まもなくバレンタインデーですね。フランスでチョコレートはバレンタインギフトだけではなく、ディナーに招待された際や記念日、お礼の気持ちを込めて家族や友人、同僚などへ贈る習慣があります。パリで注目を集めるショコラトリーのものなら誰でも笑顔になってしまう! 美味しいチョコレートが見つかる、旬のショコラトリーをご紹介します。
著名なショコラトリーから地元密着型のショップまで、パリの街を歩くとチョコレートを扱う店があちこちにあるなあ、と実感。スーパーマーケットのチョコレート売り場にはさまざまな種類のタブレットがずらりと並び、まとめ買いする人の姿もちらほら。コーヒーに小さなチョコを添えたり、デザートの後にボンボン・ショコラを楽しんだり、とチョコレートはフランスの生活に欠かせない存在だ。新しいショコラティエがオープンするとパリの人々は興味津々。話題店の紙袋を持っていると、ご近所さんや行きつけのカフェのギャルソンに「そこのチョコ、美味しいよね!」と話しかけられることも。

このところギフトでよく利用するのが、「ジャド・ジュナン」のボンボン・ショコラのボックス。天才ショコラティエと名高いジャック・ジュナンの娘で、元弁護士という異色の経歴を持つ。父の店の工房でチョコレート作りを見ながら育った彼女は、2019年にショコラティエへ転向。父の店で働いたのち、2022年末に自身の店をオープンした。

©Stéphane Grangier
中・店内は白とゴールドが基調のモダンなインテリアに仕上げた。内装はデザイナーでジャドの友人であるカーレッド・コルシが担当。形と物にこだわり、リュクスな家具のデザインを手がけてきた彼は3Dプリンターなどを駆使したデザインを得意とする。家具は全てオリジナルのハンドメード。
©Malthusian Belt
右・パリ2区のオペラ通りにある路面店はオペラ・ガルニエ宮に近く、観光や買い物の途中に立ち寄りやすい。
©Malthusian Belt
ボンボン・ショコラは、季節限定の香りも含めて20種類近く。ピラミッド型のフォルムは、ルーヴル美術館のガラスのピラミッドと、コンコルド広場のオベリスクの頂上の三角型から着想。ジャドの生まれたパリをイメージさせるフォルムだという。
ショコラの着色料はすべて天然で、添加物、保存料、人工香料などは不使用というのも特徴のひとつ。ガナッシュは、クリーム、バター、卵を使わず、米由来のクリーム、レモン汁、ショウガ、植物油、豆乳などで代用。プラリネも自家製で、ナッツの含有量が通常は50%程度であるのに対し、ジャドの店では70%。砂糖も未精製のものを使っていて、味にアクセントを加えている。
ボンボン・ショコラのフレーバーはレモン、ピスタチオ、タヒチのバニラ、タマリンド、ジンジャー、タイム、海藻、麦芽のプラリネ、ゴマ、ジャスミンなどさまざま。いずれも天然素材で、繊細な香りと味を表現。「植物性のショコラの長所は、素材そのもののピュアな味を実現できること」とジャド・ジュナンは語っている。
レモンの味をぎゅっと濃縮したようなシトロン、爽やかなサパン(モミの木)もおすすめ。宝石のように美しいボンボン・ショコラは食べるのはもったいないほどの美しさだ。
Jade Genin
公式HP /www.jadegenin.fr
インスタグラム/@jade.genin

美食店や良質なエピスリー(食材店)が集まるニル通りのショコラティエ。「プラック」も話題店。お店のコンセプトは「ビーン・トゥ・バー」。店内でカカオ豆を焙煎し、挽いてチョコレートに仕上げるこだわりの店だ。
「妻のサンドラも私もチョコレートが大好き。だけど自分たち好みの、カカオにこだわるいいショコラティエがないと考え、自分たちで店を開こうと思いつきました」とオーナーのニコラ・ロジエ=シャベール。


右・チョコレートができるまでを図解。「多くの店はステップ12からで、クーベルチュールというチョコレートを仕入れますが、私の店はステップ5のカカオ豆の仕入れからスタートします」とニコラ。
当時、大手香水ブランドのマーケティング・ディレクターだったサンドラ・ミーレンハウゼンと、グラフィック・デザインと映像エージェンシーのエグゼクティブ・ディレクターだったニコラ・ロジエ=シャベール。ニコラは2018年に代理店を辞職。その後すぐに会社を立ち上げ、ベネズエラやペルーでカカオについて学んだ。2人はニューヨーク、アムステルダムへ、南仏のセヴェンヌ山脈、ボルドーなど各地で試食を繰り返し、理想のショコラを生み出したという。
「美味しいチョコレート作りは良質なカカオ豆があってこそ成立。豆はオーガニックのもので、7〜8の生産者から直接仕入れ、手で選別し焙煎、粉砕……とチョコレートに仕上げるまで3日はかかります。丁寧に手間と時間をかけたチョコレートをぜひ味わってほしい」とニコラ。

シグネチャーはシングルオリジンのタブレット。カカオ豆の産地は7−8カ所で、直接仕入れているという。タブレットの原料はカカオ豆と砂糖のみ、とシンプル。カカオのフレッシュな味と香りをダイレクトに感じるチョコレートは後味も長く、まるで上質なワインを飲んでいるよう。元デザイナーだったニコラが手がける、パッケージデザインも洗練されている。
昨年12月には左岸のシェルシュ・ミディ通りに工房を併設する2号店をオープンした。このエリアは著名なショコラトリーが集まる激戦区でもある。新たな店の参入で、パリのチョコレートクルーズがますます楽しくなりそうだ。


Plaq
インスタグラム/@plaqchocolat
(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。インスタグラム@kidoppifr