今、軽井沢の「万平ホテル」が熱く沸いています。日本を代表するクラシックホテルのひとつ、創業130周年を迎える「万平ホテル」が、2023年1月3日を持ってそのドアをいったん閉め、大規模改修・改築に入ります。
その話が公になってからというもの、顧客たちのホテルへの思いは一層募り、筆者自身でさえ寂しさを隠せませんでした。ましてや、世代を超えて愛してきたファンの思いはいかばかりでしょう。多くの人を癒し、夢を与え、華やかな話題と共に憧れの座に居続けた‘アルプス館’は姿を変え、2024年、未来へと託す新たなるホテルとして誕生します。
浅間山の麓に広がる軽井沢は自然の魅力に溢れ、時に野性的な自然に圧倒され、また時には洗練された高級別荘地として、ホテル周辺には四季の彩豊かな周囲の森が息づいています。「万平ホテル」は、軽井沢という日本屈指のハイランドリゾート地に於いて、静謐な自然と共存しながら、クラシカルな趣をそのままに残しひっそりと佇む姿が美しく印象的でした。
「万平ホテル」の歴史を語るにはどれだけの頁が必要でしょう。軽井沢というロケーションも相俟って、当時から多くの外国人が通うホテルであり、夏には別荘代わりに長期滞在をする上顧客も多かったと言われています。「万平ホテル」が今の瀟洒な姿になったのは、1894年(明治27年)のこと。歴史を垣間見れば、1945年(昭和20年)から7年間は米国に接収されていましたし、東京オリンピック時には馬術競技のプレス関係者宿舎にも利用されました。忘れがたい逸話の1つには、1976年からの4年間、世界的な人気を誇ったザ・ビートルズのジョン・レノンが亡くなる前年までの毎年、ここ軽井沢の「万平ホテル」で休暇を過ごしたということ。以来、ホテルは永遠の人気を宿す‘伝説のホテル’となりました。実に語り尽くせないほどのストーリーを秘め、歴史を紡いできたホテルが新たな姿へと生まれ変わります。
クラシカルな客室には、洋式のホテルながらメイド・イン・ジャパン独特の文化や趣が感じられます。特に和洋折衷の意匠が整然と美しい「アルプス館」の客室は格別です。ここはホテルのアイコン的存在でもあり、猫足のバスタブが良く似合うタイル張りのバスルームや、床の間と床柱が存在するインテリアは、まさに日本文化の誇りさえ感じるのです。そして、2001年夏にクラシカルな様相を残しリニューアルされた「ウスイ館」、スタンダードタイプの「アタゴ館」、他に、家族で楽しめるコテージタイプの「別館」、まさに別荘のような1軒家「コテージスィート」が揃っています。何れの部屋も静かさや、落ち着きのある上品な設えが好印象を与えてくれています。
「旬、伝統、真心」を掲げるレストランは、伝統を受け継ぐフランス料理のメインダイニングルームを始め、中国料理、日本料理、カフェテラス、バーと揃い、いずれも本格派の料理が楽しめます。メインダイニングルームには貴重な格天井や、壁の大がかりなステンドグラス、アンティークなシャンデリアなど、設えには匠の技が活かされ、趣ある空間でゆったりと食事が楽しめます。
ゲストの顔が見えるサービスこそホテル業の基本との考えは、今後もずっと変わらぬ基本の精神として残されていくことでしょう。ホテルを信頼し愛し続ける顧客との歴史は、レトロな空間で、12月には「フェアウエル・ガラ」も開催され、ホテルは一旦の休憩に入ります。2024年、世紀を超えて、未来へと歩み出す「万平ホテル」のリ・オープンが待ちきれません。
取材・文/せきねきょうこ
Photo: 万平ホテル
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。
http://www.kyokosekine.com
DATA
万平ホテル
長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢925
tel.0267-42-1234
https://www.mampei.co.jp/