仕事が早く終わった日、急に予定が空いた夜はひとりで気ままに過ごすにはいいタイミング。カウンターがあるレストラン、ワインや日本酒の注目店など、今やひとりで行っても十分に楽しいお店は増える一方です。ここでは“ひとりでも妥協なし、きちんと美味しいもの”をテーマに、ひとりごはん&お酒の良質な空間を紹介します。

パンとワインと料理

トリプルで楽しむレストラン

美味しいパンとワイン、そして料理がそろえば幸せなことは間違いなし。というわけで数年前から人気の“パン飲み”がここにきてますます加速中だ。そんな“パン飲み”の人気店の中でも、注目の一軒が『 Cise 』。ここでは、食パンの他に4~5種類のパンを日替わりで焼き上げていて、店内で食べられることはもちろん、店頭で販売することもある。

店主の宮武郁弥(ふみや)さんは、野菜料理のイノベーティブフュージョン『Coulis(クーリ)』出身。その修行時代にパンを担当することになったことがきっかけで、すっかりパンの世界にハマってしまったのだとか。やがて、パン職人『ロティ・オラン』の堀田誠さんに出会い、その考えに感銘を受けてさらにパン作りにのめりこんでいったという。

手前は開放的なカウンター。奥はスキップフロアで大テーブルもあり落ち着ける雰囲気。

そんな宮武さんにパンの魅力を聞いてみると、

「パンがだんだんとかわいく思えてきて…」

と晴れやかな笑顔を見せる。自家製で酵母を起こし、発酵で膨らむパンの成長を見守る、気分はパンの育ての親なのかもしれない。

その日焼き上げたパンは店頭でも販売されている。

『Cise』のパンに使うのは北海道小麦『春よ恋』。高加水で焼き上げるパンは、ふんわりもっちりでくちどけが良い。自家製酵母は、清澄白河フジマル蒸留所で出るワインの搾りかすや季節の果物など、その時々で変わるという。つまり、酵母違いのパンとの出会いは一期一会なのだ。

イワシと八朔のマリネ ビーツのソース 1000円
3%の塩水で7分間〆たイワシのマリネをローストしたビーツとバルサミコのソースで。

そして宮武さん、実は世のパン職人たちが注目する一人でもある。料理人の視点からパンを考えるその発想はとてもユニークで、例えば焼きナスをピュレにして生地に加えたり、生の青のりを加えたり、ワインや自身の料理とのペアリングを意識してパン作り出している。

漁師 大高一真のホタテムニエル 2000円
ジャンボホタテ、フキノトウ、ちぢみホウレン草。ソースは富山のホタルイカ、ドライトマト、ケイパー。相性のいい青のりのパンを添えて。

一方、料理は『Coulis』で学んだ巧みな野菜使いと、新鮮な魚介が主役。とくに、生まれ故郷北海道の同級生が送ってくれるジャンボホタテにはびっくり。オホーツク海に面した野付半島で獲れた帆立を、間髪入れずに送ってくれるので鮮度は抜群。その日なら肝も生で食べられるほどだという。肉厚で大ぶりの帆立は甘みが濃厚、身がしまっていて歯ごたえがいい。

フレンチやイタリアンの技法を使い、野菜の香りや甘みを意外性のあるアイデアでまとめた料理はフリースタイル。素材とのびのび向き合う姿勢が食べる楽しさを生み、フォトジェニックな盛り付けも気分を盛り上げてくれる。

ワインはナチュラルなものからスタンダードなものまでバランスよくセレクト。

そんな料理とパンを繋いでいるのがワインの存在。ソムリエールの満田あゆみさんが選ぶワインは、自然な造りのものや日本ワインなど、料理、パン、ワインがお互いに優しく寄り添ってトライアングルを形成する。最近では、この3点を使ったトリプルペアリングもやっているというからぜひ味わってみたい。

カウンターもあるため、おひとり様も気楽な『Cise』。ワインとパンと料理で軽く飲む、カジュアルなおまかせコースでしっかり夕食、ワインとパスタだけなど、自分流に使いこなすゲストも少なくないとか。

右から、シェフの宮武さんとソムリエールの満田さん。

寒さも緩み季節も春めいてきたこの頃、パンとワインでゆるりと穏やかな夜を過ごしてみては。根津駅からクネクネした路地を歩いてたどり着くアプローチも楽しく、上野恩賜公園のすぐそばだけに花見帰りに散歩がてら立ち寄るのもおすすめだ。

Cise

チセ

住所:東京都台東区池之端3-4-19 1F

電話:03-6884-1989

営業時間:12:00~15:00(LO14:30)/18:00~23:00(LO.22:30)

定休日:不定休

※掲載価格は税別価格です(2020年3月現在)

(取材&文・岡本ジュン 撮影・加藤熊三)

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