今回は、大日方久美子さんと親交のある渡邉香織さんにお越しいただきました。foxco(フォクスコ)の名前でイラストレーターとして活動されている渡邉さん。SNSでは一緒に旅行を楽しんでいる様子を投稿されていたり、大日方さんの犬たちのイラストを渡邉さんが描いたり、とつながりの深いお二人の出会いや、渡邉さんの創作活動についてもお話を伺いました。
“線”で深まった
二人の関係
渡邉「もともとインスタグラムで素敵な方だなと思って、保護犬活動にも興味があったのでフォローさせていただいていたんです。それが偶然お仕事のイベントで一緒になって。最初は緊張して久美さんの周りを行ったり来たりして(笑)、かなり勇気を振り絞って話しかけました」
大日方「そのあと私も香織ちゃんのインスタグラムでシュナウザーを飼っていることを知って、ワンちゃんのことでコメントしあうようになったんだよね。もともとアートも好きだったので、香織ちゃんのイラストのファンにもなりました。香織ちゃんが個展を開くときに『物販の売り上げの原画分の全額を保護犬団体に寄付したい』と言ってくれて、私がお世話になっている団体を紹介しました。小さな団体で皆さんがびっくりしてしまうくらい、寄付してくれたんです。そんな活動をしてくれたのが嬉しくて。このことは皆さんに知ってほしいですね。その個展では私も絵を購入したんです」
渡邉「この先も保護犬に関する活動は続けたいと思っています。久美さんが買ってくださった絵は、台湾にいた犬を描いたものなんです。友達とおかゆやさんに入ったら、犬がご飯を食べているのでお店で飼っているのかと思いきや、食べ終わったら外へ出ていったんです。
この犬は建物の4階に住んでいて、おなかが空いたときに1階(おかゆ屋)に降りてきてご飯をもらって帰っていくんだよ、と『やれやれ』と言わんばかりにおかゆやさんが教えてくれたんです(笑)。
媚びない犬がかっこよくて『INDEPENDENT DOGS』というシリーズをはじめた最初のピースが久美さんが購入してくださったものだったんです」
大日方「この絵を持って帰ったら、夫がこの線のタッチがいいってすごく気に入ったんです。実は、ずっと好みの線を探していて…。この線はクールだけどかわいいし、主張していないけどおしゃれだし、求めていたイメージにぴったりだって。そのことを伝えたらすっごく香織ちゃんが喜んでくれて。なぜかと思ったら、この展示会のタイトルが『INDEPENDENTLINES』(独立した線)というタイトルだったんですよね」
渡邉「色彩のことはよく褒めてもらえるのですが、線へのコメントをもらったことがなくて。自分としてはこの線が気に入っているけど、もしかして私だけなのかな、と。そこに気づいてもらったのが、本当に嬉しかったです」
大日方「こういう感覚を共有できる人って少ないんです。同じ絵が好きでも、この線がいいよねってポイントで話せることはなかなかなくて」
渡邉「その話をしてもらったのがちょうど今後イラストレーターとしてどうしていこうかと悩んでいたタイミングだったんです。久美さんにはそのときにすごく相談に乗っていただいて距離が近づいたんじゃないかと思います」
大日方「そのあと香織ちゃんはロンドンに行ったんだよね」
渡邉「テレビ番組に出演したことへの反響が大きくて、自分の絵を見つめなおしたんです。私はなんのために絵を描いているんだろうって。日本にいると、明るい絵が多いから自分も元気になれるしみんなにも好いてもらいやすい。それも幸せなので続けたい反面、自分にあるネガティブな部分や暗い部分も認めてあげたいなと思うようになりました。『お前は何者なんだ』と常に問われるロンドンでもう一度アーティストとして自分と向き合おうと決めて渡英しました。」
大日方「渡英してすぐの頃、実力の足りなさについて実感したって、香織ちゃんがインスタグラムのストーリーを投稿していたよね。日本だと、どうしてもテレビの“香織ちゃん”になっちゃうから、場所を変えて“渡邉香織”になったんだ」
渡邉「そうなんです。ロンドンだったら先入観なく自己紹介から始まって、イラストを純粋に評価してもらえるので、そこで自信がついてきました。他人から何か言われても、自分はこれだけ頑張っているから大丈夫だって今は思えます」
大日方「自分で自分を納得させることって大事だよね。でも、急に海外に行って生活をするって普通なら『どうしよう』となってしまいそう。苦労した話も聞いたし…」
渡邉「もちろん『どうしよう』なこともいっぱいありました(笑)。でも、結果的にはよかったんじゃないかなと思います。コロナの影響でまだ先行きがわからないのですが、またロンドンに戻れたらアニメーションを勉強したいです。実は、最初にこの仕事に憧れたきっかけが、エルメスのクリスマスのアニメーションだったんです。いつか自分のイラストを動かしたいと思っていて、そこは原点に戻っている感じですね」
大日方「もしかしたら商業的な絵をずっとやってきて、そこで食べられるようになったところで、ふっと自分の本質に立ち返られたのかもね」
渡邉「得意なモチーフはもちろんだけど、自分が新しく挑戦したことも応援してもらえるアーティストになりたいと思ったんです。そうしたら自分が変わっていくしかないのかなと思って」
大日方「今後は作風まで変わってくる可能性もあるよね」
渡邉「例えば同じブランドでも、日本だと決まった商品に何を描くか細かく指示があることがほとんどなのですが、イギリスだと大きな概要だけあってブランドと一緒に進めていく形です。
そういった意味でもロンドンでの仕事の仕方や作品作りは楽しみです」
ロンドンに行って
生まれた様々な変化
大日方「30歳を迎える今、なにか感じることはある?」
渡邉「まだ自分に期待しているんだなって思いました。子どものときにいいなって思っていた気持ちとかハマったら抜けられない癖が残っているのが嬉しいです」
大日方「まだまだだからね!30歳も40歳もまだまだこれから。私は20代のころよりも、年を重ねるにつれて満たされていくし、感覚は研ぎ澄まされていっていると思う。でも、普通の30歳より香織ちゃんはいろんな経験をしているよね。イラストレーターになる前は、会社員もやっていたし」
渡邉「IT企業で3年くらい働いていましたね。たまたま、友達から情報サイトに使うイラストの依頼をもらって、その仕事のクレジットを見た人からまた仕事がきて…、と、次々とお客さんがつながっていき、ファッション誌での仕事から、一気に広がっていった感じでした」
大日方「夢をかなえるにはチャンスが少しでもあったら逃さずつかんでいったほうがいいよね」
渡邉「本当にそう思います。最近まで、やりたいことを黙っていたほうがかっこいいと思っていて、いつかエルメスとお仕事したいということも言ったことがなかったんです。でも、声に出すことで意外と近くにチャンスをみつけたり、言葉の力も感じました。」
大日方「香織ちゃんっていろんなことをきちんと決めているよね。黙ってやろう、とか。私は黙っていられないけど(笑)。これまでそうやって慎重に努力してきたんだと思うけど、久しぶりに会ったら髪にピンクのインナーカラーを入れていたから、そこに軽さも出てきた証拠じゃないかなって」
渡邉「そんなことも見抜かれているとは(笑)。ロンドンに行ってから、仕事以外でもいろんなことにチャレンジするようになったんです。『何やってるの』って言われることもありますけど、自分が納得できたらそれで良いんだし、今まで誰に遠慮していたんだろうなって」
大日方「そうやって、外見や言葉で周囲にアピールすることで、自分を鼓舞するところもあるよね。大袈裟かもしれないけど、自分の人生を戦っていると、あえて人に言って自分を追い込んで走っていることもあるから。自分のパワーだけじゃ、できないよね」
渡邉「展示をやったときに実感しました。こんなにたくさんの人の手を借りるんだって。まだプレッシャーに感じることのが大きいので、やりたいことを大声で言えるようになる日はまだ遠そうです。(笑)」
大日方「その個展で、香織ちゃんの作品を購入したところからどんどんお互いの共通点が見えてきて、関係が深まってきて。1つ叶えるとさらに、また人間関係やチャンスも広がっていくんだよね」
取材&文・SUMAU編集部 撮影・古本麻由未
撮影場所・モリモト代官山オフィス
渡邉香織
インスタグラム:@foxco_kaori
HP:foxco-illustrations.com
大日方久美子
インスタグラム:@kumi511976