フランスの暮らしとデザインについての連載22回目は、4世代続く木工職人の家系に生まれた従兄弟が、伝統技術と幾何学的な未来感を融合する家具メゾン「Hervet Manufacturier(エルヴェ・マニュファクチュリエ)」をご紹介します。

ニコラ・エルヴェ(右)とセドリック・エルヴェ(左)。
右・ニコラ・エルヴェ(Nicolas Hervet)/1976年生まれ。ノルマンディー地方に4〜5世代続く木工職人の家系に生まれる。幼少期から祖父や父の工房に通い、木を扱う技術に親しんで育つ。12歳で家具職人になることを決意し、中学卒業後すぐに職業適性証(CAP)取得の道へ進む。1994年、フランス最優秀職人見習いコンクールの象嵌部門で金メダルを受賞。以来、家具製作・彫刻・象嵌の技術を磨き続け、2008年には従兄弟セドリックのためにデスクを製作。これが後のメゾン「Hervet Manufacturier」誕生のきっかけとなった。現在も製作面での最終判断を担い、伝統技法を軸にした家具づくりを続けている。
左・セドリック・エルヴェ(Cédric Hervet)/1974年生まれ。ニコラの従兄弟として同じ木工職人の家系に育ち、幼い頃から共に家具を作って過ごす。パリのエコール・ブールでデザインを学び、1996年に卒業。在学中から音楽への関心を深め、卒業後は伝説的エレクトロデュオ、ダフト・パンクのアートディレクターとして活動し、ステージ演出やビジュアルを手がける。2008年、自身の仕事に見合う機能的で洗練されたデスクをニコラに依頼したことが、メゾン創業の出発点となった。以降はデザインと美意識の面からブランドを牽引し、家具や音響ブランド「Bellame」のクリエイションにも携わっている。

ショールームの一角。右の椅子「キャピテーヌ」は、レトロフューチャーな美学と伝統的な職人技を融合。宇宙船の管制室の椅子を思わせる幾何学的なデザインで、ウォールナット材や高品質な革、ステンレスを使用。
高級宝飾店が軒を連ねるヴァンドーム広場のそばにショールームを構える「Hervet Manufacturier(エルヴェ・マニュファクチュリエ)」。従兄弟同士であるニコラ・エルヴェとセドリック・エルヴェが2014年に立ち上げた家具ブランドだ。
「これは本当に家族の歴史であり、継承です。父も祖父も、木工職人でなくとも家族の誰もが木を扱っていました」とニコラは振り返る。父や祖父が工房に向かうときは、いつもその後をついて回っていたという。「庭で遊んだり、サッカーをしたりはしませんでした。いつも工房に入って見ていた。それが彼らが私たちにもたらしてくれたもの、木への愛です」
12歳ですでに家具職人になることを決めていたニコラは、中学卒業後すぐに職業適性証(CAP)取得の道へ進んだ。「友人たちはみんな大学に行きましたが、私は一人で自分の道を選びました」とエルヴェ。

ノルマンディ地方、ベルレームにある新しいアトリエ。2025年に設立。
2008年、ニコラはセドリックのために一台のデスクを製作する。当時ダフト・パンクのアートディレクターを務めていた彼は、ポスト・プロダクションの仕事に使う、機能的かつ洗練された机を求めていた。
セドリックのためのその一台が、後にメゾン誕生の起点となった。「そこから年に一つずつ家具を増やしていき、10年でコレクションになりました」とニコラ。
二人が正式にメゾンを立ち上げたのは2014年。家具の特徴は、伝統的な木工・象嵌の技術に、幾何学的で未来的な形状を組み合わせている点にある。「意図してそうしたわけではありません。『伝統技術で未来的な家具を作ろう』と考えたのではなく、自分たちに何ができるかを考えた結果です」とニコラは語る。「私たちはこの方法で木を扱うことを知っていて、こうした形を好んでいた。組み合わせた結果、誰もが呼ぶところの『レトロフューチャー』のような形になった。本当に偶然の産物です」

「プレジデント」。無垢の突き板と鏡面仕上げが特徴。まるで指令室にあるデスクのような佇まい。ドロワー部分は突き板を精緻に組み合わせた家具職人の技が光る。
代表作「プレジデント」は、まさにその哲学を体現する一台だ。「私たちが作る家具は、宇宙船やコンコルドの中にあってもおかしくないようなデザインをイメージしています。すべての作品を宇宙船や星のように扱っています」とニコラ。「もしそれが宇宙的なものに見えれば、軽やかに感じられると思うのです。この家具は床に設置されていますが、足が全くなく、すべてが宙に浮いているように見える」

新作「ステラ・フォース・コレクション」。今年4月にミラノ・サローネにて発表。
デザインの決定権は、常に実際の製作を担うニコラにある。「紙の上では脚が1本でも成立しますが、実際に作ると倒れてしまいます。デザインと、実際に座れる構造、そして製作可能かどうかを判断するのは私です」。セドリックがアイデアを出して、3Dモデルで比率を検証し、最後にニコラが構造として成立するかを見極める。そうした共同作業の積み重ねから、一台一台が生まれているという。

新作のステレオ「ステロイド」。「80年代の家具にあったような、少しシックな雰囲気を再現しようとしています。当時のオーディオセットは配線が散らかりがちでしたが、すべてを家具の中に収納し、閉じてしまえば完璧な状態になるようにしています」とニコラ。

ミラノ・サローネで展示された「ステロイド」
家具づくりの根底には、二人が幼少期から共有してきた音楽やポップカルチャーへの愛がある。「私たちが若い頃、フランスにはテレビ局が3つしかありませんでした。だから文化的な共通言語があり、いちいち説明する必要がないほど共有しているものがある」とニコラ。その感性は、ヴィンテージスピーカーやレコーディングスタジオから着想を得た音響ブランド「Bellame」にも息づいている。
「家具の中で音を完璧にするのは複雑です。スピーカーをできるだけ離す必要があるから」と語りつつ、内部構造を工夫することで質の高い音を実現。80年代のオーディオセットが持つ、少しシックな雰囲気の再現も試みているという。第一弾はセドリックの盟友でもあるダフト・パンクへのオマージュとして製作された。

ショールーム。中央のテーブル「ミラージュ」はマジックミラーの下に、ジュエリーを収納できるコンパートメントを隠し持つテーブル。
同メゾンは日本と深い縁を持つという。「最初のコレクションは東京の帝国ホテルでデザインしたものです。現地を訪れた際、1週間ホテルにこもって描き上げました」とニコラ。その結果に満足し、以来半年ごとに東京へ通ってデザインを行っている。「東京の建築、特に建物の45度の傾斜がついたバルコニーなどの形が大好きです。タクシーから見る景色がインスピレーションになります」
「日本のファンの方に、いつも温かく迎えてくださりありがとうとお礼を伝えたいです。また、将来、海外に工房を構えるなら、日本が良いとずっと言っています。日本人の仕事の規律と品質は確かですから」とニコラは日本人の丁寧な仕事ぶりにも敬意を寄せる。
四世代受け継がれてきた木工職人のSavoir-Faire(サヴォワール・フェール=匠の技)。海を越え、日本にその技巧を広めていくのかもしれない。
Hervet Manufacturier
住所:8 rue Volney, 75002 Paris
HP:hervet.com
Instagram:@hervet_manufacturier
(文)木戸 美由紀(Miyuki Kido)/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。














