フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の5回目はフォトグラファーのマリーさんの母、スザンヌさんが1996年に購入した、モンマルトルのアパルトマンをご紹介します。

モンマルトルの丘の北側にあるラマルク通りは、観光エリアから離れた住宅街。この場所に1996年、アパルトマンを購入したスザンヌ・エネシャールさんは87歳。長年一人暮らしをしていたが、健康上の理由で介護施設に入り、彼女の住まいは娘であるマリーさんが管理をしている。
「1810年の建築で、広さは80㎡。間取りはリビング、ダイニング、母の寝室、ゲストルーム、キッチン、バスルームです。隣り合っていた二つのアパルトマンを一つの住居に改装した物件で、母が購入した時はすでにこの間取りでした」とマリーさん。


ベルギーとの国境に近いノール県に大きな家を持っていたエネシャール家。スザンヌさんは夫が亡くなった際にパリへの引っ越しを決断した。「当時私はN.Y.に住んでおり、兄はイタリア、姉はブルターニュ地方に住んでいました。子供が誰もこの家に戻ってこないなら、と母は田舎の家を売り、一人で住むためにこの物件を買いました。実家には家族から受け継いできた家具がたくさんありましたが、このアパルトマンには入り切らなかったのです。そこで気に入っていたものだけをパリに運び、他は売却をしました」


アパルトマンを購入後、スザンヌさんが工事にかけた期間は約三ヶ月。「キッチンは母の好きな黄色と赤をテーマに全面改装。他の部屋の壁も塗り替え、ダイニングルームの傷んでいた床を修復し、バスルームのタイルも張り替えました。また、収納がなかったので大きなクローゼットを廊下やキッチン、バスルーム、寝室に設置。また、母は若いエスプリを持った人で、ここにあるミッドセンチュリー・モダンの家具やアート作品は彼女が選びました。そうしたものと田舎の家から運んだ家具や小物をミックスし、現代的なタッチとカントリーテイストが調和する独特な空間となりました」


カーテンはフランスの老舗テキスタイルブランド、ピエール・フレイのものが多数。「実家の近くに工場直営店があり、昔は手頃な価格で商品を買うことができたのです。ゲストルームのベッドカバーはマリメッコ。母が昔から好きなブランドで、1970年代には母も私たち兄弟もマリメッコの洋服をよく着ていました」


「父と母はお洒落な人で、私が子供の頃、実家の近くにあったセレクトショップのような洋品店で、素敵な服を選んでいたのを覚えています。母の好んだブランドはケンゾー、クレージュ、ギ・ラロッシュ、パリに引っ越してからはコムデギャルソン、ヨウジヤマモト、メゾン マルジェラなど日本とベルギーのブランド。毎年一着ずつ、新しいものを買い足すのを楽しみにしていました」



スザンヌさんは料理上手で、ゲストを招いて食事をするのが好きだったそう。現在この家は、マリーさんが友人を招いて食事をする場所として活用。「私のアパルトマンもモンマルトルにあり、ここから徒歩圏内。自宅に人を招くことも多いですが、ここに来ると田舎の家にいるような雰囲気にも浸れ、パリにいながら休暇を過ごしているような気分を堪能できます。また、周辺に美味しいチーズの店、総菜店、青果店などが集まり、近所で食材を選ぶのも楽しみのひとつ」
このアパルトマンを受け継ぐことになったら、床を白に変えて明るい雰囲気にリノベーションをしたい、とマリーさんは構想する。「思い入れのある家具はこのまま保管し、古くなってしまったソファなどは買い替えます。そして、自分が大好きな本のコレクションを並べられる、大きな本棚をオーダーしたい。田舎の雰囲気を味わえる今のインテリアも好きですが、自分にとってもっと居心地の良い空間に改装したい、と考えています」


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撮影/篠あゆみ(Ayumi SHINO)
(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。インスタグラム@kidoppifr