世界的にも人気の高い千年の都、京都に比べ、奈良は、今までずっとその都の奥座敷のように、静かに悠久の歴史を育んできた印象がります。しかし、奈良は卑弥呼の時代(3世紀前半)から、政治も文化も日本の中心的な地域としてあり、古墳時代から飛鳥時代へ、そして奈良時代と続いた都は、794年に平安京に遷都されるまで繁栄を繰り返し、日本文化の中心地として賑わっていました。
                       

そして今、奈良は静かなる古都として再注目され、また、そのいぶし銀のようにあり続ける古(いにしえ)の奥深さに惹かれる人も多く、観光、歴史、文化の面から再び注目され始めているのです。そんな折、観光の中心地でもある奈良公園の一角に、これまでの奈良には存在しなかったタイプの最高級リゾート「ふふ 奈良」が、2020年6月5日、優雅にその姿を見せてくれました。このリゾートホテルの誕生で、奈良のホテル史に新たなストーリーが加わったことになります。

コンシエルジュ・カウンターに使われている1本木は、ホテルが建つ地に根付いていたクスノキの大樹。歴史の重みやオーラを感じさせる大樹のカウンター。
パテーションで区切られた半個室のラウンジからは、ランドスケープアーキテクト・宮城俊作氏のデザインによる中庭が望める。通路奥は「BAR 蓮」への扉。

客室は全室スィート仕様で天然温泉露天風呂付。写真は「ふふラグジュアリープレミアムスィート」(121.3㎡)。一段低く造られているのは、日本古来の「座する」をテーマにデザインされた堀り込みリビング。

「ふふ 奈良」は庭屋一如(ていおくいちにょ)のリゾートと言われます。庭屋一如とは「庭と建物は一つの如し」という意味があり、もともと庭と建物が空間を共にする日本の住まいや建物の伝統であり、自然との一体感を感じながら、ライフスタイルを大切にする信条を守っているのです。

「ふふ 奈良」にも、敷地の中央には歴史的文化財である庭園を復元した「瑜伽山(ゆうがやま)園地」が存在します。そして、ロビーのある客室棟と、日本料理レストラン「滴翠」のある棟がその庭園を挟むように立っています。また、庭の中央には雅号を「滴翠」と号する茶道家、山口財閥の当主であった山口吉郎兵衛(やまぐちきちろうべ)の茶室も復元されました。

このコロナ禍の中で、新規ホテルの開業にこぎつけたことだけでも凄いことですが、開業後、真新しいこのリゾートには、地元の人々が多数訪れ、庭を見学し、レストランでランチを楽しむ姿があり、「待たれていたリゾートだった」ことを確信しました。

奈良の歴史や伝統を建て物に充分に採り入れながらも、モダンでスタイリッシュなリゾートホテルにデザインをしたのは、世界的な建築家の隈研吾氏でした。ロビーの一部には校倉造が、そして客室のあるメインの建物など建物全体的には、奈良格子、連子格子、大和張りを設え、陰翳のある印象を演出し、建物外壁の色を‘古代墨’の温かな墨色で仕上げました。特徴的な甍(いらか・屋根の大棟)など、奈良の歴史的な景観もきちんと継承されています。客室は全30室。71~121㎡の5タイプが揃い、いずれも贅沢な客室仕様です。そして何よりも、すべての室内に天然温泉露天風呂が設置されていることが重要なプラス要因でもあり、それに加え、客室の家具調度品、ファブリックなども、奈良らしい渋みの中に、「ふふ」ブランドとしての高級感を漂わせています。

庭園から見た日本料理「滴翠」/鉄板焼き「久璃(くり)」の外観。大和野菜や和ハーブ、地産の食材を使い「ふふ 奈良」らしい奈良料理を提供。

焼き物として人気の高い「大和牛和紅茶焼き」は柿の葉や当帰葉、ドクダミを燻し、和紅茶に絡めて焼いた「大和牛」をキハダの皮に盛り大和味噌、蓮の実を使った ソースでいただく。

体が活性化する朝食は大和野菜のスムージーからスタート。地産の食材で作られた数々の小鉢料理と、奈良の郷土料理「奈良茶粥」と共に。写真左奥の小土鍋にはオリジナルの納豆汁


奈良公園の一部にあることから、天然記念物の‘鹿’を見かけてもおかしくないのですが、実際に、ホテルの塀に寄りかかって寛ぐ鹿を見ると、一層、奈良にいることを実感させてくれます。京都の‘雅’な文化とは異なり、奈良の‛燻し銀’のような伝統文化を体感できる造りや、柔らかな印象を放つ古代墨の色遣いや古木遣い、真鍮の輝きやスタイリッシュなライティングなど、伝統と斬新さのバランスがみごとに折衷されています。「ふふ 奈良」に滞在することで、昔から日本人が培ってきた美意識である、生活と自然との一体感、隠された本物志向などが、古都‘奈良’にはより深く息づいていることを実感するでしょう。


奈良公園の「浮見堂」のある鷺池に面したレストランのメインエントランス。武家屋敷のような貫禄ある趣が奈良公園の情景に溶け込む。

取材・文/せきねきょうこ

Photo: ふふ 奈良

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、現在、新刊出版を準備中。

http://www.kyokosekine.com

DATA

ふふ 奈良

奈良県奈良市高畑町1184-1

Tel: 0742-81-7738

https://www.fufunara.jp/

客室数:全30室(5タイプ)

室料:38,500円(税サ込、入湯税別、2食付き)~

施設:日本料理レストラン(鉄板焼き含む)、Bar、日本庭園、貸切風呂、スーベニアショップ、ロビーラウンジ、

Spa by sisley、茶室(庭園遺構として奈良県が管理運営)

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