およそ3年にわたるコロナ禍から解放されつつある昨今、やっと国内外を気楽に旅することができる日々が戻ってきた。私自身はプライベートの変化により、思い立ったが吉日!いざ外国へ!なんていう自由は失われてしまったけれど、次の目的地はすでに決めている。この数年で目まぐるしく変化したパリだ。現代アートの美術館となったブルス・ドゥ・コメルスに、16年の時を経てリニューアルオープンしたサマリテーヌ、一般に開かれた旧海軍省オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ。アラン・デュカス後のプラザアテネのダイニングを率いるジャン・アンベールの料理も欠かせないだろう。

とはいえ、やはり通い慣れた名所を通り過ぎることはできない。オテル・ドゥ・クリヨンに泊まって、コンコルド広場を眺め、早朝のチュイルリー公園を散歩し、と夢は膨らむ。今回はそんな見慣れたパリがますます恋しくなってしまうようなベルナルドの器をご紹介する。






トゥパリというシリーズで、一面にパリの名所が所狭しと並ぶ。ノートルダム大聖堂、サクレ・クール寺院、ルーヴル美術館のピラミッド、海の噴水、オベリスク、カフェ。

名前の通り「全部パリ!」



ベルナルドはフランスのリモージュを代表する名窯の一つで、名だたるレストランで愛される器を製造している。シャガールの絵で彩られたコレクション、水泡が煌めくエキュム、平和のシンボルが描かれた19世紀帝政様式のコンスタンスに、日本の修復技術にインスパイアされたキンツギなどバリエーション豊富でモダンなデザインが特徴だ。日本初の旗艦店が青山の骨董通りに昨年末できたことは記憶に新しく、2023年の今年は創業160周年を迎える。私はトゥパリをあえて食器棚に仕舞わず、目に見える場所に置いてインテリアとしても楽しんでいる。

今回この器に合わせたのは、しらすと水菜のペペロンチーノだ。しらすは白い稚魚の総称で、私たちが日常的に手にするものは基本的にはタクチイワシの稚魚である。春と秋に2度産卵のピークがあり、ちょうど今の季節のものはぷりぷりと食べ応えがある。そして骨が発達しておらず、1尾をまるっと食べることができるので、カルシウムが豊富で栄養価にも優れている。しらすはいくつもの呼び名を持っており、たとえば茹で上げて水切りしたものを釜揚げしらす、天日干しするとしらす干し、さらに乾燥させるとちりめんと状態に応じて変わる。ここに合わせるのは京都原産の伝統野菜である水菜。シャキシャキとした歯触りとほんのりした苦味が魚臭さを消してくれる。




また今回は3大珍味の1つのカラスミを仕上げにかけることで、料理全体の美味しさをワンランク上げることを意識した。カラスミはボラの卵巣を塩漬けにしてから塩抜きして、日本酒に漬けて乾燥させたもので、手間と時間をかけて作られる。江戸時代に長崎に伝わり、中国から到来した墨のかたちに似ていたことから「唐墨」と呼ばれるようになった。まろやかな塩気とこくがあって、淡白な料理に合わせると馴染むことが多い。唐墨餅などはその代表例だろう。




今回はペペロンチーノベースで、微塵切りのニンニクを使って手早く調理できるようにしているが、香りがマイルドなものを好む方はニンニクを半わりにしてゆっくりと油をかけながら緩やかに火を入れても良い。辛さを求める方は、唐辛子の量を増やしたり、種を全部抜かずに使用したりと、自分の好みを見つけて欲しい。ニンニクはこのように微塵切りにし、油に浸して冷蔵庫で保管しておくとすぐに使えるので便利。




しらすと水菜のペペロンチーノ

―材料(1人分)

  • スパゲッティ 80g
  • ニンニク 1片
  • 唐辛子 2分の1本
  • オリーブオイル 30ml
  • 水菜 1把
  • カラスミ 適宜
  • 塩 適宜




① ニンニクを微塵切りにする。唐辛子は種を取り3等分にする。オリーブオイルにニンニクと唐辛子を入れて、柔らかい火加減で焦がさないようにオイルに味を移す。焦げると苦味が出てしまうので注意する。


② 水菜は3〜4センチの長さに切っておく。




③ お湯2ℓを沸かして、分量外の塩25gを入れて沸点を上げる。この湯でスパゲッティを所定の時間からマイナス1分茹でる。(パスタの茹で具合はこちらの工程3でもご確認ください)




④ ①のベースに、茹で上がったパスタを加える。茹で汁をとって30ml程度一緒に加えてトングでスパゲッティを何度も混ぜるようにしながら乳化させる。さっくり水菜を加え、しんなりしたら、しらすを入れて、物足りなければ塩で味を整える。




⑤ 器に中央が高くなるようにトングで捻りながら、ふんわりと空気を含むように盛り付けて、上からカラスミを削る。




たとえ唐墨がなくても十分美味しくいただけるので、ぜひお試しあれ。




料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、フランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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