気に入ったアートとの出会いは、人生を豊かにしてくれます。

アートがほしいけれど、どこで買ったらいいのだろう、価格の相場が分からないなどさまざまな不安があるかもしれません。

自分の感覚に合ったアートを手に入れるのにはどうしたらいいのか。アートの買い方や、選び方、楽しみ方などの疑問にお答えします。

東京画廊 代表取締役社長  山本 豊津

Profile

1971年、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。2014年より4年連続でアート・バーゼル(香港)、2015年にアート・バーゼル(スイス)へ出展。アートフェア東京のシニアアドバイザー、全国美術商連合会常務理事を務め、多くのプロジェクトを手がける。


アートに出会うことは人との出会い、AFTでお気に入りの作品を見つける


アートと出会うことは、人との出会いに似ているのかもしれません。好きな絵画に出会った時、新たな感性の扉が開きます。お気に入りのアートを手に入れることは、その人の人生をより豊かなものにしてくれるはずです。そうしたアートに出会うためには画廊に足を運んで購入することになりますが、これだけ画廊がある中、どこで求めていいのか分からない方も多いと思います。初めての画廊には入りにくい、この画廊は本当に大丈夫なのだろうか、自分の感覚に合うだろうか、値段は高くないだろうか、と不安な要素が多くあると思います。

そうした方には「アートフェア東京」(以下:AFT)で、自分のお気に入りのアートに出会うことをアドバイスしたいと思います。世界各地でさまざまなアートフェアが開催されていますが、AFTは国内最大規模で、画廊の出展者数は国内外で約150軒。古美術から現代アートまでジャンルを横断して展示しているのが特徴で、世界的にもユニークなアートフェアです。4000年前の縄文土器から、仏像、茶の湯文化にまつわる作品群、明治の超絶技巧、現代美術作家まで、多彩なアート作品を間近に見ることができます。世界の美術館の学芸員やコレクターも来場し、昨年は来場者数が6万人を超え過去最多となりました。

AFTにはコミッティーがあり、厳しく選別された信頼できる画廊が出展しているので、誰でも安心してアートを購入することができます。仮に1軒の画廊が20点の作品を出展したとすると、3000点ものアートを一堂に見て買うことができるのです。街で1日に何軒もの画廊を巡って、3000点の作品を見るというのはとても不可能なことです。しかし、この会場に来ればそれが可能になり、あらゆるジャンルのアートと出会うことができます。それぞれの画廊が特色のある作品を出展していますので、この機会を利用して自分が気に入る作品をぜひ探してみてください。


さまざまなジャンルの中から自分の感性にあったアートを探し求める

アートフェア東京2019の様子

アートの買い方として、はじめにAFTの会場ですべての作品を一巡して見ていただきたいと思います。3000点もの作品を見れば、何かしら自分の感覚に合ったアートに出会うことができるはずです。1軒の専門画廊で展示されている数少ない作品から選ぶより、3000点の作品に接して選ぶ方が楽ですし、あらゆるジャンルの作品の中から、自分の感性や思考に合ったものを見つけることができると思います。また、価格も買いやすいものから、高額なものまで幅広く展示されていますので、自分の予算に合ったものを気軽に求めることができます。

一通り作品を見たら、その中で3点ほど自分の気に入った作品を選んでほしいと思います。そして自分の気に入った作品を出展しているそれぞれの画廊のスタッフに、その絵のことを聞いてください。質問のポイントとしては、素材、技法、アーティストの意図(コンセプト)の3つになります。説明を受けてみて、ほんとうに自分が納得することができたら購入することをおすすめします。画廊の人とコミュニケーションをとることは大切です。画廊とつながりができると、その後も他のアーティストの展覧会などの情報を提供してもらえますし、画廊に入りやすくなるはずです。

段階を踏んでステップアップしていく、おすすめのアートの買い方

アートフェア東京2019の様子

ある時、絵を買いたいという若い人たち20人から、どうやって絵を買ったらいいですかと聞かれ、まずは5万円という予算で絵を買うことをすすめました。買いやすい金額からスタートして絵と親しむ関係をつくり、そこからステップアップしていく準備をしていくのがいいとアドバイスしています。

父は古美術商でしたが、はじめてのお客さんにはやはり5万円ぐらいの作品を買ってもらって、次は10万円、30万円、100万円というように、段階を上げていく買い方をすすめていました。古美術の場合は壊れてしまうと2度と手に入らいないので扱い方も重要で、その保管方法も教えていたそうです。当然、5万円と100万円のものでは保管する箱も違うし、包んでいる仕覆(しふく)と呼ばれる布も違います。古美術商の人はこうしたことを順番に体験してもらいながら、お客さんを育てていくのが大切だと思っているのです。現代アートは壊れにくいので、そこまで心配しなくていいでしょうが、保管の仕方についても画廊の人から教えてもらうのがいいと思います。

友人を招いてアートをテーマに会話やコミュニケーションを楽しむ

買い求めた絵は家で飾ることになると思いますが、ぜひ友人や知人を集めてその作品を披露していただきたいと思います。画廊の人から絵の説明を詳しく聞いておけば、作品のコンセプトを友人にも説明することができて、会話やコミュニケーションを楽しむことができます。アートは隠して保管する時代から変化し、できるだけ人に見てもらって意見を交換し合うことが大切になってきています。欧米の人は絵を購入すると、ゲストを招いてパーティーを開くほどです。絵を見てもらって、それをテーマにしてみんなでコミュニケーションを楽しむのです。絵の楽しみ方でも東洋と西洋の文化の差を感じます。

日本では女性の方が、男性に比べて絵をテーマにして集まって楽しむことが多いような気がします。普段から家に人を招いて女性同士で料理をつくったり食事をしたりする機会が多いので、そうした場を楽しむことに慣れているのかもしれません。地球上で絵を描いたことがない人はいないと思います。どの国の子どもたちもみんな小さい頃から必ず絵を描いて育っていて、コミュニケーションの手段としても重要でした。ですから誰もが絵の素養や関心を持っているはずです。とくに女性からアートが苦手という言葉を聞いたことはありません。アートを購入したら、たくさんの友人を集めて人に見せる場を持ってほしい。そうしたこともアートの楽しみ方のひとつだと思います。


アーティストの成長を見守るのが、アートを所有する大きな喜び。

アートフェア東京2019の様子

また、アートを購入したら、制作したアーティストのことにも興味をもってもらいたいと思います。近代作家なら初期のものなのか晩年のものなのか、どういう経歴なのか、また同時代にはどういう作家がいたのかなど、1枚の絵を通してアーティストのさまざまな要素を楽しんでほしいと思います。現代作家であれば、展覧会や新作を見に行くとか、その作家の創作活動に関心をもつことで、さらにその魅力に迫ることができます。アートとの出会いは、アーティストとの出会いでもあるのです。

そして、ひとつのアートに出会ったことでの最大の喜びは、その作品や作家の価値がこれからどのように高まっていくかということにあります。最初は無名であってもいつかは一流になるかもしれません。若い無名のアーティストの、これからの作品展開や成長を見届けていくことがアートの楽しみの一つでもあります。

アートをコレクションすることで、文化的で充実した生活をして、生活の質を高めていくことが大切です。アートをとりいれることで、きっと心の豊かさが得られるはずです。ぜひ、AFTでお気に入りの作品に出会って、アートのある生活を楽しんでいただきたいと思います。

(2019年モリモト発行 ”ART BOOK”より再編)

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