姿勢も所作も美しい男性に案内されながら、華やかで開放的なエントランスを通り抜け、エレベーターで4階へ。枯山水を思わせるカーペット敷きの幅広い共有廊下を歩き進み、辿り着いたのは角部屋でした。窓が多く、室内にたっぷりと光が差し込み、風通しも良いうえ、中部屋に比べて人の往来が少ないのが角部屋の利点。借りるなら、買うなら、絶対に角部屋と私は決めています。

 
さて、前出の男性が満を持したかのように重厚な玄関扉を開けてくれたのですが、まだ一歩も踏み入れていない状況で私はこう思ってしまったのでした。「ここに住みたい!」って。それは思い描いてもいなかった理想の住まいのような気がして。

爽やかな木々の香りが漂う玄関ホールから視線を伸ばすと、その先、リビング一面に設えられた大きなコーナー窓の外に広がるは、二条城。もう一度、正式名称で書きますね。世界文化遺産・元離宮二条城。どーんっ!!と、それはもう圧巻です。東大手門も東南隅櫓(とうなんすみやぐら)も見えます。

総面積112㎡。二条城を一望できるリビングルーム。収納たっぷりなウォークインクローゼットを備えたベッドルーム。ダブルシンクの洗面台に、大人ふたりが一緒に入っても余裕綽々な大理石造りのバスルーム。しかもテレビ付き。Wi-Fiも無料接続でコンシェルジュのサービスも24時間対応。エントランスでは一流のお出迎え。ただただ最高。でも、でもですね、キッチンがないのです。なぜならこの部屋は2年前の11月に開業したHOTEL THE MITSUI KYOTOの「ニジョウスイート」だから…。これでキッチンがあったら最高なのに。“住みたい“、”住めないかな?“、”もしも住めたら”と妄想を膨らませながら、「ニジョウスイート」の間取りに理想のキッチンスペースを描き込んでみたり。そういう普段は絶対にしないであろう遊び、ゆとりに時間を存分にかけられるのが旅の醍醐味だったりもする気がします。

ところで、キッチンのない間取りはなんと呼ぶのでしょう。1LDで良いのかな?外食文化が発達している台湾では、単身向けの物件によくありがちな間取りですが、超少子高齢化社会が確定していて、30代男女の4人に1人が「結婚願望ゼロ」と絶望的な日本でも、今後キッチンなしの物件は必要とされるかもしれないですね。来年成人になる料理好きの長女にはまったく向いていませんが、包丁を一切持たない、作るなら買う派、食べに出る派の次女にはもってこいの物件です。


今回はHOTEL THE MITSUI KYOTOの「ニジョウスイート」にチェックイン。1867年10月14日、江戸幕府15代将軍・徳川慶喜「政権、返すわ」と。そして翌15日、朝廷「OK!江戸幕府終了!」となった大政奉還についてきちんと学び直そうと、窓辺のソファに寝そべり、かけたのはQUEENの『THE SHOW MUST GO ON』でした。

クリス‐ウェブ佳⼦(モデル・コラムニスト)

1979 年10 ⽉、島根⽣まれ、⼤阪育ち。4 年半にわたるニューヨーク⽣活や国際結婚により、インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PR など幅広い職業経験で培われた独⾃のセンスが話題となり、2011 年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物⾔いと広い⾒識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017 年にはエッセイ集「考える⼥」(光⽂社刊)、2018 年にはトラベル本「TRIP with KIDS―こありっぷ―」(講談社刊)を発⾏。

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