東京ではめずらしくなった路面電車の世田谷線。停車駅は10駅で、「世田谷らしい」穏やかな空気感の漂う街と街とをつなぎます。
世田谷線沿線が走るのは世田谷区のちょうど中央あたり。閑静な住宅街が広がるなかに、愛らしい招き猫が迎えてくれる豪徳寺のある山下駅、安土桃山時代から続く世田谷ボロ市が開催される世田谷駅上町駅など、歴史を感じられる場所が点在します。
近年は、松陰神社前駅エリアの商店街に、古くから愛される老舗店に加えて若手オーナーが手掛けるカフェやレストラン、雑貨店が増え、住みたい街としても人気が高まっています。
そんな松陰神社前駅から徒歩1分。2023年11月にオープンしたカフェ「GOODFEELING COFFEE」は連日多くの人で賑わいます。このカフェを営むのが、無類のコーヒー好きとして知られ、これまで1,500軒以上のカフェを訪れたという芸人の石井ブレンドさん。
石井さんに、カフェについて、また松陰神社前の魅力についてお話を聞きました。
おいしいコーヒーでご機嫌になってもらいたい
――GOODFEELING COFFEEのコンセプトを教えてください。
以前からこのエリアはお子さんを連れている方やお年寄りも多いと感じていました。そんな方にも入ってもらいやすいように、お店全体に柔らかさは出したいな、というのは思っていて、内装も丸みを意識しています。
店名のGood Feelingは直訳すると、“ご機嫌”という意味。おいしいコーヒーとおいしいお菓子を食べてご機嫌になって帰ってもらいたいですね。
――店名はどのように決まったのですか?
もともとカフェをもしオープンするなら…と、天竺鼠の川原さん(先輩芸人)に『老舗コーヒー』という名前をつけてもらったんです。でもそれはイベントで使ってしまったこともあり、それなら自分なりの名前にしようと、あまり迷わずすんなり決まりましたね。
――おすすめメニューを教えてください。
ブレンドコーヒーがお店の顔。エスプレッソもおすすめですね。コーヒーは酸味や苦み、コクなどのバランスを取った味わいにしています。焙煎を習いに行ったときに、最初にどういう味を作りたいかを聞かれたのですが、やっぱり「子どもから大人、おじいさん、おばあさんまで誰もが飲みやすいコーヒー」と答えました。それを目指して焙煎しています。
焙煎はいろんな方法がありますし、何が良いかは人それぞれだと思いますが、僕は習った事をなるべく忠実に実践しています。それでも毎日ちょっとした気温や湿度でも変わってしまうので難しいですが、気をつけながら日々焙煎に励んでいます。そう言いつつも、そのブレも楽しんでもらえたらと思うんです。ちょっと寒くなるとやっぱり火力が必要になって、若干豆も焦げる部分もあって香ばしくなるというか、味が変わります。もちろん最低限のラインは守りつつですけど、そこのちょっとした変化を、季節とかいろんなもので感じてもらいたいなと思います。
――スイーツもお好きなだけにこだわりがあるのかなと思いますがいかがですか。
スイーツに関しては全部妻が作っているんでノータッチで、僕はただ食べるだけです(笑)。逆にこのスイーツに、このコーヒーを合わせるといいかな、とかは思いますけど。妻は特別に何かをしていたわけではないのですが、お店を出すちょっと前からお菓子作りをしている友だちに教わったり、本を読んだりしてお菓子作りを勉強していました。正直、こんなおいしいのができると思ってなかったです(笑)。びっくりしましたね。
――コーヒーをどんどん追求しているように感じますが、1つのことを極めるのが好きなタイプなのでしょうか。
同じものをずっと見るとか、同じことするのが好きなんですよ。旅猿という番組が好きで、昔は家帰ったらとりあえず旅猿のDVD観るみたいな。ほかのテレビは観なくて、それだけをずっと観るのを何年も続けていました。コーヒーも同じ感覚かもしれないですね。後輩芸人のアイロンヘッド・ナポリくんから「石井さん、キャラないんでコーヒーやってください」ってコーヒーミルをもらったのがコーヒー好きになるきっかけです。ナポリはそういうことをするヤツで、その次の誕生日には「時計やってください」って時計のケースをもらったんですね。時計だったら高いですし、ここまで続けられなかったとは思います。カフェに行ったときに、同じ豆で同じ分量で淹れても人で味が変わるので、そういうところがコーヒーの面白いところだと思いますね。僕が淹れる中でもいろんな味になって、同じ一杯を作るっていうのが難しいんです。
――カフェをオープンしたきっかけを教えてください。
強いて言えば、結婚ですかね。元々カフェに行くことが好きで、コーヒーも好きで、それをいつか自分もやりたいな…と漠然と思っていたぐらいなんです。でも妻が長年カフェで働いていて、コーヒーとかマシーンに関しての知識があって、メーカーとのつながりもあったから、そこでできるなって。漠然としたものがクリアになった感じがありました。
――お店をつくっていくうえで空間のこだわりはありましたか?
注文カウンターの場所と客席をわけて、それぞれの時間を過ごしてほしいというところですかね。僕自身もカフェに行ったときになんとなく見られているって感じるのが好きじゃないので、単純に一人で来やすいのがいいかなって思ったんです。
――芸人とカフェ、2つのお仕事を両立するなかで感じていることはありますか?
本当に色んな芸人仲間が来てくれるっていうのは嬉しいですし、芸人で良かったなと思います。もし大人気のアイドルが来て名前を出すと、とんでもないことになっちゃうじゃないですか。でも芸人が来るぐらいだとちょうどいいんですよ。ファンの人ももちろん色んな人がいるけど、お互いに変に意識するようなことはないし、でも「●●を見ました。●●さんは何を食べていたんですか?」みたいな人もたまに来てくれる。それがちょうどいいなって。
両立するうえでは、頑張って芸人の仕事をしたいとはもちろん思っているけど、焙煎の時間は取らないといけないから、そこは大変です。うちにある焙煎機は1㎏ずつの焙煎ができるものなんですが、焙煎すると水分が抜けて、できあがりは400gくらい。だから、1回ではとても終わらないし、そこからまた豆を選別する作業もあるので、特にオープンしたばかりの時は、閉店後に何時間も焙煎作業をしていました。今はだいぶ慣れてきて、時間もうまく使えるようになってきましたね。
――カフェを運営するなかでの楽しみを教えてください。
これから先にあるなと思うのは、来てくれている人たちの子どもの成長がすごく大きいです。毎日来てくれる人がいて、週1、2回お子さんを連れてくるんですよ。その子どもの成長とか…今はまだ全然成長してないんですけど、でもそういうのは今後楽しみですね。近所の人たちにもめちゃくちゃ家族連れが多いので、そういう触れ合いというのはひとつカフェをやっている良さですね。
心にゆとりのある全ジャンルの人が暮らす場所
――松陰神社前エリアで出店したのはなぜだったのでしょう。
もともと豪徳寺に住んでいたので、豪徳寺を中心に物件を探したんですけど、なかなかなくて。豪徳寺から近い松陰神社は何度かごはんを食べに来たこともありましたし、すごく好きなPADDLERS COFFEE(幡ヶ谷にあるカフェ)で、松陰神社にあるMERCI BAKEのお菓子を出していて、MERCI BAKEにもよく来ていました。なんかいい街だなって思っていたんですよね。そんな中で、たまたまこの物件を見つけて、ダメ元でいったら「いけた」っていう感じでした。運が良かったですね。
――このエリアの魅力はなんでしょうか。
本当に全ジャンルの人間がいるんです。一人暮らしの若い男の子もいれば、おじいさん、おばあさんもいれば赤ちゃんもいるし、若い夫婦も多いし。それでいて、みんな余裕があるんです。ここは駅に近いので見ていると、朝、駅に向かって走っている人は本当に少ないです。2、3人です。しかもその2、3人は毎日一緒の人で、あとはみんなゆっくり歩いてるんです。心にも、時間にもゆとりがある街ですね。美味しいご飯屋さんが多いし、最近は古着店と雑貨店も多いし、新しいお店がどんどん増えていますが、昔からあるお店もあって。そこの共存ができているのが、僕はすごい好きですね。
――エリアでおすすめのお店を教えてください。
めちゃくちゃあるので選びきれないんですけど…。いつもクロフネっていうイタリアンバルの方が毎日来てくれるんです。高級感のあるお店なので、そんな頻繁に行けるような場所ではないですけどすごくおいしいです。炭火焼ダイニング吉良は、焼き魚の定食がおいしくて。ちょっとお酒飲むこともできます。あとビストロサイクルは3,000~4,000円でコースメニューのような料理がお腹パンパンになるぐらい食べられるんです。蕎麦ダイニング 尚禅ってお蕎麦屋さんは、魚屋さんとつながりがあって刺身が新鮮でそれがめちゃくちゃ美味しいです。
有名なブーランジェリー スドウや安くておいしいニコラス精養堂などのパン屋さんも好きなお店はたくさんありますね。
――最後に今後の目標などはありますか?
カフェは内装に関して、まだできてないところがいっぱいあるから、少しずつ理想のお店にしていきたいと思います。お笑いに関しては、やりたいことだけやりたいですね。これまで我慢しながらやっていた部分もあったから、本当に自由に続けていきたいです。お店に来てくれる人にも、「応援してます」って言ってくれる人がいるから、そういう人たちにお返しするにはいろんなメディアに出て活躍することかなと思うので、そのためにも頑張りたいなって。
読者プレゼント
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※こちらの応募は締め切りました
大阪府出身。2006年 NSC大阪校 29期生。約15年にわたりコンビ・コマンダンテとして活動。解散後、2023年7月より石井ブレンドと改名し活動開始。著書に「全人類に提唱したい世界一手軽な贅沢 おいしいコーヒーライフ入門」(KADOKAWA)がある。
Instagram @comandanteishii
YouTUBE カフェちゃんhttps://www.youtube.com/channel/UC8vehpovTwnYFwjf3NxYVDw
カフェブログ https://ameblo.jp/coma141/
GOODFEELING COFFEE
住所/東京都世田谷区若林3‐19‐2
営業時間/9:00~18:00
定休日/水曜日、ほか不定休あり
Instagram @goodfeeling_coffee