多くの時間を費やして計画を練る人、とりあえず行ってみようという人。昨年の年末年始(2018年12月21日〜2019年1月3日)の成田空港と東京国際空港(羽田空港)の日本人出入国者数の合計は97万720人で、年末年始旅行の動向としては過去最高を記録しました。人気の渡航先は羽田空港が1位中国、2位韓国、3位アメリカ。成田空港が1位アメリカ、2位中国、3位韓国となっていて、私もその例に漏れず、年末に成田空港からティーンエイジャーの娘2人を連れてアメリカへ、3泊5日の弾丸旅行へと旅立ちました。目的はニューヨークでの年越しと買い物。滞在したのはレキシントンストリートの21丁目と22丁目の間にある老舗ブティックホテル、グラマシーパークホテルでした。 
参照:東京入国管理局羽田空港支局 / 東京入国管理局成田空港支局

グラマシーパークホテルのエントランス前

伝説のホテル、グラマシーパークホテル

1925年に創業して以来、ファッションやアートに欠かせないアイコニックな存在として人気のグラマシーパークホテルは、ルネッサンスのリバイバル様式を取り入れた荘厳な外観建築で歴史的建造物にも指定されている由緒正しいホテルです。70年代にはケネディー元大統領が家族とともに住み、ボブ・ディランやザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイやマドンナといった数多くのアーティストたちの社交場として栄華を築いてきました。またマーガレット・ハミルトンやマット・デイモンが自宅として、そして多くのセレブリティがいまだ常宿として利用するなど、小さなホテルながらも世界的な知名度を確立しています。

極寒のなか、私がよく通ったスーパーへ買い出しへ (あまりの寒さに笑う次女)

念願かなっての滞在

2000年代に入り、ホテルのプロモーターでありブティックホテルの定義を確立させたことでも有名なイアン・シュレーガーが買収したことで、グラマシーパークホテルに新たな転機が訪れます。1970年代にディスコブームの火付け役となったスタジオ54をオープンさせたイアン・シュレーガーがアーティストの聖地を手掛けるとあって、その当時、ニューヨークではグラマシーパークホテルのリニューアルは大きな話題を呼びました。近所に住んでいたこともあり、2006年のリニューアルオープンを楽しみにしていたのですが、その前に帰国してしまったため、念願かなっての滞在となったわけです。ちなみにグラマシーパークホテルの立地は決して観光には向いていません。セントラルパークまでは徒歩45分、タイムズスクエアや買い物エリアのソーホーまでも徒歩30分の距離があり、どこへ行くにもタクシーや地下鉄が必要になります。全ての喧騒から離れた閑静な住宅街、マンハッタン随一の一等地であるグラマシーエリア。なぜそんな場所に滞在したいのか。しかも子どもと。

デビッド・ラシャペルの写真か飾られたグラマシーパークホテルのラウンジ

ヒップなニューヨーカーになりきる

その理由は、暮らすように旅がしたい、それに尽きます。私が4年半住んだニューヨークだけでなく、幼い頃から色々な場所をともに旅してきた子どもたちには暮らすように旅をしてもらえることを心掛けてきました。エンターテイメントの宝庫であるニューヨークであってもそれは変わらず。例えば、グラマシーパークホテルのリニューアルオープンに際したインテリアデザインは、映画『バスキア』(1996)の監督・脚本をつとめたジュリアン・シュナーベルが手掛けたのですが、彼はこれまでのコンセプトを大胆に刷新し、自身の自宅のインテリアをそのままホテルに導入したのです。真っ赤な絨毯、深紅のベルベッドカーテンやラウンジチェア、アンティークタイルのバスルーム、オリーブグリーンやダスティピンクに塗られた壁、裸電球にハンドメイドの重厚な家具。細部に至るまで全てが70年代のボヘミアン調。そして壁にはバスキアやダミアン・ハースト、アンディー・ウォーホールやデビッド・ラシャペル、キース・ヘリングやリチャード・プリンスといったニューヨーク近代美術館(MoMA)も顔負けのアートワークが壁に飾られているのです。その実、子どもたちとのニューヨーク旅行では美術館をスキップしました。

ニューヨークと言えばコーヒーとドーナツ

秘密の公園

ヒップなニューヨーカー、ジュリアン・シュナーベルの世界観を体感できるグラマシーパークホテル滞在にはもう1つの理由があります。それはニューヨーク唯一のプライベートパーク、グラマシーパークです。この小さな公園は近隣住民しか入ることを許されないプライベート空間なのですが、グラマシーパークホテルに滞在すればこの公園の鍵を貸してもらえるのです。近場でテイクアウトのコーヒーとドーナツを買い、グラマシーパークのベンチに腰掛け、時間を忘れて読書をする。そんなささやかな長女の夢は12月末の寒空の下、あまりの寒さで実現しませんでしたが、それを実行するのが来年の彼女の希望だそうです。次女は公園で出会った女性の飼い犬、ミニチュアシュナウザーのラウルとの再会を心待ちにしています。「この場所にまた来たい」というのが旅の最上のお土産で、長女に至ってはニューヨークにいつか住みたいと思っているようです。

ベッドでカウントダウン番組に興奮する次女とパッキングに精を出す私

HOME SWEET HOME

帰途のためパッキングをしながらホテルで2019年を迎えた翌日。元日の夜にニューヨークを発ち、静まり返った東京へ戻りました。自宅の玄関扉を開け、入ってすぐのリビングルームのソファにバタンと大胆に寝転ぶ二人。「あぁ、やっぱり家が一番良いよねぇー!」と言いながら大きな伸びをする二人。それは旅先から帰った私が一番聞きたい言葉。「結局、おうちが最高だよね」って。今年の年末年始はしばらくぶりの東京滞在です。年越しそばも久しぶりに作ります。30日に買い出しに出て、お品書きも書いて、お酒はもちろんたっぷり用意して、友だちを呼んでみんなで自宅で新年を迎えます。今年は特に慌ただしい一年でした。だからこそ年末年始だけはゆっくりと。みなさんも素敵な時間をお過ごしください。良いお年を!!

クリス‐ウェブ佳子(モデル・コラムニスト)

1979年10月、島根生まれ、大阪育ち。4年半にわたるニューヨーク生活や国際結婚により、インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PRなど幅広い職業経験で培われた独自のセンスが話題となり、2011年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物言いと広い見識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017年にはエッセイ集「考える女」(光文社刊)、2018年にはトラベル本「TRIP with KIDS―こありっぷ―」(講談社刊)を発行。interFM897にてラジオDJとしても活動中。

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