ニューヨークには世界中から多くのアーティストが集まって来る。マンハッタンのチェルシーエリアに集まるギャラリーの数は世界一、アートマーケットは常にニューヨークを中心に動いている。高額な作品を買う富裕層も多いが、成功を目指す若いアーティストが作品を発表する場も、それを受け入れる土壌もある。世界的なパンデミックにより、ニューヨークの経済も世界の他の都市同様に大きな打撃を受けているし、現在は各国間の自由な移動が制限されているため、例年よりだいぶ静かな夏となったが、おそらく今後もニューヨークは世界中のアーティストたちを惹きつけ、最新のアートシーンを作り出していくことに変わりはないだろう。

そんなニューヨークを拠点に活動しているアーティストの松山智一氏とタッグを組んだパブリックアートプロジェクトが、2020年7月、東京・新宿に完成した。構想を含めると3年にも及んだこのプロジェクトのアートディレクターとして、完成までの経緯を振り返りつつ、この時代を考える。

通常、アートは美術館やギャラリーなど、それらを体験することを目的とした場所に存在するが、公園や広場などの公共空間(パブリックスペース)に設置されるアート作品のことをパブリックアートと呼ぶ。新宿でのパブリックアート製作の話をいただいた際にまず思い浮かべたのは、札幌市にあるモエレ沼公園(*1)だった。規模は違うが、公園にただオブジェを置くだけではなく、公園全体を作品として捉えた彫刻家イサム・ノグチの考え方にはかつてから強い関心があった。

今回起用された松山氏は、アーティストとしてのキャリアをニューヨークでスタートさせ、その後欧米を中心に活動。世界トップクラスのアートフェアへの出展、美術館での個展の成功や名だたるコレクションへの作品収蔵など世界の現代アートシーンで注目度が高まる中、2017年4月に東京で個展を開催(*2)。そのキュレーションを担当したが、国内での個展は11年ぶりとあって大きな反響があった。「東洋と西洋」「古典とポップカルチャー」など相反する要素をサンプリングする作風が新宿のカオス感にマッチすることから、松山氏にパブリックスペースの監修とアート制作をオファーした。アーティストが作品を設置するだけではなく、空間全体を作品として考えるというイサム・ノグチの考え方にも賛同いただき起用が決まった。建築に関わる専門的な領域は、住宅から商業施設、公共施設まで様々な規模の設計を手がけ、国内外でも評価が高い株式会社シナトが担当した。

松山氏は監修にあたり「Metro-Bewilder(メトロ・ビウィルダー)」というコンセプトを打ち出した。「都市:Metro」、「自然:Wild」、「当惑:Bewilder」という3つの言葉を合わせた造語で、都市と自然が融合し、驚きを与える新しいパブリックスペースを表現している。中央には新宿の都市風景を映す鏡面ステンレス製の7mの巨大モニュメント、床には四季のイメージがダイナミックに広がる。




本来このプロジェクトは、2020年夏に開催予定だった東京オリンピックに向けた新宿駅周辺美化の一環で、東口駅前広場をパブリックスペースとして整備するという趣旨でスタートした。しかし、今年前半から続く新型コロナウイルス感染症の影響で、残念ながら東京オリンピックは中止となり、一つの場所に多くの人が集まることさえも出来ない日々が今も続いている。多くの人がこの広場に集い、空間やアートを楽しみ、それがこの場所の文化的価値を上げることをイメージしていたが、それが今は出来ない。しかし、人が集まり文化を作るという「都市の機能そのもの」が揺らいでいる今、改めて松山氏の打ち出したコンセプトを考えることはとても興味深い。まさに今我々は都市と自然の狭間で当惑しているのではないか。

今後も人が集まらない(集まれない)世界が続くのかといえば、そうはならないと思う。人々が都市を捨て、自然に帰ることはないだろう。長い歴史の中でも、戦争や自然災害、パンデミックで都市化が止まることはなく、人はより文化的な生活を求めて、常に移動し、集まる。アートはそのような都市文化の中で、自身への問いかけとして存在し続けてきた。自然の美を描こうと、自然の素材を使おうと、自然の中で作ろうと、アートは究極的に人工物であり、それは人間が作り出す文化の中で生まれ、自然からは生まれることはない。言い換えればアートは文化そのものである。

松山氏の作り出したこの空間は、私たち人間は自然の一部であると同時に、文化無くしては存在する意味を確かめることすら出来ないということを思い出させる。コロナに限らず世界が大きく変化する中で、どのように生きるか、どのように生きたいかを改めて考える機会が多い今、この空間が完成した意味の大きさを感じている。

参考URL

(*1)モエレ沼公園 https://moerenumapark.jp/

(*2)松山智一個展「Same Same, Different」https://www.lumine.ne.jp/lmap/post/LMAP/20180404/samesamedifferent/

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新宿駅東口駅前広場 Shinjuku East Square

アート制作、コンセプト、全体監修:松山智一 <http://matzu.net/>

施工:株式会社 安藤・間

デザイン設計、デザイン監修:株式会社シナト < http://www.sinato.jp/>

基本設計、実施設計:株式会社JR東日本建築設計 ディレクション:戸塚憲太郎

戸塚憲太郎 (とつかけんたろう)

1974年、札幌生まれ。武蔵野美大卒業後、彫刻家を目指し渡米。2004年、アッシュ・ペー・フランス入社。同社が運営するクリエイティブイベント「rooms」のディレクターを経て、2007年表参道にhpgrp GALLERY TOKYOを開設。若手アーティストの為の新たな市場を作るべく、独自のアートフェアや商業施設でのアートプロジェクトなどを多数プロデュース。現在はニューヨークを拠点に、展覧会キュレーションやアートプロジェクトのディレクションなどを手がける。

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