2004年夏。アメリカ北東部のロードアイランド州にある名門美術大学、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインの卒業式で、ジョー・ゲビアは親友ブライアン・チェスキーに言いました。「いつか一緒に起業しよう」と。
しかし、現実はより現実的で…。ロサンジェルスの実家に舞い戻ったブライアンは心地良さとは程遠い実家の地下室に住みながら、父親の希望通り健康保険会社に勤務。一方のジョーはサンフランシスコに移住し、グラフィックデザイナーとしてアメリカ西海岸を代表する出版社クロニクルブックスに勤めていました。
心に渦巻く“世界をデザインする“という野望を捨てきれずにいたブライアンは、ある朝、通勤ラッシュの車中で「これが俺の人生なのか?」と絶望し、漠然とした死の予感に戦慄したとその後のインタビューで語っています。
2007年10月。健康保険会社を辞めたブライアンは、ボロボロのホンダシビックに丸めたマットレスを詰め込んで、旧友のジョーを頼りにサンフランシスコへと旅立ちます。所持金は銀行口座の$1,000だけ。ところが蓋を開けてみればなんとやら。ジョーの住む3ベッドルームアパートメントの家賃は、1部屋につき$1,500だったのです。支払日は数日後。途方に暮れるブライアンと家賃収入が必要なジョーは、3部屋のベッドルームのうち2部屋を貸し出すことにしました。来客用のエアマットレス3台と自家製の朝食付きで。
“Air Bed and Breakfast”
この“ピンチはチャンス”がAirbnbにとってきっかけとなりました。その後、2008年2月に3人目の創業者としてハーバード大学卒業生の情報技術者ネイサン・ブレチャジックが加わり、“Airbedandbreakfast.com”が2008年8月11日に正式に設立しました。日本法人のAirbnb Japan株式会社が設立したのは2014年ですが、私はその2年前、ロンドンオリンピックが開催された2012年の夏に、初めてAirbnbを利用してパリにある芸術家が所有する一軒家に家族で宿泊しました。
子どもたちにとって初めてのパリ滞在。AirBnBを選んだ理由は、居心地の良いホテルに宿泊するのも素敵だけれど、暮らすようにパリを感じて欲しかったから。芸術家が所有する一軒家だけあって、個性的な間取りとインテリア。
家の中心にある天井高約10mのリビングルームには大きな階段脚立が置かれていたり、キッチンのキャビネットには手書きアートが描かれていたり。ユニークで広い居住空間を、子どもたちはまるで誰かの家に遊びに来ているかのように楽しんでいました。2012年からAirbnbはファミリートリップだけでなく、ビジネストリップに欠かせません。ここ最近では頻繁に海外へ行く長女もAirbnbをかなり使いこなしています。
この夏にイタリアへ1ヶ月間留学する次女は、オレンジ色の猫がいる一軒屋にホームステイします。寝泊まりするのはプライベートバスルームの付いた屋根裏部屋のような部屋。家主は近隣の大学に勤務する教授です。この物件もAirbnbで見つけました。とても高評価の家主で、何度かメールでのやり取りを繰り返したのちに決断した私でしたが、次女にとっての決め手はオレンジ色の猫だったそうです。
次女にとって初めての海外生活。大の猫好きな次女と、まだ名前も知らないこのオレンジ色の猫との生活小話が、私はすでに楽しみです。国内外、とてもユニークな住空間が見つかるAirbnb。この夏にでも是非体験してみてください!
クリス‐ウェブ佳⼦(モデル・コラムニスト)
1979 年10 ⽉、島根⽣まれ、⼤阪育ち。4 年半にわたるニューヨーク⽣活や国際結婚により、インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PR など幅広い職業経験で培われた独⾃のセンスが話題となり、2011 年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物⾔いと広い⾒識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017 年にはエッセイ集「考える⼥」(光⽂社刊)、2018 年にはトラベル本「TRIP with KIDS―こありっぷ―」(講談社刊)を発⾏。