主役になることはないけれど、欠かせない食材というものがある。料理として単体では完結しないが、他の食材と出会うことでかえってそれ自体がイキイキとするようなもの。たとえば味気なかった焼き魚に柑橘の果汁を絞ると、たちまち華やかに、そしてさっぱりいただけるようになる。そういう輪郭をはっきりさせるような食材を使うとき、紅をひくのと似ている、と思ったりする。

ほんのちょっとしたことが大きな違いを生むようなこと。


8月下旬から10月に旬を迎えるカボスは、その代表的な存在である。カボスが登場するのは、日本の歴史の中でも古く、少なくとも300年程前だろうか。昔から大分県の特産品で、今も全国の97パーセントはこの地で生産されている。

カボスというと果汁を使うイメージだが、むしろ栄養価が高いのは皮側だ。かつては庭先で薬用として育てられた時代もあるように、レモンの倍ほどのクエン酸を含むから、疲労回復や美容にも効果はてき面だろう。それならば皮を使わないのは勿体ない! 今回はカボスを主役に、そして洋風に使ってみたい。クリームパスタは冷めると固まりやすいので、出来上がりを熱々でどうぞ。


カボスのクリームパスタ

材料(1人分)

  • スパゲッティ 60g
  • 生クリーム(乳脂肪分36%) 100ml
  • カボス 1個
  • 生ハム 適宜
  • パルメザンチーズ 適宜
  • 塩 適宜

1、生クリームとカボスの絞り汁を火にかけて軽く煮詰める。はじめは、ボコボコしたテクスチャーだが、そのまま火にかけると次第にサラサラしてくる。そうしたら塩を2つまみほど加えて、酸味と塩味を適度に感じる程度の味に調整して、火を止めておく。

2、大鍋に湯を沸かす。ふつふつしたら、湯1リットルに対して10gの塩を加える。(写真では1.5リットルの湯に15gの塩を加えている。)

3、湯が沸いたらスパゲッティを袋に記載されている目安時間からマイナス1分で茹でる。途中、スパゲッティ同士がくっつかないようにほぐす。時間になったら一本取り出して折ってみて、火の通りを確認する。時間の経過とともに写真の左から右のように芯が細くなっていく。右側のほんの少し中心部に残っているくらいが目安。この状態になったら取り出す。

4、温めた(1)のソースにスパゲッティを加え、ゆで汁大さじ2程度(分量外)で濃度を調節する。

5、スパゲッティを器に盛って、生ハム、パルメザンチーズ、カボスの皮を削りかける。

今回使った器は、Maduで手に入れた 作山窯 のもの。そのまま飾っても様になりそうな力強さが印象的で、シンプルな料理がよく映えそうだと一目惚れした。リムが額縁の役割を果たしてくれるので、料理を盛りつけるだけであっという間に絵画のような一皿になる。

Madu(マディ)は「モノとの出会い」「人との出会い」をテーマに、

つくり手とつかい手の間を結ぶ“新たな出会い”をお手伝いするショップです。

ENCOUNTER Madu Aoyama

住所 東京都港区南青山5-8-1 セーヌアキラ1F

営業時間 11:00~20:00(※現在は当面の間19:00まで)

http://www.madu.jp/

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。旅先で出会い、心に残った食べものを再現することが日々の愉しみ。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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