こんにちは、30代2度目の前厄イヤーがやってきて戦々恐々としている菅原草子です。本年もよろしくお願いいたします。

2024年初回は、もうすぐ制度開始となる登記のお話を。SUMAU読者の皆様の中でも、マンションを購入した際など、不動産の登記をした経験がある方がいらっしゃるのではないでしょうか。不動産登記に関して定めているのが不動産登記法ですが、令和3年4月21日に改正があり、それにより設けられた制度が、ちょうどこの令和6年4月1日から開始となります。注目すべきは、「相続登記の申請義務化」です。

ご存知でしたか? 多くの人がいつかは直面するかもしれないこの制度、罰則もあるため、知らぬ間に違反していた…!なんてことのないよう、ぜひこの機会に知ってもらえればと思います。

<1>相続登記の申請義務化

 ご家族が亡くなり、不動産(土地・建物)を相続することになった場合、相続人は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記(所有権移転登記)をすることが義務となります。法務局に登記の申請をしなければなりません。

 “正当な理由”がないにもかかわらず、その申請を怠ってしまった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

 “正当な理由”にあたる例としては、

  • 相続人が極めて多数で、相続人の把握や必要資料の収集に多くの時間がかかるケース
  • 遺言の有効性や遺産の内容等について争いがあるケース
  • 相続人自身に重病等の事情があるケース

といったものが考えられているようです。

 なお、制度の開始は令和6年4月1日からですが、それ以前に相続した不動産についても、義務化の対象となりますので、ご注意ください! ただし、経過措置があり、遅くとも、制度開始の令和6年4月1日から3年以内である、令和9年3月31日までに登記をすればいい、とされています。

<2>遺産分割成立時の義務化

 また、相続人間で遺産分割がなされた場合には、遺産分割が成立した日から3年以内に、その遺産分割の結果に基づいた相続登記をすることが義務となります。同様に、正当な理由がないのに、その申請を怠った場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

 ここで、相続による不動産取得を知った日から3年以内に、遺産分割が成立した場合には、<1>の法定相続分にしたがった相続登記をせずとも、遺産分割の内容を踏まえた登記を申請すればOKです。一方で、遺産分割に3年以上の期間がかかりそうな場合には、<1>の登記をして義務を履行しておかないといけないのでは…?と考えられます。もちろんそれも可能ですが、そうすると登記申請が2度も必要となり費用や手間がかかります。そこで次の制度の活用が期待されます。

<3>相続人申告登記の新設

 新たに設けられるのが、「相続人申告登記」です。上記のとおり相続人には相続登記が義務化されるのですが、その申請義務を簡易に履行できるようにする制度です。

具体的には、①不動産の所有者が亡くなり相続が開始したこと、②自らがその相続人であること、を3年以内に法務局に申し出ることで、申請義務を履行したものとみなされることになります。単独で申請することができ、法定相続人すべてを明らかにするための資料も不要となるため、遺産分割の成立までに時間がかかりそうな場合は、この相続人申告登記により取り急ぎ相続登記の義務を履行しておく、という方法が活用されることとなりそうです。

ここで、少し前提知識となりますが、そもそもどうしてこれまで義務化されていなかった相続登記が、今になって義務化されることになったのでしょうか?

その答えは、実は、相続登記がされないまま、長年の間に何代も相続が発生し、もはや登記簿を見ても所有者が分からなくなってしまった「所有者不明土地」が、全国的に増加し、大きな社会問題になっていることにあります。

所有者がわからず放置されている土地や建物は、誰にも管理されないまま草木が生い茂っていたり、廃棄物が放棄されてしまったり、建物が老朽化して倒壊の危険が生じていたりと、周辺環境まで悪化することがあります。また、その土地を国や自治体が使用して都市計画や公共工事を進めたいと考えたときにも、所有者が分からないために、買いあげたり借りたりすることができず、障壁になってしまうこともあります。そのような問題を解決するために、法律が改正され、相続登記を義務化することで、もとの所有者が亡くなった後には次の所有者を明らかにし、その結果、「所有者不明土地」が発生しないこと、減少することが期待されている、というわけなのです。

 全国の法務局では、不動産登記簿の情報から、長期間にわたり相続登記がされていない土地を調査し、その土地の所有者の法定相続人を探索する作業を実施していて、その結果発見した法定相続人のうちの任意の方に、相続登記の申請を行ってもらうよう通知書を発送しているとのことです。

この制度に関連して、他にも法改正がなされた点があります。

〇住所変更登記の申請義務化

 令和8年4月までに制度として運用が開始される予定なのが、住所の変更登記です。不動産の所有者について、住所等の変更があった場合には、変更日から2年以内に、変更登記を申請することが義務となります。正当な理由がないのに申請を怠った場合は、5万円以下の過料が科される可能性があります。なお、住所変更登記については、もし法務局が他の公的機関から取得した情報により、住所変更が判明した場合には、法務局側で変更登記をしてくれるという制度も設けられることになっています。

〇外国に移住する場合の国内連絡先の登記

 不動産の所有者が国内に住所を有しなくなる時には、国内での連絡先(国内において代わりに連絡先となる者の氏名住所等)を登記することになります。

以上のように、新制度が順次開始されますので、相続により不動産を取得したことがある方は、所有している不動産について相続登記が完了しているか、念のため確認いただくといいかもしれませんね。

新制度については、法務省がわかりやすくまとめたマンガや法務局によるポスターもありますので、参考にしてみてください。

<参考リンク>

https://www.moj.go.jp/content/001393331.pdf(法務省ウェブサイトより)https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/content/001396067.pdf(東京法務局ウェブサイトより)

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弁護士 菅原草子(スガワラソウコ)

仙台市出身。都内法律事務所所属。個人から企業の相談まで分野を問わず依頼をうけている。

大学院農学研究科で食品成分の研究をしていた異色の経歴から、食品関係企業の取締役も務める。

趣味は、ビールと美味しいごはんと海外旅行。

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