の1月1日において所有期間が5年超(長期譲渡所得に該当)であること、売買契約日の前日において売却するマイホームに係る住宅ローン期間が10年以上残っており、かつ、その残高が売却金額を超えていること等が要件です。

なお、新たにマイホームを住宅ローンで購入した場合には、この特例と住宅ローン控除の特例は併用できます。

海外転勤になった場合に考えること

転勤は国内ばかりでなく、海外への転勤となることも考えられます。

海外への転勤が1年以上であることが明らかである場合、所得税法の上では「非居住者」として取り扱われることになります。

その場合、マイホームを売却するときには次の注意点があります。

☑海外転勤となった場合には納税管理人が必要

「非居住者」であったとしても基本的に3000万控除等の特例は適用することができます。これらの特例はすべて確定申告が条件となっているため、海外転勤となった場合においても日本において確定申告を行う必要があります。

日本の所得税法上は、「非居住者」が確定申告、納税や還付金の受け取りを行うことができないことになっているため、代理で申告を行う「納税管理人」に依頼する必要があります。

この「納税管理人」ですが、特別な資格などが必要ではなく、どなたに依頼しても問題ありません。そのため、ご家族や知人に依頼することが多いかと思います。

この「納税管理人」の選任には、税務署への届出が必要となります。海外転勤に際してその出国時までに届出を行わない場合は、出国年分の確定申告の申告期限が出国日までとなってしまうため注意が必要です。届出を行った場合は通常どおり、その年の翌年3月15日が申告期限となります。

☑海外転勤となった場合のその他の留意点

前述の3000万控除等の特例は、実際に居住しないことになった日から3年後の年の年末までに売却すれば適用を受けることができます。

そのため、海外勤務となり非居住者となった以降に売却となる場合もあります。

その場合は、売却金額の10.21%を買手が天引きをする(源泉徴収)必要があります。非居住者の申告もれを防ぐための規定ですが、不動産の売買でも給料と同じように源泉徴収することをご存じの方は多くないかもしれません。

経験のある不動産業者が仲介している場合は事前に伝えてくれることもありますが、後日のトラブルを避けるべく注意していただきたいと思います。

ただし、売却金額が1億円以下、かつ、買手が個人であり自分や親族の居住用とするために購入するものについては、源泉徴収は不要となります。

まとめ

今回はマイホームの売却に焦点をあて、特例の概要をお伝えしました。

前述のとおり、それぞれの規定は概要のみにとどめているため、実際の適用にあたってはその適用要件の詳細の確認をお願いします。

また、各種特例と住宅ローン控除の重複適用や適用年についてその規定は複雑に絡み合っています。マイホームの売却は人生に何度もあるものではないため、事前に有利不利のシミュレーションを行えるよう各制度のおおまかな内容を知っておくと焦らずに検討できると思います。

ブランコンサルティング株式会社CEO

佐原 由起

新卒で会計事務所に就職後、税理士と共に2013年にブランコンサルティング株式会社、及び会計事務所Blanc Tax Spaceを設立。

起業を目指す方や若手経営者に対してお金や税金のアドバイス、マネープランニングを行っている。税務・会計業務以外にも、ブランディングやPRコンサル業務も得意とし、双方をニーズに合わせて提供している。

HP:https://www.blanc-con.com/

Instagram:@yuukisahara

(記事監修:Blanc Tax Space代表税理士 宍戸 智之)

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