フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の9回目はテキスタイル&インテリアデザイナーのオレリア・パオリさんがパリ郊外のブーロン=マルロット村に購入した一軒家をご紹介します。

パリ中心部からおよそ70 km南東に位置する小さな村、ブーロン=マルロット。パリ・リヨン駅から電車で約1時間のこの場所に、オレリアさんは2017年、1軒家を購入した。
「1920年に裕福な家族によって建てられたものでした。ブーロン=マルロットにはムラノガラスの原料となる採掘場があり、そこの幹部が住んでいたそうです。その前はパリの中心に夫と長女と住んでいました。郊外へ移る決心をした理由は、まず、2015年に長男を授かり、子供部屋がもう一部屋必要になったこと。パリで一部屋い物件を探したところ、その当時持っていた物件を売っても10万ユーロが必要、ということがわかり、価格が安い郊外の物件を探すことにしました。また、その年の大規模なテロでパリに住むことがストレスになり、子育てに良い環境を求め、1年かけて物件を探しました」とオレリアさん。



前の住人が数十年住んでいたこともあり、内部は傷んでいて住めない状態だったという。「床はカーペットで、壁は時代遅れのテキスタイル張り。大がかりなリノベーションが必要でした。インテリアデザイナーという職業柄、工事については知識があったものの、どんな工事が必要か研究し、施工会社との交渉に8ヶ月を費やすことに。やっと工事が始まり、そこから内装デザインを考え始めました」

工事には1年を費やし、2018年に入居。「1階はリビング、ダイニングルーム、キッチン。2階にベッドルーム、バスルーム、子供部屋が2つ。3階にはゲストルームが2部屋、ゲームルーム、シャワールームがあります。全部屋異なるデザインに仕上げました」。



オレリアさんはフランス南西部のトゥールーズ生まれ。父はコルシカ島、母はイタリアのシチリア島出身で、旅がとても好きだという。「島出身の人は独特。資源が少ないので、他国に収入を探しに行かなくてはいけないのです」とオレリアさん。
アーティストになりたいと考え、高校卒業後はパリのボザール(国立高等美術学校)へ進学。「両親の進めでテキスタイルデザインを学んだところ、家に使われるテキスタイルが好きになり、現在の職業を選びました」



壁面やタイル、カーペット、窓のデザインを手がけるオレリアさんは最新技術を駆使。「デジタル・ステンドグラスは、印刷フィルムと粘着加工で製造され、透明またはすりガラス調など複数仕上げが可能です。窓、ドア、シャワーパネル、ミラーなどに貼るだけで、視線を遮りつつも採光を活かす効果があります。軽く、施工も簡単で、本物のガラスを用いるより取り扱いがしやすいのです。
彼女の創作スタイルは「アート、素材、装飾の融合」。「伝統工芸に見られるような、技術だけにとどまらない美意識を備えた技のことをフランス語でサヴォワール・フェールと言いますが、そうした匠の技を感じられる装飾を好みます」



2012年にボールギャールストゥディオを設立し、タイルや床材、壁材を生産。その後デジタル・ステンドグラスのデザインをはじめ、現在はさまざまなステンドグラスから学んでいる。
「デザインの着想源は心に響いたもの、全て。音楽、映画、古典、植物、花……。幻想的な世界に惹かれます」


実はこの家はバケーションハウスとして利用をし、現在は東部のストラスブールに在住。「5年前に夫と離婚した際、家が大きすぎると感じてアパートに越しました。ストラスブールには良い学校が多く、子供の教育のためにもいいと考えたのです。長い休みがとれるとこの家で過ごし、そのほかは民泊施設としてレンタルしています」



今後はステンドグラスの意匠をさらに研究し、デジタルステンドグラスを世界に広めていきたいとオレリアさんは考える。「伝統的なステンドグラスは美しい。とはいえ、現代の家には施工が難しく、インテリアに合わせにくい面もあります。デジタルステンドグラスは扱いやすく、モダン家具とも相性がいい。将来性を感じます」
また、アートを通じて心のセラピーを行うプロジェクトも進行中だ。「創作を通してさまざまな色に触れることで幸福を感じ、心を癒す効果が期待できます。スポーツで体と心の健康を保つ方は多いですが、アートのクリエーションでも幸せを感じることができる。アート・セラピーをストラスブールで行なっているのはまだ私だけ。これから大きく発展させていきたいと思います」

撮影/井田純代
(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。
Instagram:@kidoppifr










