「きみって意識高いよね」

この言葉にほんのちょっぴり意地悪な意味が込められていることに数年前から気付いていた。

向上心を持って人生に向き合うと、不思議な顔をされ、見えない線のようなものをひかれてしまう。

自分の人生の舵を取り、ただ自分の足で立っていたい。

だから、努力する。闘う。歩みを止めない。それだけのことなのに。

「君って結構、ガツガツしてるよね。」「イメージと違う。」「仕事人間。」

私自身、これまでの人生で、他者から勝手な“イメージ”を期待され、ものの見事に落胆されてきたことが何度もあった。

そして、そのたびに、ちょっとした生き辛さのようなものを感じてきた。

挑戦やストイックさを好むだけで、違和感を覚えられるのは一体なぜだろう。


『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』は、これまで度々映像化・舞台化されてきたルイザ・メイ・オルコットの自伝的小説「若草物語」を実写化した作品だ。

1860年、南北戦争下の4姉妹の物語は世界中で有名だけれど、ただの焼き直しではなく、自分たちがどのように成長してきたのか過去を振り返りながらストーリーを追っていく視点はとても新鮮だ。

しっかり者で結婚を望む長女メグ(エマ・ワトソン)、

活発で現代的な思想を持つ次女ジョー(シアーシャ・ローナン)、

体の弱いが心優しいピアニストの三女ベス(エリザ・スカンレン)、

人懐っこくも気の強い四女エイミー(フローレンス・ピュー)。

愛情あふれる母親(ローラ・ダーン)らマーチ一家の中で、次女ジョーは女性というだけで仕事や人生を自由に選べないことに疑問を抱く。

ジョーは幼なじみのローリー(ティモシー・シャラメ)からの求婚を断って、ひとりNYで作家を目指す。


今回の若草物語に息吹を与えたのはハリウッドでいままさに地位を確立してきている現在37歳の女性グレタ・ガーウィグだ。

彼女と言えば単独監督デビュー作『レディ・バード』で、女性として史上5人目のアカデミーへのノミネーションを果たしたことでも知られ、あの名匠スティーブン・スピルバーグもお墨付きの将来を期待される存在だ。

さらに今回、特筆すべきは彼女のもとに集められたキャストたち。

彼らこそ、次世代のハリウッドを確実に担う“若草”であるから興味深い。

『レディ・バード』でガーウィグ監督と組んだ若干25歳にしてアカデミー賞にも3度もノミネートされたシアーシャ・ローナンと、レオナルド・ディカプリオの再来とも名高いミステリアスな魅力を放つ美男子ティモシー・シャラメらが主要人物となる。

また今年大注目の女優であり公開中の『ミッドサマー』やMCU作品『ブラック・ウィドウ』にも出演が決まっているフローレンス・ピューや『美女と野獣』のエマ・ワトソン、名優メリル・ストリープらが脇を固める。


本作は、作家を夢見るジョーの瞳を通して描かれる。

女性が自分の職を持つこと自体難しかった時代に、ジョーを中心に描いたところはモダンだった。

当時は女性にとって結婚が最もオーソドックスな就職先で、結婚相手はお金持ちであればあるほど女性は成功を手にしたと言える時代だった。

同時に、女性が野望を持つことは厄介だともされた。

非常に現代的なこれらの問題とそれへの抵抗は、オルコットが掲げた時代から存在していたのだ。 劇中のエピソードや衣装は昔のものだが明らかに“いま”の映画として置き換えて観ることができるから仕事と向き合っている女性にストレートに響く。


ジョーは自分の足で立つことを最大の幸せとして選んだ。

自立と同時に得られるものは、自由。

それは、目には見えない羽が自分の体に生えることと等しい。

羽さえあれば、いつだって好きな時にどこにでも飛び立てる。

若草物語が繰り返される理由、女性の自立は永遠のテーマなのだ。


勿論ひとつの道だけではなく、いくつもの女性の幸せが描かれる。

つまるところ、女の幸せとは一体何なのだろうか?

金銭を得ることか、夫か、社会的地位か、自立か。

答えは、ひとつではない。

しかし、確かな要素のひとつは“自分を愛せるココロを持っているか”だ。

世間体は無視して自分のココロに従えること。

これこそ、最大の幸せであり生きる意味であると確信させる。

幸せの形は人それぞれ。昨今、さらにそのかたちは多様化していると言える。

冒頭で自分の人生について、少し斜めからみてしまった自分がいたが、結局のところ、女の煩わしさへの共感が欲しいわけでも、同情が欲しいわけでもない。

自分の夢に邁進しつづけることも、誰かと暮らすことでも、家庭を作ることでもなんだっていい。

すべての人生を肯定し、すべてのlittle women への賛歌である、愛と教訓に満ちた本作が不朽の名作である理由に気づかされる。

女であること、もどかしさ。喜び。大変さ。

全て描かれながらも同時に、なんと選択肢が豊富な人生だとも思えてくる。

いくつもの幸せが咲き誇るこの物語は、春を謳う祝祭とどこか似ている。

若草は、春を見つける喜びの色。

雪解けの大地にいくつもの草花が芽吹く。それぞれが、誇りを持ってー。


ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語
6/12(金)全国順次ロードショー


映画ソムリエ 東 紗友美(ひがし・さゆみ)

1986年6月1日生まれ。2013年3月に4年間在籍した広告代理店を退職し、映画ソムリエとして活動。レギュラー番組にラジオ日本『モーニングクリップ』メインMC、映画専門チャンネル ザ・シネマ『プラチナシネマトーク』MC解説者など。

HP:http://higashisayumi.net/
Instagram:@higashisayumi
Blog:http://ameblo.jp/higashi-sayumi/

Share

LINK