春になると桜の開花はまだかまだかと外の景色に目をやる機会が増える。幼い頃から目にしている風景に、翌年もまた出会えることが待ち遠しくてそわそわしてしまうのだ。1年のうちの限られた期間にだけ咲き誇る桜を見ると、まるで日本中が祝福されているような、おめでたくて嬉しい気持ちになるこの時期は、四季のある日本でも特別な季節だと思っている。

さて、今月ご紹介する器は、柿右衛門白磁陽刻松竹梅文輪花皿(かきえもんはくじようこくしょうちくばいもんりんかざら)だ。この器とは今から4年近く前、ある古美術即売会で出会った。視界に入ってすぐに柿右衛門だと思ったものの、その特徴とも言える色絵がなく、どういう位置付けのものなのかさっぱりだった。よくわからないものだけれど単純にとても好きという、いわゆるビビビとくる出会いだったので、そのまま持ち帰り、その日から我が家の器の一軍として日々活躍してくれている。

17世紀初頭は白磁と色絵の登場する日本の磁器の黎明期にあたり、有田を含む肥前一帯でやきものが作られていた。そこでは柿右衛門に先行し、初期伊万里様式や古九谷様式といった、これまでに日本では作られてこなかった磁器が短期間のうちに生まれた。当時、高級品として輸入されていた中国磁器が、政治的混乱により入ってこなくなったことから、国内でせっせと焼かれるようになり輸出も盛んに行われた。

柿右衛門様式は、初代酒井田柿右衛門が1647年頃に長崎に逗留する中国人より赤絵の技術を学び、焼成(しょうせい)に成功したことに始まる。柿右衛門様式は主にヨーロッパ圏への輸出用として作られたため、彼の地で好まれるような柔らかい色彩で表現され、左右非対称の余白を生むような構図が用いられた。これはそれまでの染付とは全く異なるもので、王侯貴族から重宝された。柿右衛門は1670年〜1700年頃までのおよそ30年間に作られていたと考えられており、その後はより華やかな金襴手(きんらんで)様式にとって変わられていく。

先述の通り、柿右衛門の特徴とも言える色絵がされていないことがこの器の個性であるが、料理を盛ってみるとかえって色彩のあるものよりも縛りがなく使いやすい。そもそも柿右衛門は南京赤絵など中国の焼き物の影響を受けて、西洋向けのデザインが日本で制作されたという流れを考えれば、和洋中なんでも合うというのは合点がいく。

今回の料理は、ネギとホワイトアスパラのパルメザンヴィネグレットだ。フランスの料理店で見習いをしていた頃のこと、毎日の賄いがヘビーで、お肉にずっしりとしたソースが定番だった。疲れた体のエネルギー源とはいえ、胃もたれ必至・・・そんな時に付け合わせでいただいた、ポワローヴィネグレットに開眼したのは当然の成り行きだった。湯がきたてのほんのり暖かいポロネギに、酸味の効いたヴィネグレットが口だけでなくお腹の中までさっぱりさせてくれて、今では懐かしく思い出す料理となった。ポロネギは入手しづらいので、今回は長ネギを使って温かいうちにソースをかけていただくようにした。そしてパルメザンチーズをベースに、酸味は抑え気味のレシピとした。

ネギとホワイトアスパラのパルメザンヴィネグレット

-材料(2人分)

  • 長ネギ(白い部分のみ) 2分の1本
  • ホワイトアスパラ 4~6本
  • 卵 1個
  • 粉チーズ 3g
  • レモン汁 5g
  • 塩 2つまみ
  • オリーブオイル 10g
  • ホワイトバルサミコ1.5g
  • マスタード 1.5g

1、ネギの下処理をする。ネギは白い部分を3センチ幅に切る。これを立てて、切り込みを入れて中心にある芯の部分を取り出す。さらにネギの間にある薄皮をむいておく。

2、ホワイトアスパラの下処理をする。ホワイトアスパラは根元を持って手で軽くしならせると、折れる。穂先から折れた場所までが食べやすい部分なのでここを使う。穂先から下は硬いのでピーラーでむいてネギと同じくらいの幅に切り揃える。

3、卵のミモザを作る。常温に戻しておいた卵を殻ごと12分茹でてから、冷水で冷やして殻をむく。これを半分に切って黄身だけ取り出し、濾す。

4、材料に火を入れる。鍋に湯を沸かし、分量外の塩とレモン汁を入れておく。まずネギを柔らかくなるまで茹でてから、引き上げる。次にホワイトアスパラガスを入れて5分程度茹でて引き上げる。

5、ドレッシングを作る。粉チーズ、レモン汁、塩、ホワイトバルサミコ、マスタードを合わせから、オリーブオイルを加えて泡立て器でよく混ぜる。

6,器にネギ、アスパラを並べ、上からミモザ、ドレッシングをかける。

前菜として、またはぜひボリューム感のあるお肉の付け合わせとしてもお楽しみいただきたい。

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。

Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/

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