2023年夏、こんなに汗をかいている夏はないかもしれません、猛暑です。少しでも涼しい話が聞きたい今月は、ちょっと心が冷える離婚問題のお話を。

「3組に1組が離婚する時代」なんて耳にすることが増えてきました。が、実はこれちょっと誤解を生む言い方だって知っていましたか?単純に日本の夫婦のうち1/3が離婚しているとは言えないのです。「3組に1組」というのは、近年は、1年のうちに結婚した夫婦が約60万組、離婚した夫婦が約20万組であるという数値から来ていると思われます。実際、厚労省の統計で発表されている令和4年の日本の離婚率は、1.47。これは人口1000人に対しての離婚する組を表しています。1000人の中には結婚していない数も含まれるため、一概にどの割合で離婚しているのか、はなかなか算出が難しいものです。ちなみに離婚率のピークは2002年頃で、近年はむしろ減少傾向。ただ、1970年頃の倍になっていることは確かなので、離婚した人が増えていると感じるのは正しい感覚かもしれません。DINKSでは、離婚後も自分で生計を立てられることができるようになったことから、経済面への不安が減少し離婚へのハードルが下がっているように感じます。

1 離婚の方法

 「離婚」とひとまとめで言っても、いくつかの方法があります。

①協議離婚

・話し合いにより合意して離婚する方法。自由度が高い。

・話合いの結果を効力のあるものにするため、公正証書にしておくとよい。

②調停離婚

・家庭裁判所での調停という手続きにおいて、調停委員が関与しながら、合意して離婚する方法。

・話がまとまった場合には、調停調書という効力ある書面が作成される。

③裁判離婚

・調停で話がまとまらなかった場合に、裁判という手続きにおいて離婚する方法。

・裁判内での和解になるか、裁判所により判決という形で判断が下される。

・民法が規定する離婚事由がある場合に、離婚が認められる。

どの方法も、本人が行っても、弁護士に代理人を依頼しても、どちらでもOKです。

日本の離婚では、協議離婚が9割方を占め、圧倒的多数になっています。協議離婚の特徴の1つは、自由度が高いこと、どんな理由で離婚してもいいですし、離婚にあたっての条件も自由です。また費用もかかりません。

一方、裁判所を介入させる調停離婚や裁判離婚は、調停委員や裁判官が第三者の視点から助言や判断をしてくれます。離婚を認めるべき事情があるのか、という根底の部分も考えることになります。

民法に記載のある離婚事由としては、配偶者に不貞な行為があったとき、配偶者の生死が3年以上明らかでないとき等のほか、各種の事情を総合的に判断することのできる「婚姻を継続し難い重大な事由がある」ときがあります。これにあたる事情は、たとえば、

・別居期間が長い(目安は5年)

・虐待、暴力、ハラスメント

・犯罪行為

・親族との不和、性格の不一致

などです。なんとなく気分で、夫婦の一方の勝手な都合で、等という場合は認められません。なお、親族との不和や性格の不一致は、多少はあるものですので、よほどの場合と考えられます。

ちなみに裁判では、不倫をしていた当事者(有責配偶者)から離婚の請求は、一定の要件が満たされないと認められません。不倫をしておきながら離婚したい、なんて自分勝手な要求は認めませんよ!という考え方は納得できますよね。

2 離婚するときに考えておきたいこと

 離婚にあたっては関連事項がいくつもあります。きっと皆さんの心配ごとも、ここに関係してくるのではないでしょうか。

・別居したら離婚までの生活費はどうなるのか (⇒①婚姻費用)

・慰謝料はもらえるのか (⇒②慰謝料)

・夫婦の財産はどのように分けるのか (⇒③財産分与)

・子どもの親権、監護権はどちらが有するのか

・子どもの養育費はどのように決めるのか

・離れて暮らす親は、子どもと会うことができるのか

これらの項目は、絶対に離婚するときに同時に決めないといけない、というわけではないのですが、一緒に考えて決めておく方が一般的で、離婚した後もスムーズに生活を送ることができます。

知っているようで知らないポイントを、私が実際に相談者に質問された内容も踏まえて、お伝えします。(長くなるのでお子さんに関連する話は、また別の機会に。)

  • 婚姻費用

婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を送るために必要な費用のこと。具体的には、衣食住の費用、医療費、交際費などが含まれます。別居しても夫婦であれば互いに協力して扶助する義務があるので、収入の多い方から少ない方に、生活費を支払う必要があります。

金額の基準としては、裁判所でも用いられる算定表がありますので、参考にすることができます。もちろん一つの基準ですので、協議や調停においては、基準によらず双方の納得いく金額に決めることができます。

<養育費・婚姻費用算定表>

https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/file/santeihyo.pdf

  • 慰謝料

離婚に伴う慰謝料には、2種類が考えられます。

ⅰ)離婚せざるを得ない状況を作ってしまった事についての慰謝料

ⅱ)精神的苦痛に対する損害賠償としての慰謝料

具体的慰謝料の額は、離婚に至った原因、婚姻期間、子どもの有無、離婚後の経済状況等を総合して判断します。

  • 財産分与

婚姻後から離婚時点(別居した場合は別居時点)までの間に、夫婦で作り上げた財産は、分け合うことができます。たとえば、専業主婦とサラリーマンという夫婦も、互いの協力があって家庭として給与を得ているのですから、そこから発生した財産は夫婦の共有財産です。具体的には、預金、不動産、保険、株式、退職金等が挙げられます。「2分の1ルール」といわれ、原則としては平等に2分の1ずつを取得することになります。一方で、婚姻前から所有していた財産、相続や贈与で取得した財産、別居後に形成した財産、は特有財産といって、個人の財産になります。

よく質問をされるのは、「どのように財産すべてを把握するのか?」「相手が隠すことはないのか?」という点です。双方偽りなくすべてを開示すればいいですが、関係性が悪化していたりすれば、相手から素直に開示されない場合も多々あります。もっとあれもこれも財産があるのでは⁉と思う場合には、こちらで立証する必要があります。そのためにも、相手の取引口座、保険契約、証券会社、といった情報は事前に押さえておくことをおすすめします。別居する場合はとくに情報が少なくなりますので、別居前に把握しておくことが重要です。


3 共有名義の住宅について

上記のとおり、婚姻後に取得した財産は半分こ。これは所有不動産についても同じで、名義がどちらであるかに左右されません。分け方としては、

①売却して、売却代金を分ける。

②一方がそのまま居住し、住宅の価値の半分にあたる金銭をもう一方に支払う。

が考えられます。

 住宅ローンがあるのであれば、

①残ローンを返済しても売却利益が残れば、それを分ける。

②残ローン額を控除した住宅の価値がプラスであれば、その2分の1相当額を、マンションを取得する方から他方に支払う。(ローンは継続して支払う。)

ことになります。



ここで、住宅ローンを継続していくときには、ローン名義、連帯債務人・連帯保証人を変更する手続きを取るか考えることになります。例えば、夫が家に住み続ける場合、妻は連帯保証などから外れたいと思いますが、これは金融機関次第で、一般的には難しいとされます。妻の代わりに別の新たな保証人を置いたり、保証協会を利用したり、一部まとまった返済をすることで、金融機関と交渉の余地があります。また、住まない側がローンを支払う場合には、支払いを継続してくれる保障がないため、住む側としては相手の支払い滞納により立ち退きを迫られることがないように備えることも検討すべきです。

以上のように、離婚の際にはいくつも考えることがあります。勢いでことを進めて後から困ることのないよう、冷静に考えておきたいところ。ただ当事者はメンタルをコントロールするので手一杯ですし、それぞれの状況によっても進め方は異なりますので、悩まれた場合にはいつでも弁護士にご相談ください。

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弁護士 菅原草子(スガワラソウコ)

仙台市出身。都内法律事務所所属。個人から企業の相談まで分野を問わず依頼をうけている。

大学院農学研究科で食品成分の研究をしていた異色の経歴から、食品関係企業の取締役も務める。

趣味は、ビールと美味しいごはんと海外旅行。

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