外出自粛が段階的に緩和され、都内に住む人たちの気持ちも少しずつ外へ外へと向き始めています。晴れた週末の公園ではソーシャルディスタンスを保ちながら日光浴をする幼い子連れの家族や若いカップルを見かけます。距離を保ちながら外で遊ぶのにちょうど良いのか、バトミントンのセットを持ったカップルが特に目につきます。若い気持ちをまだ失っていない40歳と自覚していますが、実際に若い人たちが街中に戻ってくる様には心が踊ります。新しい日常に早くも順応し、新しい社会的ルールを守りながら余暇を楽しむその姿に勇気付けられます。

ある晴れた日曜日、都内でも比較的大きな公園を訪れました。ピクニックをする家族や膝枕をしながら愛を語り合うカップルを横目に歩き、鬱蒼と茂る木々の間を抜け、奥へ奥へと進んでいき、人の気配がなくなったと思った矢先。目の前にぽっかりと陽の当たる直径25mほどの円形の広場が現れました。陽光がまるでスポットライトのように照らすその広場には神聖な雰囲気さえ漂っていました。が、それも一瞬の感想で、視線を下ろすと、そこには茶色い群れが。

上半身半裸で、こんがりと日焼けした背中を上に芝生に横たわるオジサンたちの群れ。パッと見で白髪の方が多く見えたのでオジサンと総称させていただきますが、誰もが見事に2mほどの距離感を保ち、うつ伏せになって日焼けを堪能していたのです。ニューヨークのセントラルパーク、パリのリュクサンブールガーデン、ロンドンのプリムローズヒル、バンコクのルンピニパークと、世界各地の美しい公園を訪れてきましたが、この様な光景は初めてです。あたかもそこが自宅リビングかのようにくつろぐ男性陣。強制的に、自発的に、家で過ごす時間が多くなってしまった新しい日常の中で、自分だけの癒しの場所を見つけてくつろぐオジサンたちの姿に思わず笑みがこぼれました。そして夏の風物詩、実家のリビングに敷いた藤あじろの上に寝そべる父を思い出しました。

母の日、私はたくさんの花をもらいました。さて、6月21日の父の日はどうするかな。

どこまでも広がるスライムのようにリビングに寝そべる父は、むかしから他人の家が苦手で、くつろぐことできないと言います。私の家はもちろん、母の実家も自分の実家すらも気が休まらないと言い、「自分の家が一番だから」と近場の宿をとるほどです。私の目指す自宅インテリアは【来る人がくつろげる空間作り】なのですが、父を除いて、我が家を訪れる全ての人が「のんびりできる」と言ってくれます。

私のベッドルームを荒らす次女。

リモートワークの定着によって住まいの場所だけでしかなかった自宅が、いまや立派な仕事場として価値を持ち、さらには社交場としても再解釈されつつあります。外出自粛期間を利用して、多くの人がインテリアの見直しを図ったのではないでしょうか。実際、近所の家具量販店や生活雑貨店、郊外のホームセンターはいつにも増して賑わっていたようです。私もキッチンやバスルームの収納を整理整頓し、観葉植物を増やし、ベッドリネンを新調しました。「今回こそは!」と父が大阪から遊びに来るのを楽しみにしていたのですが、先の夢として、秋の父の再訪を楽しみにしています。父がリビングの床に寝そべり、なおかつ寝落ちしてくれたら、それこそが私のインテリアの完成なのです。

クリス‐ウェブ佳⼦(モデル・コラムニスト)

 1979 年10 ⽉、島根⽣まれ、⼤阪育ち。4 年半にわたるニューヨーク⽣活や国際結婚により、インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PR など幅広い職業経験で培われた独⾃のセンスが話題となり、2011 年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物⾔いと広い⾒識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017 年にはエッセイ集「考える⼥」(光⽂社刊)、2018 年にはトラベル本「TRIP with KIDS―こありっぷ―」(講談社刊)を発⾏。interFM897 にてラジオDJ としても活動中。

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