もうダメかもしれないって何度も

全く下がらない39度台の高熱。信じられないほどの発汗。体を揺さぶるほどの激しい咳と突然の吐き気。悶えるほどの全身の痛み。悪夢。幻聴。諦めそうになる夜を何度も過ごしました。搬送先が見つからないからと、一度は断られた救急車。すがる思いで数日後に再度連絡すると、青い防護服に身を包んだ二人の救急救命士さんが駆けつけてくれたものの、申し訳なさそうに「血中酸素飽和度が…、入院基準には…」と説明して帰ってしまいました。長引く自宅待機。食欲は皆無で、栄養補助ゼリーと水だけで10日間を過ごした結果、体重が6キロ減りました。筋力が衰えて立つことはもちろん、座ることもできなくなってしまいました。発熱してから13日目。電話連絡を欠かさずくれた救急クリニックと保健所、そして事務所と家族との連携プレイのおかげで、これ以上は危険との判断を受け、遂に入院が決まりました。恐怖と不安に潰されそうな夜があまりにも長く続いていたので、入院できるとわかった瞬間、安堵の涙がこぼれました。その日、コロナウィルス感染による東京の入院患者数は過去最高を記録しました。


退院後、いの一番にしたかったこと

“THINGS I WANNA DO”
1.キッチンの掃除・整理
2.キッズバスルームの掃除・整理
3.来客用トイレの掃除
4.植物に水やり
5.メダカ水槽の掃除x2
6.掃除機かけ

(眠れない夜はベッドの中で掃除の脳内シミュレーションをしていました)


念願の退院日。息苦しさと嬉しさで5時半に目が覚めました。朝の検診まで1時間、朝食まで1時間半。考える時間はたっぷりです。ベッドの上であぐらをかき、頭の中で【したいこと】をリストアップしながらメモを取りました。待ちに待った退院の日だけに【すべきこと】は後回し。入院案内書の裏にミミズが這ったような頼りない字で書き出していき、はたから見れば夢のかけらもないリストができました(笑) 隔離と病院生活が終わった私が、いの一番にしたかったこと。それは大好きな人たちが住まう大好きな家の掃除でした!


正午過ぎ。誰もいないと思っていたので、物音を聞きつけて玄関に駆けてきた長女が「辛かったねぇ」と抱きしめてくれたときには、思わずワァーッと泣き出してしまいました。一時は本当にもう会えないと思っていたから。久しぶりに足を踏み入れた陽当たりの良いリビングルーム。大切な友人たちと数々の食事を共にしたダイニングルーム。そして家族が一番集う場所、41年物の味わいのあるキッチン。慣れ親しんだ自宅なのに、どこか郷愁の想いで部屋の隅々まで見渡していました。やっと私の一番好きな場所に帰って来られたと、本当に感無量でした。


(管理人さんが毎回見にくる玄関の花を1ヶ月ぶりに生けました)


帰宅後、座る暇もなくキッズバスルームから始めた掃除。立ち眩んだり、呼吸困難で座り込んだり、途中でランチ休憩(念願の小籠包!)を挟んだりしながら、日没までに全てをやり遂げました。家族は言います。これこそ病気だと(笑) 息も絶え絶えにバスルームの床をブラシで磨く私を見ながら、「ママがそれで満たされるんなら」と呆れ顔の娘たち。私にとって掃除とは、絵描きが一心不乱にキャンバスにブラシを走らせるのと同じこと、なのかもしれません。掃除はエネルギーの放出であり、メディテーションであり、リラクゼーションの活動なのかもしれません。


好きな場所で始まり、好きな場所で終わる

(初回コラム「都心のヴィンテージマンション」で紹介したキッチンの一角には現在メダカ水槽が置いてあります)


一番好きな場所が家というのは、本当に幸せなこと。家族も同じように感じてくれていたら嬉しい限りです。すでに一人暮らしを夢見るティーンエイジャーの娘たちにも、いつかそんな家との出会いがあれば良いなと思います。たとえ私の住まうこの家が2番目に降格したとしても。

渡航先で訪れた温かな家、旅先で出会った人たちの住まいを紹介したい。そんな想いから始めた当コラム。最初の投稿は私の住まい、都心のヴィンテージマンションについてでした。海外旅行に行けない期間は苦肉の策で磯野家の間取りを紹介したりと、私自身心から楽しみながら、そして工夫を凝らしながら続けてきました。この場をお借りして、どうか感謝の気持ちを伝えさせてください。素敵な執筆の場をくださったSUMAU TEAMの皆様、そしてこれまで読んでくださって皆様、本当にありがとうございました。2年にわたって続けてきた当コラムは、一旦終了となります。実際のところネタが尽きてしまいました…。また不本意ながらもコロナウィルスに感染してしまい、更新できない月もありました。本当に申し訳ない。コラムの連載は終了しますが、これから別の形でSUMAUに関わっていく予定ですので楽しみにしていてください。


これからの東京不動産は夢しかない!

(クローゼットの整理はいつもファッションショーで始まり、そして永遠に終わりません…)

SUMAUでコラムを書くにあたって、不動産や住宅にまつわるニュースを積極的に読むようになりました。その影響でNETFLIXの不動産リアリティ番組『セリング・サンセット』や『ミリオンダラー・リスティング:ニューヨーク』に出演していたブローカー、ライアン・サーハントのYouTubeチャンネルがお気に入りになりました。昨今、そういった不動産番組に夢中になるティーンエイジャーは多いようで、娘たちの同級生にも「将来の夢は不動産屋さん!」という子ども達が数人います。なんて夢のある仕事なんだろうと大人になって気がついた不動産業界。リモートワークが完全普及した今の東京、デュアルライフに拍車のかかるこれからの東京で、今後どのような物件が必要とされるんでしょう。どのような物件でデベロッパーは驚かせてくれるんでしょう。東京の不動産に今まで以上に大きな可能性を感じています。これからも変わらずSUMAUで情報収集しながら、いつかもっと好きだと思える終の住まいに出会えたらなって思っています。これまで拝読くださって本当にありがとうございました! また、近いうちにここでお会いしましょう。

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