ニューヨークの街がロックダウンした2020年3月22日から、間もなく一年が過ぎようとしている。ライフスタイルや日常における優先順位、価値観、習慣など様々なことが大きく変化し、世界中の人々がこの変化にどうにか折り合いをつけ続けている。

アメリカでは、単に感染症そのものに関わる事象だけではなく、人種差別や経済格差、それらを生み出してきた政治など、誕生してそう長くはないアメリカの歴史の中で複雑に絡み合った多くの問題を浮き彫りにもした。また、大統領選と時期が重なったことも問題をより複雑にした要因といえる。

ニューヨークに暮す多くの人々同様、アーティストもまた精神的、経済的、物理的な苦境にさらされているが、この状況を作品に反映させようとよりアクティブに活動を続けるアーティストも多く存在する。

ニューヨークを拠点に活動する写真家・更井真理は、パンデミック最中の2020年9月、カメラを手に街に出た。ロックダウンを経験し、不安の中で夏を迎え、半年ぶりに歩くニューヨークの街並みは更井の目にどう映ったのか。

いわゆる「ファッション・フォトグラファー」として国内外の名だたるメディアで活躍してきた更井はストリートフォトの経験がなく、最初は見ず知らずの人に、しかもこの状況下で声をかけることに戸惑ったという。

しかし、更井が街で出会った多くの人々は温かく、再生への希望に満ちたタフなニューヨーカーだった。パンデミックによる甚大な被害に加え、Black Lives Matterや暴動など、混乱したニューヨークのイメージを煽るような報道が目立ったが、更井が見たのは再建に向けたエネルギーに満ちたニューヨークだった。どんな状況でも果敢に前を向くニューヨーカーを写真に収められたことは、更井の写真家としての可能性を大きく広げたのではないかと思う。

余談となるが、私は2001年のアメリカ同時多発テロ事件発生時、ニューヨークで暮らしていた。ソーシャルメディアも存在せず、情報が錯綜する中、いつどこで次の攻撃があるのかと見えない恐怖を感じる日々。人種や宗教に関する誤解、偏った愛国心など、少なからず今回のパンデミックと通じる空気感があった。あまりの出来事に呆然となる一方、すぐに再建に向けて動き出すポジティブさも共通している。

まさにカオスと呼ぶにふさわしい2020年9月のニューヨークを、更井が毎日歩いて撮影した写真が一冊の写真としてまとめられた。

タイトルは「SEPT. 2020 NYC」。 世界一タフな街で、パンデミックの中で明日も生き延びようとする人々が収められている。更井自らもその強さとチャーム、全てを受け入れる懐の深さに魅了されたニューヨーカーの一人して、今の彼女にしか撮れないドキュメンタリー写真集に仕上がった。今回のプロジェクトを通じて、ドキュメンタリー、ストリートフォトという新しい可能性を見出した更井真理のさらなる活躍に期待したい。

更井真理写真集「SEPT. 2020 NYC 」

2021年3月26日発売開始

2021年3月5日12:00よりウェブ先行予約受付開始

詳細お問い合わせ: www.purezine.jp

更井真理写真展「SEPT. 2020 NYC 」

会期:2021年3月26日〜4月4日

プレビュー:3月25日 12:00-20:00

会場:SOI (東京都渋谷区神宮前6-14-15)

詳細お問い合わせ:Instagram @SO1

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戸塚憲太郎 (とつかけんたろう)

1974年、札幌生まれ。武蔵野美大卒業後、彫刻家を目指し渡米。アッシュ・ペー・フランスが運営するクリエイティブイベント「rooms」のディレクターを経て、表参道にhpgrp GALLERY TOKYOを開設。若手アーティストの為の新たな市場を作るべく、独自のアートフェアや商業施設でのアートプロジェクトなどを多数プロデュース。現在はニューヨーク、ソーホーのギャラリーNowHere(ナウヒア)を拠点に、展覧会キュレーションやアートプロジェクトのディレクションなどを手がける。

INSTAGRAM

戸塚憲太郎 @kentaro_totsuka

NowHere @nowhere_newyork

hpgrp GALLERY TOKYO @hpgrpgallery_tokyo

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