フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の20回目は、絵本「リサとガスパール」の作者であるアン&ゲオルグさん夫妻が住む、パリ5区のアパルトマンをご紹介します。

Georg Hallensleben(ゲオルグ・ハンスレーベン)/ドイツ生まれ。幼い頃から水彩画に親しみ、大学卒業後はローマで画家として活動を始める。「リサとガスパール」以外に、「ペネロペ」シリーズや「イザベルと天使」(金の星社)、「こぎつねはたびだつ」(ブロンズ新社)など作品多数。

世界中で愛される絵本「リサとガスパール」の作者である、アンさんとゲオルグさんご夫妻。一家がパリ5区のアパルトマンに越してきたのは2019年だった。きっかけは、不動産広告を見るのが好きな親友から送られてきた、一枚の写真だったという。
「友人がこの庭の写真を見て『信じられない、パリにまだこんなものが存在するなんて』と、物件の情報を送ってきたのです」とアンさん。ゲオルグさんはすぐに見学したがったが、アンさんは「絶対に買えないから」と乗り気でなかった。「何か問題があるはずだ、と自分を納得させるために見学に行くと、問題は何もなく、その場で購入を決めました」(アンさん)。

購入の決め手になったのは、約200㎡という広大な庭と、185㎡(2フロア合計)の空間がもたらすゆとりだった。以前のアパートも広く気に入っていたが、3人の子どもたちが成長するにつれ、それぞれの個室が必要になってきていた。

入居に際して、二人は大きな改装に取り組んだ。壁を一つ取り払い、広いリビングを作る一方で、個室確保のための壁も新たに設け、玄関からリビングにつながる廊下も作った。
「見学した時、大きな寝室があって、そこを通らなければなりませんでした」とアンさん。

さらに、ゲオルグさんのアトリエは1階に独立して設けた。以前のアパートではアトリエが間取りの中心にあり、家族全員がそこを通り抜けなければならなかったという。
現在の間取りは2階にリビング、ダイニングキッチン、4つの寝室。1階のアトリエへ室内からアクセスできるよう階段も作ったという。「ここでは家族それぞれが自分のスペースを持てるようになりました」(アンさん)。

工事は3ヶ月で集中的に行われたが、子供たちの新学期が始まる9月に間に合わせるという目標は達成できなかった。家族が住み始めた後もキッチンやバスルームが未完成の時期があり、近くのAirbnbを借りたこともあったという。蛇口が届かないなど、配送のトラブルも相次いだ。段ボールを片付け、本当に落ち着くまでには数ヶ月かかったそうだ。
家具は以前のアパートやイタリアの住まいから使い続けてきたものを愛用。「それぞれに歴史がある、とても大切な家具です」とアンさん。キッチンの設計は、持っている家具のサイズを測って決めたという。「あまり一般的ではないやり方かもしれませんが、家具が収まるようにゲオルグが設計しました」。

19世紀に建てられたとみられるこの建物は、下の部分はさらに歴史があり、後から上階が増築されたそう。「木枠の窓が残る趣のある空間で、気密性こそ高くないけれど、古い窓は美しくて大好き」とアンさん。
家の中で好きな場所を聞くと「キッチンでかなりの時間を過ごします。料理も好きです」とアンさん。「自分のアトリエが大好き」とゲオルグさん。

この家の大きな魅力のひとつは、明るさだ。「以前、マレのアパートに住んでいた時は全くなかったもの」とアンさんが言うように、庭に面した窓から光が入り、一日中室内は明るい。3面に窓があるため風通しも良い。「雨の日でも庭に少し出るだけで、外に出かけたような気分になれます」。

「このアパルトマンはとても静か。隣人の気配を感じず、一軒家に暮らしているようです」とアンさんが表現するこの住まいは、静寂さがありながら街の中心にある。近くにはパンテオン、リュクサンブール公園、植物園など、パリらしい風景が広がる。アンさんは毎日娘と愛犬と共に1時間半〜2時間ほど近所を散歩する。ゲオルグさんも買い物がてら街を歩き、仕事のための写真を撮ることも。この地区の日常が、「リサとガスパール」の舞台となることも良くあるという。

家族の暮らしは仕事と生活がミックスしているそう。ゲオルグさんは一日の大半をアトリエで過ごし、アンさんはキッチンで料理をしたり、寝室で執筆をしたりしながら時間を過ごす。天気の良い日は庭にパソコンを持ち出して仕事をすることも。長女は独立し別の場所に暮らす。平日の夕食はほぼ毎日、ご夫妻と次女、長男の4人でテーブルを囲む。週末は友人が訪れ、賑やかに過ごすことも多いそうだ。
庭の緑を望む光あふれる空間で、ふたりはこれからも物語を紡いでいく。リサとガスパールが次にどんな冒険に出かけるのか、今から楽しみでならない。
撮影/篠あゆみ(Ayumi Shino)
(文)木戸 美由紀(Miyuki Kido)/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。
Instagram:@kidoppifr













