なんとなんと、なんとですよ。1年前から覚悟していたことが現実となりました。本コラムの第6回『部屋を分け、いつかは家が分かれる心の準備 (2023年2月10日)』にて、長女が一人暮らしに憧れ始めたと書いたことが昨日のようです。もうちょっと一緒に住もうよ、寂しいじゃない…なんて呑気に構えていましたが。はいっ、長女!家を出ました!

それは昨年末、突然の彼女の告白で幕を開けました。しかもクリスマスイブに。サプライズもいいところってなもんです。世間がソワソワ、ワクワクし始めていた24日の夕方遅く。友だちと一緒に帰宅した長女は唐突に、まるで美容院にでも行ってきたかのように言いました。「あのさ、今日内覧行ったんだよね」って。思わず「WHAT!?」と振り向きざまの頓狂声が出てしまいました。5件内覧して(たったの5件かいっ!)、決めたそうで(決めてるんかいっ!)、年内に引っ越すと言うのです(いや、無理だってば、引っ越しなめんなぁ!)。

18歳とはいえ心配です。それに親の責務というか、このまま私不在で契約に流れでもしたら、不動産会社の担当者様もさぞかし不安でしょう。そう思い、私同伴のもと再度12月27日に内覧をさせていただき、そのうえで契約を結ぶ運びとなりました。年末休暇に入っていたにもかかわらず、お付き合いしてくださった担当者様には感謝感激雨霰です。

結論、長女は2024年1月8日に引っ越して行きました。私はこれを“長女の引っ越し騒動シリーズ1”と称します。なぜなら、この騒動は“シリーズ5”まで続くのです。連絡ミスが原因で、引越し会社の到着とともに数多の段ボールが届いた“シリーズ1”は、制限時間内にどれだけ多くの必需品を詰め込めるかの競争そのもの。「とりあえずじゃあね!」ってな感じで、運搬トラックに相乗りして立ち去った長女。うわぁーっ。こんな感じなの!?娘の独立って、こんなにドライなものなの?え、なんか切ないんだけども。

そう思ったのも束の間。嫌な予感がして、玄関から長女の部屋へダッシュしてみると、もうそれはですね。「泥棒にでも入られたんか?」と思わずにはいられない有様。ほんと、笑っちゃうくらいに。そこからちょこまかと、長女の引っ越し騒動はNETFLIXのドラマシリーズで言えば、ギリギリ付き合える“シリーズ5”まで続いたわけです。鼻の奥がツーンッとなるのは、ベッドだけが残された元長女の部屋のドアを開けるときだけ。部屋の空気を入れ替えるために、真っ白いドアを開けるときだけです。いつでも長女の「今日はこっちで寝ようかな」に応えられるようにね。

徒歩20分。長女のお城はここ(実家)から歩いてたったの20分ですので、そんなことは滅多にないとわかってはいます。頻繁に顔を見せに来てくれるし、長女の気分次第では一緒に晩御飯を食べたりもできるので、母は幸せです。ただですね、いつも最後は「ママ、またね」の言葉で締めくくられるのです。「いってきます」じゃなく、「またね」で。大好きな長女の引っ越しで「いってきます」は「ただいま」とセットでしか使えないんだってことに、初めて気がついたのでした。

P.S. 風呂入れよ、歯磨けよ、顔洗えよぉーっ。



クリス‐ウェブ佳⼦(モデル・コラムニスト)

1979 年10 ⽉、島根⽣まれ、⼤阪育ち。4 年半にわたるニューヨーク⽣活や国際結婚により、インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PR など幅広い職業経験で培われた独⾃のセンスが話題となり、2011 年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物⾔いと広い⾒識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017 年にはエッセイ集「考える⼥」(光⽂社刊)、2018 年にはトラベル本「TRIP with KIDS―こありっぷ―」(講談社刊)を発⾏。

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