フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の5回目はフォトグラファーのマリーさんの母、スザンヌさんが1996年に購入した、モンマルトルのアパルトマンをご紹介します。

Marie Hennechart(マリー・エネシャール)/フォトグラファー。ノール県出身。18歳で渡米、ケイ・オガタのアシスタントを経て独立。『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』、『コンデナスト・トラベラー』、『W』、『Tマガジン』、『トラベル+レジャー』、『フード&ワイン』、『ウォール・ストリート・ジャーナル』など多数の雑誌に寄稿。https://www.mariehennechart.com/

 モンマルトルの丘の北側にあるラマルク通りは、観光エリアから離れた住宅街。この場所に1996年、アパルトマンを購入したスザンヌ・エネシャールさんは87歳。長年一人暮らしをしていたが、健康上の理由で介護施設に入り、彼女の住まいは娘であるマリーさんが管理をしている。

 「1810年の建築で、広さは80㎡。間取りはリビング、ダイニング、母の寝室、ゲストルーム、キッチン、バスルームです。隣り合っていた二つのアパルトマンを一つの住居に改装した物件で、母が購入した時はすでにこの間取りでした」とマリーさん。

リビング。ノールのテーブルや椅子、壁のカルダーのリトグラフはスザンヌさんが選んだ。「エーロ・サーリネンがデザインした『チューリップテーブル』は母が足を引っ掛けて、転んだ際に割ってしまいました」。左の椅子は田舎の家にあったもの。1935年創業のテキスタイルブランド、ピエール・フレイのテキスタイルを用いて、座面を張り替えた。

 

リビングのコーナー。モロッコかチュニジアで購入した絵の下の写真は左からマリーさんの作品、スザンヌさんの若い頃、姪のポートレート。

 ベルギーとの国境に近いノール県に大きな家を持っていたエネシャール家。スザンヌさんは夫が亡くなった際にパリへの引っ越しを決断した。「当時私はN.Y.に住んでおり、兄はイタリア、姉はブルターニュ地方に住んでいました。子供が誰もこの家に戻ってこないなら、と母は田舎の家を売り、一人で住むためにこの物件を買いました。実家には家族から受け継いできた家具がたくさんありましたが、このアパルトマンには入り切らなかったのです。そこで気に入っていたものだけをパリに運び、他は売却をしました」

キッチンは入居時にリノベーション。床は赤いタイルに張り替え、壁は黄色にペイントした。ジャック・タチの映画「僕のおじさん」のポスターは実家のキッチンに貼ってあったもの。テーブルはマリーさんが学生時代に使っていた勉強机を再利用。

 アパルトマンを購入後、スザンヌさんが工事にかけた期間は約三ヶ月。「キッチンは母の好きな黄色と赤をテーマに全面改装。他の部屋の壁も塗り替え、ダイニングルームの傷んでいた床を修復し、バスルームのタイルも張り替えました。また、収納がなかったので大きなクローゼットを廊下やキッチン、バスルーム、寝室に設置。また、母は若いエスプリを持った人で、ここにあるミッドセンチュリー・モダンの家具やアート作品は彼女が選びました。そうしたものと田舎の家から運んだ家具や小物をミックスし、現代的なタッチとカントリーテイストが調和する独特な空間となりました」

ダイニングルーム。テーブルと椅子は1996年に購入。黄色のペンダントランプはコンランショップ。壁にかかる左のアートはマリーさんの作品。「洗濯機がモチーフの絵はブダペスト在住のアーティスト、アンドラス・アラッシュの作品。私のお気に入りです」
ダイニングルームのコーナー。絵はアンドラス・アラッシュ。下の大きなキャンドルはマリーさんの友人からのプレゼント。小さな陶器に入るクローブは、衣類を食害するミット(イガ類)除けに効果があるそう。

 

  カーテンはフランスの老舗テキスタイルブランド、ピエール・フレイのものが多数。「実家の近くに工場直営店があり、昔は手頃な価格で商品を買うことができたのです。ゲストルームのベッドカバーはマリメッコ。母が昔から好きなブランドで、1970年代には母も私たち兄弟もマリメッコの洋服をよく着ていました」

 

スザンヌさんの寝室。ベッドカバーはH&M ホーム。クローゼットは田舎の家から運んだ。
家族から受け継いだ椅子にカラフルなクッションをコーディネート。ベッドの横にあるのはハーマンミラーの「イームズ ワイヤーベース ローテーブル」とスーパーマーケット・モノプリで購入したカーペット。

 

 「父と母はお洒落な人で、私が子供の頃、実家の近くにあったセレクトショップのような洋品店で、素敵な服を選んでいたのを覚えています。母の好んだブランドはケンゾー、クレージュ、ギ・ラロッシュ、パリに引っ越してからはコムデギャルソン、ヨウジヤマモト、メゾン マルジェラなど日本とベルギーのブランド。毎年一着ずつ、新しいものを買い足すのを楽しみにしていました」

バスルーム。床のタイルは赤に張り替え、右の壁面には大きなクローゼットを設置。鏡の左の写真はスザンヌさんの友人の作品。
ゲストルーム。ベッドリネンはマリメッコ。壁のブックシェルフはコンランショップで購入。マリーさんが幼い頃に愛用したぬいぐるみを飾る。
チェストと椅子は田舎の家から。壁のランプはスザンヌさんの幼なじみが作陶。チェストの上にあるのは右からIKEAのランプ、マリーさんの作品、IEKAのネックレスホルダー。

 

 スザンヌさんは料理上手で、ゲストを招いて食事をするのが好きだったそう。現在この家は、マリーさんが友人を招いて食事をする場所として活用。「私のアパルトマンもモンマルトルにあり、ここから徒歩圏内。自宅に人を招くことも多いですが、ここに来ると田舎の家にいるような雰囲気にも浸れ、パリにいながら休暇を過ごしているような気分を堪能できます。また、周辺に美味しいチーズの店、総菜店、青果店などが集まり、近所で食材を選ぶのも楽しみのひとつ」

 このアパルトマンを受け継ぐことになったら、床を白に変えて明るい雰囲気にリノベーションをしたい、とマリーさんは構想する。「思い入れのある家具はこのまま保管し、古くなってしまったソファなどは買い替えます。そして、自分が大好きな本のコレクションを並べられる、大きな本棚をオーダーしたい。田舎の雰囲気を味わえる今のインテリアも好きですが、自分にとってもっと居心地の良い空間に改装したい、と考えています」

黄色いランチョンマットや青いナプキンなど、原色のアイテムを使用した明るいテーブルコーディネート。
昼食の準備をするマリーさん。ワインは近所のナチュラルワイン専門店KOIKONBOI?で購入したロワールのスパークリング。

ワインショップのインスタグラム
@koikonboi?

 

 シャルキュトリーのMOF(国家最優秀職人章)の称号を持つアルノー・ニコラのハム、マリーさんが作ったサラダ、行列ができる人気店、ネメシスのファラフェルサンドなどを並べてランチタイム。

アルノー・ニコラのインスタグラム
@arnaudnicolasparis
ネメシスのHP
https://www.nemesis-kebab.fr/kebab

マリーさんが通うチーズの店、シェ・ヴィルジニーで選んだ、桜の葉を挟んだ山羊のチーズとトリュフ入りのブリーチーズ。

シェ・ヴィルジニーのインスタグラム
@chezvirginieparis

撮影/篠あゆみ(Ayumi SHINO)

(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。インスタグラム@kidoppifr

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