つい先日まで薄手のシャツ1枚で過ごしていたというのにあっという間に季節は巡り、時はすでに年の瀬に。歳を重ねるほど、時間の経過が早く感じられるというけれど、今以上に早くなるのだとすると、なんだかもう…、目の前の小さな幸せに感謝しながら日々を慈しんで生活したいと思う今日この頃。

年始はおせちが続くこともあり、その前後はとっておきの洋食を作ることが多い。中でも欠かせないのはシーザーサラダだ。ロメインレタスに、サクサクのクルトン、濃厚なドレッシングにパルメザンチーズ。グルメなサラダで食事が始まることで、先に続く料理への期待値が上がる。

そもそもシーザーサラダとは、アメリカとメキシコを拠点に活躍したイタリア料理人、シーザー・カルディーニ(1896―1956)によって1924年に考案されたもの。今からほぼ100年前に作られたという歴史を持つ。当時のアメリカでは禁酒法が施行されていたため、多くの人が酒を求め国境を超えてメキシコのティファナに向かった。このティファナで店を構えていたのがシーザー・カルディーニで、アメリカの独立記念日に客が殺到してしまったため、有り合わせで作ったのがシーザーサラダだった。これがとても美味しかったことから人気を博し、さらにドレッシングを販売したことで世界的に認知されるようになった。かつて一世を風靡した料理研究家ジュリア・チャイルドによれば、オリジナルはロメインレタスの中心の柔らかい部分のみを使用し、今のようにアンチョビは入っていなかったのだとか。

シーザーサラダはしっかりとドレッシングと葉を混ぜ合わせないと、ソースが一箇所に固まってしまってしょっぱかったり、逆に物足りなかったりしがちだ。そこで、混ぜずともシーザーサラダの美味しさを凝縮して味わえたら!と考えたのがひとくちシーザーサラダだ。サクサク生地の上には、モッタリした濃厚なソースとチキン、そして葉の柔らかい部分のみを贅沢に使ったフリルレタスと、おもてなしのスターターに理想的な一皿とした。

器は黒田泰蔵(1946―2021)の白磁銘々皿(めいめいざら)。泰蔵さんは、シャープでシンプルな白磁のうつわの第一人者として知られる。泰蔵さんの作品を意識してきちんと拝見したのは今から3年前、大阪市立東洋陶磁美術館での個展の際だった。隙を与えない緊張感のある焼き物の形状に、初めて目にしたときには盛り付けたい料理のイメージがすぐには浮かばなかった。器だけで完成しているので、何かを足したりする必要性を全く感じなかったのだろう。真っ白なのだから、パレットに見立てて様々な色のソースで自由に絵を描いたら美しくなるだろうと思ったけれど、西洋料理は食べ終わる頃には色が混ざり合って皿が汚れてしまう。かといって普段の家庭料理のような生活感のあるものはピンとこない。できるだけ器を汚さないようなもので、ミニマルでピュアなもの。そういうイメージがしっくりきた。

轆轤(ろくろ)目がはっきり出ているけれど、うるささはなくて、容易に欠けてしまいそうなほど先端が薄く先へ先へと伸ばされている。ずーっとそのまま途切れることなく続いていくような焼き物。普遍的なのに、モダン。これまで他の焼き物には感じたことのない不思議な存在感があって、自分にとっても普段とはアプローチが異なる魅力的な器だ。

ひとくちシーザーサラダ

材料(2人分)

  • 春巻きの皮 4枚
  • バター 15g
  • ハチミツ(アカシア)15g
  • マヨネーズ 20g
  • 粉チーズ 7g
  • 粒マスタード 3g
  • 白胡椒 少々
  • 塩 少々
  • リーペンのウスターソース 1〜2滴
  • ササミ1本
  • フリルレタス 適宜
  • 白バルサミコオイル(またはエクストラバージンオリーブオイル) 適宜

1、ソースを作る。分量のマヨネーズ、粉チーズ、マスタード、白胡椒、塩、リーペンのウスターソースを混ぜる。モッタリとした重めの質感になる。

2、ササミに火を入れる。鍋に湯を沸かし、ササミを入れて蓋をして火を止めて10分待つ。冷めたら3ミリの輪切りにする。

3、型を選ぶ。サイズは、このようにミニタルト型がすっぽり入るサイズのセルクルを選ぶ。

今回使用したセルクルは9cm、ミニタルト型は一番広いところが6.5cm。

4、生地を作る。バターと蜂蜜を片手鍋で溶かす。春巻きの皮1枚に溶かしたバター蜂蜜をスプーンでざっくりと塗り、もう1枚の春巻きの皮を上から重ねる。

この生地の上にセルクルを置き、包丁の先端を使って丸型に抜く。

抜いた生地をミニタルト型に乗せて、上から別の型を乗せて形を固定する。これを作りたい個数分繰り返す。今回は2人分の4個。

5、160度のオーブンで15分焼き、型から外す。

5、フリルレタスを生地より少し高いくらいにカットする。生地の上にササミの輪切りを乗せ、上からたっぷりソースを広げ、その上に差し込むようにレタスを置いていく。レタスの上からスプーンで、白バルサミコオイル、もしくはエクストラバージンオリーブオイルをかける。白バルサミコオイルを使うと華やかさが増す。また今回はエディブルフラワーのペンタスを使用した。

粉チーズをかけると冬らしいに景色に。シンプルな白磁を使って、清らかな新年を祝いたい。

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、フランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。

Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/

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