東京立川市の静かな一角に、各部屋にかけ流し天然温泉付きの贅沢なオーベルジュが誕生しました。わずか4室、贅を尽くした客室の設えは驚くばかりです。ご存じのように、フランス発祥のオーベルジュは宿泊設備を伴うレストランのことを言います。シェフの自慢料理とワインでゲストをもてなし、そのまま宿として用意された客室に眠れる旅籠のことを指しています。

ここ「オーベルジュ ときと」が門を開けたのは、2023年4月6日。‘和のオーベルジュ’として、今までにはどこにもなかった独創的な食事と、手厚いもてなしが体験できることもお勧めの理由です。オーベルジュが掲げるのは食房・茶房・宿房’と呼ぶ施設。食べて、寛いで、眠るという日常を離れるハイダウェイの趣です。

新しいことばかりの提案ですが、滞在の要ともなる料理は、総合プロデューサー兼総料理長である石井義典さんが料理のプロデュースをし、その料理哲学を理解する総支配人兼料理長の大河原謙治さん、副料理長の佐澤慧さん、同じく副料理長の上野賢一郎さん、ペストリーシェフの黒岩加奈子さんの6名が集結。新しい発想で様々に工夫された芸術的な料理コース‘アルティザン・キュイジーヌ’を提供してくれるのです。料理はまさに芸術的であり、斬新な調理のメランジェを和食として提供する、美しく美味しい皿が目の前に次々と並びます。



宿坊の客室の一つ。中はスタイリッシュで高級家具や調度品はオーダーメイドのオリジナル。写真はリビングルーム。


 カウンターで料理の説明を聞きながら食すエキサイティングな時間は、一般的なカウンターでの体験と違い、特に、料理人が作る斬新で繊細な調理法を目の当たりにしていると、食に対する概念まで変わってきそうです。そんな食房には、宿泊者優先のカウンター席のほか、外来者も利用可能なホールのテーブル席と、個室が3室用意されています。それぞれの器にもこだわりがあり、是非、器の魅力も同時に味わってほしいもの。施設内に焼き物の工房を持つ石井さんが、こだわりの器を自作し、‘地産地消の器’としてこの西国立の土、立川の水を使い作陶。食房‘ときと’で使われているのです。

このオーベルジュの場所は、立川で80年以上も地元に愛されてきたかつての料亭「旧無門庵」でした。その建物の一部と庭園、石庭を継承し、新たにすべてに手を加え、「オーベルジュ ときと」らしい造りに改装されたのです。堂々たる正門をくぐった時から、このオーベルジュのサービスは流れるように始まり、客室でのチェックイン時から仕掛けが始まります。つまり、オーベルジュ到着から出発までを‘アルティザン・キュイジーヌ’のコース仕立てと捉え、‘宿坊’である客室にはコース料理のスターターであるアミューズと飲み物が運ばれるのです。全4室の客室は、すべてが100㎡以上という贅沢な作りで、それぞれに独自に掘削した温泉かけ流し露天風呂として設置されています。また広いバスルームの一角には、トリートメント用のベッドも置かれ、贅沢なことに、予約をすればセラピストが客室まで赴いてくれます。



庭に造られた大きな湯船には天然温泉を引いた露天風呂が。4室共に温泉を設置。



広いバスルームの一角に置かれたトリートメント用のベッド。ここでアロママッサージやリラクゼーションのトリートメントが施術される。


 昼はお茶タイムがあり、夜はバーとなる「茶房」は木々に包まれる日本家屋です。ここでは料理人によるお茶請け「茶請箱」と称するアフタヌーンティーが楽しめます。何よりも料理が自慢のオーベルジュですから、まずは‘めぐるめぐみ’を食し、豊かさとはと問い直すほどの食体験が待っています。

次世代に継ぐサステナブルな料理を提供する「ときと」の名に秘められたのは、「幸せな「とき」とは何か問い続け、豊かな日本文化を「鴇(とき)」のように優雅に世界へ飛び立たせる」という願いを込めたと言います。6名の料理人が奏でるドラマチックな食房に、ラグジュアリーな宿坊、レトロな空気感と新しさの融合した茶房の、それぞれのシーンごとに、贅沢な‘和のオーベルジュ’に誰もが魅せられることでしょう。



食房のカウンター席。宿泊者優先だが席があれば外からのゲストもOK。ほかにテーブル席が並ぶ‘食房ホール’と個室も用意。



赤身の魚「鮪肉」(シビ)と仔牛のソース‘フォン・ド・ヴォー’が共演する珍しい発想の日本料理。初めての味に舌鼓!



ホタテ貝をオリジナルの調味料‘UJIO’でいただく繊細な料理。



緑の庭園に木々に包まれて立つ日本家屋「茶房」。



取材・文/せきねきょうこ

Photo: オーベルジュ ときと







せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。

http://www.kyokosekine.com


DATA

オーベルジュ ときと

東京都立川市錦町1丁目24−26

📞:042-525-8888

https://www.aubergetokito.com/

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