“おうち時間“をもっと楽しくする選りすぐりの作品
今回は誰もが憧れるような大豪邸から、ほっと落ち着く懐かしい雰囲気のおうちまで、さまざまな居住空間が登場する作品をご紹介します。空間はもちろん、そこに暮らす魅力的な登場人物たち、繰り広げられるストーリー展開の面白さも映画ソムリエとして選び抜いた作品ばかりです。
自宅に居ながら別世界を体験できるのがNetflixの映画やドラマの醍醐味。作品を通して登場人物たちの住まいや暮らしぶりをちょっと覗いてみませんか?
一話に1箇所、目を奪われるほどの豪邸「セリング・サンセット」
Netflixで配信中の人気リアリティ番組『セリング・サンセット〜ハリウッド、夢の豪華物件~』は、LAにあるセレブ専門のオッペンハイム不動産を舞台に、そこで働くキャリアウーマンたちの日常を追うリアリティショーです。
オッペンハイム不動産といえば高級物件を扱うことでも有名で、公式ホームページを見ると75億円の豪邸の販売実績なども見ることができます。有名なセレブだとメリル・ストリープやオーランド・ブルームも顧客のひとり。
そんな不動産会社を舞台にしているだけあり、6000平米以上の家や、どのエピソードにもプール付きの大豪邸が登場し、憧れの地ハリウッドの大豪邸を細部まで内見できるので体験型エンタメといっても過言ではないでしょう。
HENGEやKartellなど高級インテリアの配置の仕方なども参考にもなります。
しかし、豪華物件パートだけが見どころじゃありません。
そんな物件を販売する美しきパワフルなキャリアウーマンたちの刺激的なライフスタイルがこのドラマシリーズの”肝”。
全員が個性の塊でキャットファイトが演出的に目立ちますが、バリバリの営業ウーマンならではの仕事に対する価値観に共感したり、大富豪や経営者とのやりとりが日常である彼女たちのクライアントへの接し方を学んだり、毎度登場する豪邸を颯爽と売りさばく様子には快感すら覚えます。
超セレブな顧客たちに対して営業スーツではなく、ミニ丈レザーワンピに10センチはあろうかと思われるピンヒールを合わせたスタイルで接客し、購入に至るまでの世界観を提案する姿勢。
営業の基本とは何か。それは、良いものを紹介する以上に、仕事の過程にもドラマを与え、相手の心を満たすことなのかもしれません。自分の価値を信じ、仕事と向き合う姿勢にはグッときます。
2021年3月11日に、Netflixはシーズン4の制作を公式発表しました。毎日の息抜きに、刺激的な世界は相性抜群。
Netflixオリジナルシリーズ『セリング・サンセット ~ハリウッド、夢の豪華物件~』シーズン1~3独占配信中
パリの街並みが一望できるアパルトマン「エミリー、パリへ行く」
2020年10月初めに公開されたNetflixドラマ「エミリー、パリへ行く」は、シカゴからパリにやって来て、マーケティング会社で働くことになるエミリーの物語。『セックス・アンド・ザ・シティ』のクリエイターであるダーレン・スターが手がけたことから、パリ版SATCと配信当初から話題をさらい、世界中で人気を博しました。
そして衣装は『セックス・アンド・ザ・シティ』や映画『プラダを着た悪魔』でも衣装デザインを担当したパトリシア・フィールドが担当。鮮やかな色使いのファッションからシックなドレス姿まで、おしゃれが好きな女性のハートをつかみ、エミリーの着用したファッションが爆売れするという現象も続いた人気作です。 物語はシンプルで、流行に敏感な今ドキのアメリカ人女子が、異国の地フランスへの転勤をきっかけに、恋も仕事も友達関係も、持ち前の明るさで何もかも乗り越えていく様子を描いたもの。 軽やかなストーリーのなかで、困難にぶつかっても自分を自分できちんと抱きしめることのできるエミリーの生き方はポジティブになれるヒントが隠れています。聡明ではつらつとし、現代の赤ずきんちゃん、といったところ。
エミリーが暮らすこととなるパリのアパルトマンの5階(パリでは1階がグランドフロアとなるので実際は6階)に位置する部屋には、エレベーターはありません。
しかし草花やペーズリーの柄をあしらったゴブラン織りの絨毯の階段を1段1段のぼり、たどり着いた先の自分の部屋の小窓から見えるパリを一望できる景色は、まるで絵本の世界のような愛らしさ!
「ムーラン・ルージュのニコール・キッドマンになったみたい」
彼女はこの景色と出会い第一声にそう感動しますが、小窓からは青い空とパリの街並み、眼下にはパリジャンたちが集まり、一息できるような緑とベンチのある空間や、美味しいレストランがあることに気づきます。街は生活そのもの。どんな人たちが暮らす場所であるかも重要なエッセンスであることを教えてくれます。
1話30分、合計10話で、サクッと観られてしまうのも嬉しいポイント。シーズン2が始まる前に、是非。
・実在するアジアのスーパーリッチが暮らす家「きらめく帝国~超リッチなアジア系セレブたち~」
友人のバースデーにはパリ旅行を企画、お買い物は飛行機をチャーター、ホームパーティーのお土産は全員にロレックス、そして子供の誕生日会の予算は…なんと1億円。
LAで暮らす桁違いな超富裕層のアジア人&アジア系アメリカ人の人間模様を描いたリアリティショーは、毎エピソードに衝撃のセレブネタが投下されて何かと煩悩の多い浮世から、つかの間離れたいときに最適です。
主要キャストは8人。「ビバリーヒルズの女王」という異名を持つ形成外科を経営する女性、東南アジアで石油・ガス・不動産を幅広く手掛けるファミリービジネスから距離を置きながらも成功を収めている男性、億万長者であり爆弾や銃を販売する大企業の女相続人などなど、めったにお目にかかれないような実在の人物たち。
でも、このリアリティショーの面白みは出演者たちのセレブぶりだけじゃあありません。
生まれながらの家柄が生み出した重圧や、「自分はなにのために存在しているのか?」という疑問、出産をめぐる精神的重圧など…。富があろうがなかろうが、今を生きる人ならば共通変換できる話題も登場し気づけば彼らを友人のようにさえ思えてしまうほどパーソナルな部分にフォーカスしているんです。
アジア人という人種ならではの信仰心などもとても自然な形で登場していて、不思議と共感もできますよ。
実際に彼らが暮らす住居がたびたび登場しますが、シャワー室や寝室まであらわになって、住人の視線を借りて、家を細部まで覗くことができます。
ちなみに筆者が特に驚いたのはロシア人と日本人のハーフ、アナ・シェイの家でのグラマラスなイベント”美容デー”のエピソード。家にエステティシャンやネイルアーティスト、マッサージ師などのスペシャリストたちを呼び寄せ、そこに親友たちを招待したという豪華なパーティー。
比率すると、もはや使用人のほうが多いイベントなのです。
緑あふれる広大な敷地に飛び交うマイナスイオン。そこは世界一贅沢なスパそのもの。
家という空間に対する夢がどこまでも広がり、自分だったら親友たちをどう招こうかと妄想が膨らみます。
Netflixオリジナルシリーズ『きらめく帝国 〜超リッチなアジア系セレブたち〜』独占配信中
世界的映画監督の感性を育てたメキシコの邸宅「ROMA」
世界的映画監督「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督による全編モノクロで撮影されたアカデミー作品賞ノミネート作品。1970年代の監督の故郷メキシコ・シティに位置する「ローマ」という町を舞台に、キュアロン少年の家で、住み込みで働き献身的に育ててくれた家族同然のメイドに起きる出来事を中心に回顧していきます。
陰影たっぷりの深遠なモノクロでみせる映像美にも酔いしれることができます。単純に白と黒の2色ではなくグラデーションがとても繊細なのです。 引きの超長回しカットは、ノスタルジックでどこまでも味わい深く、誰かの記憶のはずなのに、それがいつしか自分の記憶だったようにさえ思えてきて…1人の映画監督のパーソナルな思い出の世界は、いつの間にか”自分自身の記憶の旅”へと、観るものを誘います。
自由な国アメリカへの憧れ、経済格差などの政治的混乱の影響からデモも多かった70年代のメキシコですが、そこに焦点をあてるわけではなく、例えば皆で囲む食卓の様子、何気ない喧嘩といった1つの家族の「なんてことのない日常」をミニマムな視点で描くことで、平穏な日常がゆらぎつつも、また静けさを取り戻していく様子が綴られ、静かにじんわりと全身に感動が伝わっていくはず。
メキシコ・シティにおいて当時、中間階級だったキュアロン少年の暮らす広々とした家。
作品の冒頭から大理石の床を掃除する様子が接写されます。
水を撒かれたその床はキラキラと光り、そこに空の光が反射して映し出され、モノクロ映像でも白亜の美しい家をつつみこむ、メキシコの温暖な気候が伝わってきます。 生活感をきちんと残したまま、家を詩的に捉えた美しい作品です。
Netflix映画『ROMA/ローマ』独占配信中
いかがでしたでしょうか?住みたい家、憧れの暮らしを見つけて、想像を巡らす夜を過ごすのもいいかもしれません。
映画ソムリエ 東 紗友美(ひがし・さゆみ)
1986年6月1日生まれ。2013年3月に4年間在籍した広告代理店を退職し、映画ソムリエとして活動。レギュラー番組にラジオ日本『モーニングクリップ』メインMC、映画専門チャンネル ザ・シネマ『プラチナシネマトーク』MC解説者など。
HP:http://higashisayumi.net/
Instagram:@higashisayumi
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