世界遺産「日光東照宮」を有する日光市には、どことなく、ただの観光地ではない特別感を感じるのはなぜでしょうか。‘東照宮陽明門’の煌びやかな様子、海抜634mに位置するという東照宮付近の清浄な空気、スクッと襟を正すが如く、天を突くようにまっすぐに伸びる杉並木、そして東照宮入り口付近を流れる大谷(だいや)川にかかる朱塗りの橋「神橋」。町に残る老舗の漬物屋や和菓子店も含め、すべてが古の歴史を今に伝えているのです。
そんな日光東照宮から、ほんのわずかな距離を走ると、かつて大正天皇の夏の御用邸として使われた敷地に隣接し、田母沢(たもさわ)と呼ばれる一角があります。この地には、日光田母沢御用邸記念公園が造られ、その公園に寄り添うように和のリゾート、特別感にあふれる「ふふ 日光」が佇んでいます。開業は2020年10月2日のことでした。
日光では、東照宮を見物した後、多くの人々が一大観光地である男体山や中禅寺湖へと向かうために、紅葉の美しさで名高い‘いろは坂’を目指します。田母沢はそのいろは坂の少し手前に位置する由緒ある土地柄。ここでワンストップし、田母沢御用邸記念公園を見学する人は、国の重要文化財に触れ、また平成19年(2007)に「日本の歴史公園100選」に選定されたこの地で、ひとときのタイムスリップを体験できるはずです。大正天皇のご静養のため造営された旧御用邸でもあり、明治期の中でも最大規模の木造建築と言われています。
「ふふ 日光」はこの公園のすぐ隣に佇み、静謐な空気に包まれています。このリゾートの特別感は、この地、日光の田母沢にあるのではないかと思います。
「ふふ 日光」の入り口を入ると、ロビーに流れているのは心を静めてくれるクラシック音楽であり、温泉宿と言うには余りにモダンなスモールラグジュアリーな和のリゾートと言うべきでしょう。とはいえ、客室すべてに自家源泉から直接引かれる温泉が設えてあり、いずれのバスルームも贅沢そのものです。全館で2室のみという最上級の客室「ふふラグジュアリープレミアムスィート」(137.35㎡~143.02㎡)には、客室内にプライベート温泉がそれぞれに2か所あり、どちらのスィートでもゆったりと大きいバスルームで、半露天風呂と内風呂を楽しめるのです。まさに非日常の贅沢とは、こういうことを言うのでしょう。
客室は全部で24室。それぞれの意匠が異なる全室スィートルームの造りです。低層の建物は日本家屋の伝統の建築美と、客室は日本が近代化へと移る明治・大正期、先人たちが西洋から学んだ快適さが調和し、格式さえ感じる豪華さは圧巻です。特に室内には地元産の大谷石や杉材、光松なども使われ、また地元のアートや工芸品も置かれ、日光というロケーションを際立たせています。
食事も豪華でした。「ふふ 日光」では、日本料理と鉄板焼きがゲストをもてなしています。こだわりは「二十四節気」と「七十二侯」という日本古来の旧暦で季節を分け、豊かな季節感を繊細に料理に表現していることでした。オリジナリティに富んだ食事とともに、感動は器類にもありました。雅な器で食事をいただきながら、脳裏に浮かんだのは日光東照宮の黄金に輝く建物でした。それぞれの料理は、全国から取り寄せる食材はもちろん、栃木の名産品、さらに徳川家に献上されていたという雲丹、唐墨、海鼠腸(コノワタ)という「日本三大珍味」も登場します。さらに、「世界三大珍味」のキャビア、フォアグラ、トリュフとの饗宴も賞味できた贅沢三昧のひと時でした。日光の華麗なる歴史を感じながら、静謐な時をしっとりと過ごせるリゾートに、嵌りました。
取材・文/せきねきょうこ
Photo: ふふ 日光
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。
DATA
ふふ 日光
栃木県日光市本町1573-8
☎:0288-25-5122
客室数:24室
室料:要問合わせ
施設:ラウンジ、レストラン(節中)、スーベニール(ショップ)、大浴場(温泉)