ずいぶん前のこと。行きつけのバーガー屋で、「おいしいからみんなで食べて」と金沢の名店、松葉屋の胡桃羊羹“比咩くるみ”を手渡されました。一度は食べてみたかった憧れの、金太郎飴のように切っても切っても胡桃が出てくる予約必須の“比咩くるみ”をくれたのは、生粋の美食家、目黒と表参道にある人気ハンバーガー屋GOLDEN BROWNの経営者ノブさん。

ノブさんと出会ったのは2008年。私は28歳で、2歳と3歳の娘を連れて出かける場所といえば近所の公園、渋谷の児童館、そして時々東京タワー。外食はというと子連れが基本で、大人な場所で大人だけで食事をするなんて疎遠中の疎遠でした。そんな折に出会ったのがノブさんです。GOLDEN BROWNに行くと、ノブさんは必ずと言っていいほど煙草を燻らせながらウィスキー片手に、最近食べた美味しいもの、最近見つけた美味しい場所を教えてくれました。池尻大橋にある町の中華料理店、鶏舎の“冷やし葱そば“を愛飲し、気の向くまま銀座の資生堂パーラーで”和牛プレミアムカリーライス“をかきこむ。かと思いきや遠方の、例えば兵庫県丹波篠山まで出向いて澤藤の”鯖寿司“を頬張り、旬だからと言っては金沢の河原町一で”香箱蟹のお鮨“を堪能する。大人な贅沢を謳歌する大人。それがノブさんです。

美味しいものを食べる。それを第一目的に、いつかノブさんのように国内を旅したいと思い募ること約15年。旅をするならやっぱり海外だと、アイスランドやカンボジア、モロッコやタヒチなど、チャレンジな国々も含めて国外を優先してきましたが、このご時世も手伝って、今年の5月、遂にその旅を実行しました。出かけた先は鎌倉。第一目的地は薪火料理の季音/ KINONです。

ノブさんに教えてもらった数々の名店を攻略することも考えましたが、まずは自分で探し当てた店から始めようと思い、近場の鎌倉に焦点を絞ってGoogle Mapで虱潰しに探しました。季音はサンフランシスコのSOMA地区にあるミシュランレストランSaisonで研鑽を積まれたシェフ、村野敏和さんのお店。焦がし具合と燻し具合。シンプルながらも技量と経験、そして個性が反映される薪火料理、和洋折衷コース一本仕立ての潔さ。特筆すべきは逆さの茶碗に鎮座したウニトースト。サラダのあと、メインの前に出てきたのですが、あまりの旨さにおかわりを求めてしまいそうに。

Saisonではパティシエとして活躍されていたそうで、シンプルを極めた3つのデザートは満腹だったにもかかわらずスルッと胃に収まってしまうほどの絶品でした。ワンオペで、職人気質、気難し屋かと思いきや、こちらの問いにも一つ一つ丁寧に笑顔で応えてくれる村野シェフの背中を背景に、オススメしてくれたワイン2本。5月に行ったきりなので、初秋の旬を味わいに季音の再訪を9月に計画しています。泊まるのは観光に便利なホテルメトロポリタン鎌倉。素泊まりにして、朝食は朝7時半から営業している台湾キッチン叙序圓が、これまたおすすめです。


GOLDEN BROWN / 松葉屋 / 鶏舎 / 澤藤 / 河原町一 / KINON / 台湾キッチン叙序圓の住所はSUMAUchein MAPに掲載しています。お役立ていただけましたら幸いです。

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