閑静で洗練された住宅街として知られる南麻布エリア。麻布十番、広尾、六本木へとアクセス抜群。大使館が集まり、インターナショナルな雰囲気もある街です。ここにフローリストとしてアトリエを構えているのがmigiwa FLOWERオーナーである秋貞美際さんです。秋貞さんのアトリエで仕事について、また南麻布の街についても話をお聞きしました。

麻布十番は人のあたたかさのあふれる街

以前は麻布十番のビルで店舗を構えていました。近所の方がお店に来ると、花を買うだけじゃなくて「いつからやってるの?」「お洋服素敵ね」と必ず話しかけてくれるんです。商店街へランチをしによく通っていたのですが、しばらく顔を見せていなくても「お姉ちゃん、久しぶり」と覚えていてくれます。

この街の人は皆さん、人が好きで、生きたコミュニケーションがあると感じます。

現在は、店舗のビルが取り壊しになってしまいましたが、この南麻布エリアにアトリエを構えて活動を続けています。

仕事が忙しいときは、夜にお散歩するのが気分転換になります。ある日は有栖川公園から広尾、別の日は赤羽橋から東京タワー、はたまた六本木ヒルズ方面など、いろんな景色が見られるのが楽しいです。近隣に大使館が多く、警備が行き届いているので、夜道を歩くのも不安はありません。

お気に入りのお店もたくさん。近くのイタリアン「トラットリア トロンコ」は、以前同じビルに入っていたテナントで、コロナ禍を一緒に乗り越えた同士。疲れた日に美味しいものを食べたい!という時に駆け込んで、カウンターでご飯をいただくこともあります。

破格で野菜が買える八百屋「スターフルーツ」は、今日はバナナが安いよ、なんて会話も。顔見知りがどんどん増えて安心感がありますね。

IT業界から転身。単身フランスへ

そもそも、私は、お花とは全く別の業界で働いていました。新卒でIT企業に入社し、広告営業と秘書室で勤務していたんです。秘書の業務のひとつに、取引先へのお祝い花の手配がありました。当時はまだSNSがそこまで普及していなくて、おしゃれなお花屋さんを探すのも一苦労。週末になるとネットで調べたお花屋さんを巡るのが日課になっていました。

ちょうどその頃、「好きを仕事に」や「ノマドワーカー」といったキーワードがメディアで取り上げられ始めていて。会社は好きだけれど、自分にしかできないことって何だろうと考えるようになりました。働くうえで満たしたい要素を挙げていったとき、「お花屋さんになったら全部満たされるかも」と気づいたんです。

それで、「よし、お花屋さんをやろう」と決意しました。20代で業界のことをよく知らなかったからこそ、思い切った決断ができたのかもしれません。

自分が本当に素敵だと思う花屋さんに転職してキャリアをスタートさせたいと思い、半年ほど理想のお花屋さんを探しました。その中で、「絶対ここに転職しよう!」と思って調べたら、なんとその住所はフランスだったんです。

国が違うから行かないという選択肢はありませんでした。言葉は「ボンジュール」くらいしか知らない状態で、有給を使ってフランスへ。しかし、人気店で研修枠は1年先まで埋まっていると。

帰国し、1年は日本でアシスタントをしながら修行し、その後、ようやく憧れのフランスの花屋さんで働くことが叶ったんです。

千駄ヶ谷のガレージでオープンしたmigiwa FLOWER

帰国後どうするか迷っていましたが、有り難いことに、パリの一つ星レストランなどで装花のお仕事をいただけていた事もあり、修行先の花屋のオーナーフローリストに、「自分の国じゃないにも関わらず、花屋以外でも自分で花の仕事を得て活動できたのだから、言葉が通じる場所ならもっとやりやすいはず」と独立を勧められて、純粋に「そうする!」と(笑)。

帰国後、バイトをしながら資金をため、自宅兼アトリエでスタート。たまたま物件が見つかり、2018年に北参道・千駄ヶ谷で「migiwa FLOWER」をオープンしました。

でもそこは水道もトイレもないガレージ。隣のガレージの水道を借りて、トイレは近くのそば屋さんや向かいの事務所で借りていました。雪の日に冷たい水でバケツを洗うような状況でしたが「ジョブズもガレージから始まった」と思って頑張っていましたね。

その翌年、麻布十番でカフェに花屋を併設したいという話があり、声をかけてもらいました。「水道とトイレはある?」と聞いたら「当たり前じゃん!」と(笑)。千駄ヶ谷の町は大好きでしたが、設備が整っている方がいいと思い、麻布十番へ移転したんです。

港区のど真ん中で少し身構えていたけれど、来てみたら昔から住んでいる人が多くて、あったかい街だなとすぐにこの街の良さに気づきました。

migiwaFLOWERを続ける中で、街の方たちから支えられているのをずっと感じています。

歩いていると「美際さん、こんにちは」と下の名前も憶えてくれて、話しかけてくれることもあるんです。すごく嬉しいですね。

だから、おこがましいかもしれないけれど街のお花屋さんとして今度は人をつなぐような場所になれたらいいなと思っています。花をきっかけに出会ったコミュニティや人とのつながりを大切にしたいんです。

今週末は、生徒さんたちを連れて福島県のダリア畑へ行く予定です。そこは、廃棄される予定だった球根を植え直して再生させた花畑。みんなでダリアをチョキチョキ切らせてもらいながら、バーベキューもして。

そんなふうに、花を仕入れて販売するだけじゃなくて、その花がどこから来たのか、どんな人に育てられたのか、そういう背景も含めて届けられる花屋になりたいと思っています。

農家さんへ訪れる活動を「migiwa FLOWERの遠足」と呼んでいるんですが、そのうち花屋じゃなくて「遠足屋さん」になっちゃうんじゃないかっていうくらい遠足をすることが増えてきました(笑)。それくらい花をきっかけに広がる世界が面白くて、続けていけたらいいなと思っています。

プロフィール 秋貞美際(あきさだ・みぎわ)さん

migiwa FLOWERオーナー。大手IT企業から転身し、日本やフランスで研鑚を積みフローリストへ。現在は、店舗を持たず、ウェディングやレストラン等での装花や、個人へのレッスンを行っている。

Instagram:@migiwa_flower

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